第8話

「そう言えば、竹田さんは普段はどこで服とか買ってるの?」

 そんなことを考えてたら、突然、先輩が振り返ってきて聞いてきた。

「えと、お小遣いとかあんまりないから、その、安いとこでしか買えなくて、駅前の……」

「あっ!あそこ?」

 ボクが言い切る前に先輩がそう言って、指さした先にはちょっと高そうなショップが……。

「ち、違います!あんな高そうなとこじゃなくて、家の方のです!」

「あ、そうなんだ、ごめんね。でも、あそこって意外と安くていいものあるよ?試しに行ってみる?」

「え?あ、は、はい!」

 ボクが答えると、先輩は1人でお店に入って行っちゃった。ボクも慌てて店内に入るけど、何か、今日の先輩、いつもより活発な気がするよ……。

 店の中はやっぱり何だか高そうでうろたえてると、先輩がワンピースを持って近づいてきた。

「ほら、このワンピース、今日の竹田さんのと似てない?だから、さっき、この店かなぁ、って思ったんだ」

 そう言って見せてくれたワンピースは本当に似てた。

「本当に似てますね……。でも、ボクのとは違いますよ……」

「そうだね、実物見たら全然違ってた」

 そう言って恥ずかしそうに笑う先輩も本当に素敵だった!胸がキュンってなって、顔を逸らしちゃうくらい!

「竹田さん?」

 逸らした方にのぞき見るように先輩が顔を向けてきた。

 どうしよう?今、顔が絶対赤くなってる!

「な、何でもないですよ!」

 思いっきり手を振って言ったけど、絶対に今の行動怪しいよ!先輩に変な子だって思われたらどうしよう!?

「竹田さんて面白いね。でも、そんなに慌てると危ないよ?」

 えっ?と思ったら、手が棚に思いっきり当たっちゃった……。

「大丈夫?」

「は、はい……。痛いけど、大丈夫です……」

 先輩の前で恥ずかしいよぅ……。せっかく先輩に会えて2人っきりなのに……。

「何か、竹田さんって子犬みたいで可愛いね」

「えっ?」

 突然、そんなことを言われて、ボクは驚いて聞き返しちゃったけど、これって、喜んでいいのかな?どうなのかな……?

「何かね、いつも元気だし、表情もころころ変わって可愛いなぁ、って」

 な、何か、先輩にそんな風に言われると照れちゃうよ……。

「一日見ててもきっと飽きないんだろうなぁ……。妹にしちゃおうかなぁ?」

「えぇっ!?ボ、ボクが先輩の妹ですか!?そんな……、えぇと……い、いいんですか!?」

「そんな真剣に答えられると困っちゃうんだけど……。うん、でも、本当にできるならしてみたいかな」

 せ、先輩の妹……。もし、そうなったら毎日一緒だよ!それに、先輩と同じ部屋で寝たり……。

「えぇと、わたしの妹になるので、そんなニヤケるようなことある?」

 もしかして、ニヤケてた……?ど、どうしよう……?

「それだけわたしも慕われてるって事なのかな?」

「は、はい!そ、そうです!憧れの先輩と一緒にいられると思うだけで嬉しいんです!」

「ありがと。手ももう大丈夫そうだし、買い物の続きしようか?」

「は、はい!」

 あっ……今ってお店の中でお買い物の途中だったんだ……。先輩とのお話ですっかり忘れてたよ……。

 先輩は離れて行っちゃったし、ボクはどうしよう……?ボクも見てみようかなぁ……。でも、値段はどうなんだろう……?

 値札を見てみると、意外と安いみたい。これならボクでも買えるかな……?

「竹田さん、これとか似合うと思うんだけど、着てみない?」

 色々考えてたら先輩が服を持ってきてくれた。

「わ、わざわざ選んできてくれたんですか!?」

「そうだよ。だって、今日は竹田さんの服を見るんだから」

「あ、ありがとうございます!えと、折角なので試着してみます!」

 先輩が選んでくれた服、それをしっかりと抱き抱えて僕は試着室に入った。

 本当は、この服を持ってるだけですっごいニヤケそうだったんだけど、何とか我慢できた、かな……?でも、もうダメ!先輩が、ボクのために選んでくれたんだよ?もう、それだけで……。

 って、早く着替えないと!先輩も待ってるだろうし、早く先輩に見せたいし!

 で、慌てて着替え始めたんだけど、何か、サイズが大きい……。ぶかぶかだよ……。

「あ、あの、先輩?」

 試着室から顔だけ出して、先輩を呼んでみた。

「あっ、着替え終わった?どう?」

「素敵、だとは思うんですけど、あの、サイズがちょっと大きいです……」

「ご、ごめん!つい自分のサイズで取ってた!えぇと、竹田さんはSでいいかな?」

「は、はい」

「ちょっと待っててね」

 慌てて服を取りに行ったけど、何か、そんな先輩って珍しいな……。それに、何か、先輩の顔が赤くなってるような……。ミスして恥ずかしいのかな……?

 でも、そんな先輩はすっごい可愛い!いつもの感じとは全然違うんだけど、その分余計に可愛く見えるよ!

 なんてことを考えてたら、先輩が近づいてきた。

「ごめんね。はい、お待たせ。今度はサイズ、大丈夫なはずだから」

「は、はい」

 先輩は僕に服を渡すとすぐに立ち去って行っちゃった。

 その後もしばらく先輩を眺めていたかったけど、試着室に戻った。

 そして、改めて着替え終わって鏡を見てみると、すっごい可愛い!ボクが、じゃなくて、服が、ね。

 早く先輩に見てもらわなきゃ!

「先輩!終わりましたよ!」

「あっ!やっぱり、竹田さんにはこういうのが似合うね。うん、可愛いよ」

 ボクの声に気付いて、先輩がそう言ってくれた。先輩が選んだ服だけど、「可愛い」って言ってくれてすっっっごい嬉しい!けど、何か、照れちゃうよ……。

「竹田さん、顔赤いよ?照れちゃった?」

「は、はい……。だって、先輩に可愛い、って言われましたし……」

 うぅ……、しゃべっててもどんどん顔が赤くなってるのが自分でも分かるよぅ……。

「ボ、ボク、着替えますね」

 うぅ、恥ずかしくって、逃げちゃったよ……。先輩、気を悪くしてないかな……?

 とりあえず、早く着替えて先輩のところに戻らなきゃ!

「竹田さん、急がなくてもいいからね」

 ドア越しに先輩がそう優しく声をかけてくれた。

「は、はい!でも、お待たせするのも悪いので、すぐに着替えます」

「わたしは店内見てるから気にしないでいいよ」

「は、はい……」

 返事はしたけど、先輩は店内を見て回ってそうだった。離れてく足音が聞こえたから……。

 そのまま、先輩が遠くに行っちゃいそうで、すっごい不安になってきちゃったよ……。先輩、大丈夫だよね……?

 今は早く着替えて先輩のところに!

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