第16話

 翌日の放課後、ボクは先輩と一緒にまた生徒会室で勉強を始めた。今日は何故か先輩はメガネで、何だかいつも以上にドキドキした。

 数学は後にして、もう1つの大大大嫌いで、苦手な英語をやることにした。でも、全然分かんなくって、先輩にずっと教えてもらってた。先輩と一緒にいる、って実感できてすごい嬉しかったけど、先輩の勉強の邪魔をしてるんじゃないかなぁって思い始めた。

「あの、ボクって先輩の勉強の邪魔してますか?」

 だから、思い切って聞いてみた。

「大丈夫。わたしは家でもしっかりやってるから」

 笑顔でそう言ってくれた。やっぱり、先輩優しい……。笑顔も素敵だし……。

「先輩って、本当、すごいですよね。キレイだし、優しいし、勉強もできるし……。部活だって、生徒会のお仕事もあるのに……。しかも、全部ちゃんとやってるんですから……」

「ちゃんと、かぁ……。そう見える?」

「え?は、はい。先輩はちゃんとやってると思いますよ……。ボクなんか全然なのに……」

 でも、どうしてそんなこと聞くんだろう……?

「ありがと。でもね、そう見えても実際は全然ダメ、そう言ったらどうする?」

「どうもしません!それでも先輩は先輩です!それに、先輩がダメだなんて事はないと思います」

「そうでもないんだよ。勉強だってたまたま。部活もあの大会の記録も偶然なんだし……。それに、わたしはって器じゃないんだよ」

「先、輩……?」

 急にどうしたんだろう……?

「ごめん、変なこと言っちゃって。今日は勉強なんだから、集中しよ?」

「はい……。でも……、何か、あったんですか……?」

「ん?大丈夫。何もないから。ただ、たまぁに、わたしには向いてないのに、って思うときがあるだけ」

「そう、なんですか……?でも、ボクは先輩以外にはいないと思います!だって、『欠点がないのが欠点』とか言われてるんですよ?」

 そう言うと、先輩はまた寂しそうな表情で笑った。ボク、変なこと言っちゃった…?

「それ、か……。みんな、それを信じちゃってるんだよね……。全然そんなんじゃないのに……。わたしにも欠点くらいあるよ?」

 やっぱり、先輩、様子がおかしいよ……。何かあったの……?

 ボクが黙ってると、先輩は1人で話し始めた。ボクに対して、と言うよりは本当に独り言をしゃべってるように。

「テストも部活の結果も全部偶然。なのに、みんなそれを当たり前にわたしがやってるって思ってる。全然違うのに……。必死で頑張って、それでやってできてるだけ……。それに、欠点だってわたしにはたくさんある。なのに、誰もそれを見ない……。本当のわたしとみんなの中のわたしがどんどん離れて行っちゃって……。なのに、周りの期待に応えようって思って頑張って……。それで、また期待が高まっちゃって……。本当、悪循環なだけなのに……」

「先、輩……?」

 先輩の様子がおかしくて、話しかけたら、ボクがいたことを今知ったように一瞬驚いてた。

「あ……、何か、恥ずかしいとこ見せちゃったかな……。えぇと、今のは忘れて。うん、今は勉強だよ、勉強」

 そう言って先輩は笑いかけてくれたけど、さっきの話を聞いたからか、無理してるような気がした。だから、ボクは思ったことをそのまま伝えた。

「それでも、先輩はすごいと思います」

 ボクが思い切ってそう言うと、先輩は驚いた顔をした。

「ボクは、先輩みたいにいろんな事はできなくて、だから、期待とかそう言うのは分かんないんだけど……。でも、ボクが先輩みたいな立場だったら、きっと、ううん、絶っ対に逃げ出しちゃいます。なのに、先輩はちゃんと逃げずに頑張ってるからすごいと思います」

 先輩はしばらく何も言わなかった。呆然としたようにボクの方を見てた。何か、恥ずかしくて、視線を先輩から外して、何か言おうとしたら先輩が話し始めた。

「ありがと。そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ。でも、わたしはそんなんじゃないから……。ただ、嫌われたくないだけ。だから、逃げ出せない、周囲の期待通りの自分を演じちゃう、そんな弱い人間なんだよ」

「そんなこと……ないと思います……。ボクなんて、どんなに頑張っても先輩みたいにはできないですし……。だから、その、えと……」

 うぅ……、何かもっと言わなきゃ、って思うんだけど何を言ったらいいの……?

「いっそ、わたしも竹田さんみたいだったらよかったのかな……」

「え?ボ、ボクみたいに、ですか……?ボクなんて、本当に何もできないですよ?」

「うん、だから。って言ったら竹田さんに失礼かな……?でも、そうやって最初からできない、無理、って思って逃げ出してたらこんなことで悩む必要もなかったのかなぁ、って思って……」

 先輩が苦しんでるなんて知らなかった……。でも、ボクには何もできない、のかな……?

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