第15話
それで、2人で購買横の自販機へ向かおうとしたら、ドアが開いた。あれ?と思ったら、
「牧野、まだやってくのか?」
知らない先生が入ってきた。
「そのつもりですけど、何か用事でもありましたか?」
「いや、ちょっと急用で出なきゃいけなくなったんだが……」
「そうですか、では、今日は終わりにしますね」
「悪いな、牧野」
「いえ、決まりですから」
そう言って先輩は話しにまったくついていけなかったボクの方を向いた。
「そう言うわけだから、今日はこれで終わりみたい」
「え?は、はい……」
ボクは何でなのかよく分かんなかったけど、荷物をまとめ始めた。
そうして、2人で生徒会室を出て、先生の姿が見えなくなってから先輩に聞いてみた。
「あの、先生がいないと帰らなきゃいけないんですか?他の先生はいるんじゃ……?」
「あれ?今日ホームルームで聞かなかった?教室以外で勉強するときの条件」
いつも、ホームルームとかちゃんと聞いてないから分かんないけど、言ってたのかなぁ……?でも、聞いたって言ったらこんなの聞くのは変だよね……?
って、そんな風に考えてたら先輩が話し始めた。
「先生が忘れたのかな?じゃぁ、教えてあげる。簡単に言えば、部室を使う場合は部の顧問、わたしの場合は生徒会顧問の平野先生、に使いたい日は毎日許可を取るの。それから、終わったらちゃんと連絡をして、戸締りをするのが条件。分かった?」
「はい。でも、何でそんなに面倒なことをするんです?」
「ん~、勝手にいろんなところを使っちゃうと、先生たちも戸締りができないでしょ?だから、こうなったのかな……?」
「先輩でも分からないんですか?」
「うん……、ほら?さっきも話したと思うけど、去年の生徒会が決めたことだし……」
あっ、また何か寂しそうな表情だ……。何かあったのかな……?
気になったから、思わず、先輩に聞いてみた。
「その前の会長さんと何かあったんですか?」
「え?」
先輩は驚いてた。
「何か、寂しそうな顔だなぁって思って……」
「その、大したことじゃないの。ただ、彼はその……」
そこまで言って先輩は口ごもった。
でも彼ってことは、男の人……。もしかして、先輩と付き合ってたとか……?うぅ……、想像しただけで辛いよ……。
「わたしの幼なじみ。それと、わたしの初恋の相手、かな」
「そう、なんですか……」
「そう。今は東京の大学に行っちゃったんだけど、卒業式の日に告白してフられちゃったの。だから、そんな表情してたのかな……。自分では立ち直ったつもりだったんだけどね」
そう言って、先輩はボクに優しく笑いかけてくれた。でも、まだ、ちょっとだけ寂しそうで……。
「…………」
何か言わなきゃ、って思って口を開いても何も言葉が出てこない……。どうしよう……?
「そんな深刻な顔しなくても大丈夫だよ。わたしは本当に平気なんだから」
「……はい……」
何か、逆に先輩から心配されちゃったよ……。
「それより、竹田さんは好きな子とかいるの?」
「えぇぇっ!?あ、あの、その……」
き、急にそんなこと聞かれても……。ボクが好きなのは先輩で、でも、そんなことは言えないし……。言ったらきっと先輩はボクから離れて行っちゃうし……。うぅ……、どうしよう……?
「あっ、その反応はいるね。どんな子?」
「あぅ……、えと、あの、その……」
先輩を前にして言える訳ないよ!女の子が好き、って分かったら絶っっ対に引かれちゃうし……。でもでも、誰か男子の事を言うのもイヤだし……。うぅ……、どうしたら……。
「あ!そ、そうです、ボクに好きな子なんていません!」
こう言えば、きっと、大丈夫。でも、たぶん、顔も赤くなってるし、バレてないかな……?
「そっか、いないんだ」
あれ?先輩?信じた?
「でも、いつでも相談には乗ってあげるから、その時は話してね」
「ぅ、はい……」
ボクが嘘言ったの気付いてるよ……。それでも、ボクのことを思って気付かない振りしてくれてるよ……。
やっぱり、先輩、すっごく優しい……。ますます好きになっちゃう!
「でも、竹田さん可愛いし、モテるでしょ?」
「そ、そんなことないですよ!告白されたこと、ないですし……。それに、告白しても……」
いつも振られちゃうのは相手が女の子だからなんだけど……。でも、告白は一度もされたことないって言うのも本当だし……。
「そうかなぁ……?わたしが男子だったらきっと、竹田さんのこと放っておかないのになぁ……」
「ほ、本当ですか?先輩にそう言ってもらえて、ボク、嬉しいです!」
あ!もしかして、今告白したらOKもらえちゃうとか……?って、そんなはずはないよね……。きっと変な目で見られちゃうだけだよね……。だって「わたしが男子だったら」だもんね……。
でも、そんな風に言われるなんて、夢みたい……。
「本当、竹田さんって表情がころころ変わって可愛いよね」
せ、先輩に可愛いって……可愛いって言われちゃった……。
「顔、真っ赤だよ。そんなに照れなくてもいいのに」
「は、はい……」
そんなの無理だよぅ……。だって、先輩が……。あぅ……。
「あ、そうだ」
ボクが立ち止まってたせいで、少し前にいた先輩がくるり、と回りながら話し始めた。
「明日からも授業が終わったら竹田さんの教室まで行こっか?でも、今日の調子じゃわたしなんていらないかな?」
そう言って笑いかけてくれる先輩はとても素敵で、思わず見とれちゃう程で……。だから、ずっと黙ってるボクに近付いてきても、話しかけられるまで気付かなかった。
「ん?竹田さん?」
「へ?あ、えと……、あの……、あ、明日からも、お願いしましゅ!」
うぅ……焦ったよ……。てか、今、ボク、噛んじゃったよね……?うぅ……。
「じゃぁ、また明日ね」
「はい……、また明日……」
先輩はそのまま手を振って1人で昇降口の方に行っちゃった。毎日一緒に帰れるかなぁとか思ってたのに……。
もしかして、ボク、先輩に無理させてる……?ほかに用事があったのに、ボクに付き合ってくれてるとか……?
もし、そうだったら……、でも、そんなこと、先輩に聞けないし……。どうしよう……。
そんな事を考えながら、歩いて、靴を履き替えて、学校を出ようとしたところで、前の方に先輩が見えた。その隣には可愛い人がいた。後姿だけだけど、雰囲気がすっごく……。
友達……?でも、ボクと別れてあの人と……。何か、嫉妬しちゃうよ……。でも、2人とも可愛くて、並んでると画になるって言うか、すごく釣り合ってるし……。でも、ボクは……。
って、何暗くなってるの!?こんなんじゃダメ!ナナに見られたら笑われちゃうよ!「元気しか取り柄がないのに、暗くなったらどうすんの?」ってきっと言われちゃうよ!うん、なんか、本当に言いそうだよね、こんなセリフ。
うん、なんか、元気出てきたし、明日もまた頑張ろう!
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