第17話

「先輩……、あの、ボクに何かできることって……」

 うぅ……、言い始めて思ったけど、絶対に何もないよ……。どうしよう……。

「ありがと。何か、心配させちゃったかな……?でも、大丈夫だから。今言ったことは忘れて」

 大丈夫って言うなら、何でそんなこと言ったの?やっぱり、無理してたからじゃないのかな?でも、本当に大丈夫だったら……。うぅ……、どっちなんだろう……?あ!いいこと思いついちゃった。

「そうだ!先輩!」

「な、何?」

「ボクの前では自然体の先輩でいてください!そうしたら、先輩も少しは楽になるんじゃないですか?」

「そうかもしれないね。でも……」

「うぅ、ダメ、ですよね……」

 当たり前だよね……。ボク、何変なこと言ってるんだろ……。さっきはいいこと、だと思ったんだけど……。あぅ……。

「そんなことないよ。そうしてもいいかなぁとは思うよ。もう、色々と話しちゃったし」

「本当、ですか……?」

「うん、その代わり、条件があるけどいい?」

「条、件……?いい、ですよ……?」

 何か、すごいこと言われちゃうのかな……?でも、きっと大丈夫だよね……?

「そんな変な事じゃないから。ただ、敬語と、その『先輩』って呼び方止めて欲しいなぁ、ってだけだから。ダメ?」

 え?呼び方と話し方……?

 ボクが訳が分からず、ぼぉっとしてると、先輩はゆっくりと話し始めた。

「そうやって、敬語で話されちゃうと『生徒会長としてのわたし』が出ちゃうんだ。それに、何か、壁作られてるみたいで、実はあんまり好きじゃないし。だから、ダメ?」

 そう言って先輩は微笑んだ。

「だ、大丈夫です。あ!えと、大丈夫……。これからはタメ口で話すようにする……」

 うぅ……、何か、変になっちゃってるよぅ……。すっごい緊張するし……。あうぅ……。

「うん、ありがと。じゃぁ、わたしのことはこれからは真梨か、ん~、お姉ちゃん?でお願いね」

「そ、そんな……、よ、呼び捨てになんてできないです……、できないよ!だ、だって……、あぅ……、それに、お姉ちゃんも……。あ!あの、真梨さん、とかは……?」

「だったら、ちゃん付けだったら?わたしも竹田さんのこと、涼ちゃんって呼ぶから」

 それって、先輩のことを真梨ちゃんって呼ぶって事?で、でも、呼び捨てにするよりは……。

「は、はい……、真梨ちゃんなら……」

 うぅ……、何か、恥ずかしいよ……。

「うん、それじゃ、これからもよろしくね」

 そう言って、先……、ううん、真梨ちゃんは……、メガネをちょっとだけずらして、上目遣い(?)でボクの方を微笑みながら見た。

 それがすっっっごく可愛くて、思わず、胸がドキドキして、たぶん、顔が真っ赤になっちゃってるよ……。

「は、はい……。ボクの方こそお願いします……?」

「あぁ、元に戻っちゃってる」

「え?あ!ごめんなさい……。えと、気を、つけるね……?」

 あぅ……、やっぱり、緊張するし、変な話し方になっちゃいそうだよぅ……。先輩……、じゃなくて、えと、真梨ちゃんに嫌われちゃったらどうしよう……?

「そんな、緊張しなくてもいいよ?自然体で。わたしも、涼ちゃんも」

 そう言って真梨ちゃんは、伸びをして机に伏せちゃった。いつもしっかりとしてるのに、何か、すっごい違和感あるけど、それは今までのが演じてただけ、だからなんだよね?うん、もしかして、こんな真梨ちゃんをボクが独り占めできるのかな……?

「あの、こんな真梨ちゃんを知ってるのって、ボクだけ?他にもいたりするの……?」

「ん~、どうだろ。中学時代を知ってる人もあのイメージを信じちゃってるからなぁ……。でも、明日香は……、って、明日香は中学時代からの親友ね。涼ちゃんにとっては雪村さんかな。その明日香だけは昔のままかな……」

 他にもいたんだ……。でも、ボクにとってナナみたいな人?だったら、仕方ないのかな……?

「でも、わたしから言ったのは涼ちゃんが初めてかな?」

 真梨ちゃんはそのままの体勢でボクの方を見て、笑いながら言った。そんな真梨ちゃんもほんと、素敵で、何か、今日は胸がキュンってなるのが多いよ!

「ボクが初めてなんて、何か、嬉しいな。だって、二人だけの秘密、みたいで……」

「そうだね。それじゃ、これは二人だけの秘密、で」

「はい!」

 でも、先輩だけ言って、ボクは何もしなくていいのかな……?でも、ボクの秘密って、アレしかないよね……?でも、これを言うと、真梨ちゃんのことを好きって言わなきゃいけない……?そうしたら、もう真梨ちゃんとは……。でも……。

「あの、真梨ちゃんが言ってくれたから……、あの、えと……、その、ボ、ボクも……」

 うん、真梨ちゃんへの気持ちは言わないけど、それ以外はちゃんと言おう!きっと、真梨ちゃんなら大丈夫だから……。

「無理、しなくていいよ?わたしが勝手に言っただけなんだし。それに、涼ちゃんにはすでにちょっと見られちゃってたしね」

 真梨ちゃん……、でも、ボク……、うん、やっぱり言わなきゃ……。

「あの、ボク……」

 思い切って言おうとして、でも言えなくて……、どうすることもできずに真梨ちゃんの方を見ようとした瞬間、ギュッて、抱きしめられた。あれ?いつの間に……?

「え……?あの……??」

 すっっっっっごい、嬉しいんだけど、な、何で……?ボク、どうしたらいいの……?離れた方がいいの……?このままでいいの……?

「わたしにでいてほしいんでしょ?だったら、涼ちゃんもでいなきゃ。だから、そうやって無理したらダメ。ね?」

 真梨、ちゃん……。でも、ボクが何も言わないのは……。でも、そうやって言おうとしたからまた戻っちゃった……?さっきまでの自然体と雰囲気違うし……。もしかして、ボクのせいで無理させちゃってる……?

 だったら、言わない方が……?そっちの方が嫌われずに済むんだし……。言っちゃったら、嫌われちゃうかもしれないんだし……。ううん、絶対に離れて行っちゃうよ……。今までだって……。ナナだけは違ったけど、みんな、そうだったし……。

 でも……。うぅ……どうしたら、どうしたらいいの……?

「ぅ……、せ、先ぱぁい……うわぁぁん」

 気付いたら、ボクは先輩の腕の中で泣いていた。先輩は優しく、何も言わないで、そっと抱きしめてくれてて……。本当なら嬉しいはずなのに、その優しさがまたすっごく辛くて、涙がまた余計にあふれ出してきて……。

 でも、ボクはその優しさに甘えることしかできなくて……。ずっと、先輩は頭をなでて、ボクが治まるのを待ってるみたいで……。それなのに、ボクは……。

 いろんな事が頭の中でぐちゃぐちゃになって、どうすることもできなくて、しばらくそうして泣いていたら、チャイムが鳴り始めた。その瞬間、なぜか気持ちがあふれ出してきて、その音が鳴り響く中、ボクは───


「……好き、です…………」


 耳元で、小さな、本当に小さな声で先輩に告白をした。すぐそこにある先輩の耳にも届かないくらいの本当に小さな声で……。

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