第3話

 学校に着くと、朝練中の部活の姿が見えてきた。もちろん、その中には陸上部の姿も。そして、先輩の姿も当然あって。

「あっ!ナナ、あそこ、先輩だ!」

 思わずテンションが上がっちゃった!やっぱり、先輩、綺麗だなぁ……。

 普段は下ろしている長い綺麗な髪も今は後ろで束ねて、ポニーテールにしていて、いつもの感じとちょっと雰囲気が違って、それがまた魅力的で……。

「そりゃぁ、朝練中だから会長もいるでしょ。そう言えば、涼は何で会長のこと先輩って呼んでるの?」

「……えっ?へ、変かな?」

 先輩の魅力に見とれてたから、一瞬言葉に詰まっちゃったよ……。

「だって、会長より先輩って言った方が距離が近いような気がしない?だから、ボクは先輩って呼んでるんだけど……」

「ふぅん。意外にも理由あったんだ」

 何か、感心されてるけど、それってバカにされてる様な気がするんだけど、ナナ?これって気のせいかな?

「涼?あっ、もしかして気付いた?わたしが涼をからかったの」

「やっぱりそうなんだ!ひどいよ!ボクは真剣なんだからっ!」

 そんなに楽しそうに笑いながら言わないでよ!本気でヘコみそうだよ、ボク……。


 そんないつも通りの登校のあと、イヤぁな授業も全部終わって、とうとう部活の時間!

 足の遅いボクが陸上部なんて大丈夫かなぁ、とか心配もたくさんあるけど、今は先輩との時間を想像するだけですっごい幸せ。

 先輩と話できたらいいなぁ……。それが無理でもせめて近くに行けたらなぁ……。あっ!でも、他に先輩を狙ってる人がいたら……。ボクなんかじゃ勝ち目ないかなぁ……。


「涼?着替えたんなら早く行くよ」

「待ってよぅ、ナナ!」

 1人で先に行っちゃったナナを追いかけるけど、ナナは全然待ってくれない。急がなくったっていいのに……。ナナの意地悪!

 でも、陸上部の集合場所に着くと、みんな集まっててボクたちが最後だった。

 うっ……、すごい人だよ……。これ、みんな陸上部?ジャージの色を見るとほとんどが一年生っぽいんだけど……。

「はぁ、今年は入部希望者が多いな」

 そんなことを考えてたら顧問の先生(?)が話し始めた。やっぱり、みんな一年生なんだ……。

「あぁ、俺は顧問の原だ。こうやって集まってくれたのは嬉しい。やる気さえあれば動機は何であれ歓迎する。その代わり、練習は真剣にやれよ」

 うぅ……、何か、この先生怖いよ……。

「とりあえず、一年は各自ストレッチ、ニ、三年はいつも通りの練習から始めろ。あ、それから、部長と牧野は話があるからちょっと」

 そう言って先生は立ち去ったけど、ボクはどうしたらいいの……?ストレッチとか言われてもしたことないし……。

 周りを見ると……、みんなやってるよ……。ど、どうしよう……?

「涼、わたしたちもやるよ?」

「そ、そうだね」

 ナナがいてくれて本当に助かったよ……。

「ありがと、ナナ」

「?」

 ナナは何でなのか分かんないような顔してるけど、ナナのお陰だし、お礼はちゃんと言わなきゃね。

 ストレッチをしながら、ボクは先輩をずっと見てた。先生と話し終わって、部長と2人で他の部員のところで何か話してるときもずっと。それでやっぱり思った。先輩ってやっぱりすっごい美人だよ!それでいてスタイルもいいし、ボクとは正反対で憧れちゃうよ…。

「会長のことを見るのはいいけど、部活はしっかりやりなさいよ」

 うぅ……、ナナに注意されちゃったよぅ……。

「頑張るよ……」

「今回は口だけじゃなくてちゃんとやってよ。涼のせいでわたしも先生に目を付けられるのはイヤなんだから」

「そ、そうだね。部活に入れば先輩との時間は増えるんだから、今は部活に専念しないと!」

 ナナと話していたら、先生がこっちに近付いてきたよ……。話してたこと、怒られる……?

「全員、集合!」

 よかったぁ……。これから始まるんだね……。頑張らないと!

「全員でアップの外周のランニング。一年はコースが分からんだろうから上級生について行くように。その後は短距離、長距離に別れて練習。メニューはさっき部長と牧野に伝えたから従うように」

 それだけ言って先生はどこかに行っちゃった。ちょっと怖い先生だったからいなくなってちょっと安心かな……。

「軽く走るから遅れずに付いてきてね」

 先輩がボクたちにそう言うと、部長と他の先輩たちが走っていった。ボクたち一年はその後に続いたけど、その後ろには先輩が!

「ナナ、後ろの方に行かない?」

 小声で言ってみたけど、ナナはこっちをちらっと見ただけで何も言わないで走り続けてる……。うぅ……、ボクの考えてる事なんて分かってるんだろうけど……。でも、返事くらいしてくれてもいいじゃん!

 でも、1人で後ろに下がる勇気はないからボクも一緒に真ん中くらいのところを走るけど……。

 でも、次第にボクは後ろの方になっていった……。わざと、じゃないよ?だって、みんな速いんだもん!

 こんな速度じゃ付いていけないよ!て言うか、どれだけ走るの?外周って学校の外のことだったなんて……。うちの学校広いんだからこんな距離無理だよ!

「頑張って」

 そんなことを考えてたらいきなり後ろから声をかけられた。振り返ると……先輩?えっ?何で?気付いたら一番後ろに来てた?

「あ……、は、はい!」

 先輩に声をかけられたのにそれだけしか言えなかったよぅ……。でもでも、今はついて行くので必死だし……。気付いたらナナの姿も見えないし……。

「うん、その調子」

 先輩の笑顔が近くに……。すっごいドキドキする!でも、今は頑張らなきゃ!一番後ろに来ちゃっただけで離されてはいないんだし!

 それに、先輩に応援されたんだから!

 そう思うと何か、楽になったよ。さっきまでは付いていくのが必死だったのに何でだろう……?

 でも、これできっと大丈夫!

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