配列02-3 / 偶像セカンド

千代田アオイに声がかかったのは、ちょうどアオイがアルバイトを終えた直後のことだった。

アイドル業は一日にしてならずだ。そもそもアイドル業のみで食べていけるほどの実力も知名度も今のアオイやアカネにはなかった。アイドル活動の傍らで、アオイはライブハウスのスタッフアルバイトを、アカネはカフェ店員として働いていた。場所は違えど、煙草臭い空間に身を置いているのはお互い様なのである。最初のうちは煙が嫌だと愚痴を言い合ったりもしたが、今では仕事内容含め慣れたものだ。

「ちょうど1ヶ月後さ、ウチでライブするアイドルがいるんだけど」

「アイドルが?」

珍しいことだった。来る者拒まずのスタンスでやっているライブハウスだが、アイドルがライブをやるというのは聞いたことがなかったし、もちろん見たこともなかった。

「ロックのヒロインって設定らしくて。だからライブハウス。んで、ライブをやることになったもののベースをやれる人間が集められてないみたいで。青ちゃんって昔ベースやってたよね? だからできればって思うんだけど、どう? 誰かいたら教えてください! ってアイドル本人から言われててさぁ」

「昔の話ですよ。そんなに上手くなかったし、私なんか」

「いやーいいのいいの。本人が歌いながらバッキングで演れるレベルに合わせた曲ばっかりだし、ベースはだいたいルート弾きだし。何より青ちゃんの本業も知ってもらえるチャンスじゃないかい?」

「はぁ。まあそれくらいなら」

本業を知ってもらえるかどうかについては興味はない。ベースを演るのとステージで踊るのは全くの別物だからだ。

「助かるよ! 次のシフトまでに詳細聞いておくから。デモ音源と譜面あればいいかな?」

「それで大丈夫です」

楽器には久しく触れていない。硬いままの指先は、未だ感覚を忘れていないだろうか。……って言ったって、大した腕ではなかったけど。

ベースに触れることは廃棄したごみを掘り起こすみたいな感じがして、ちょっと嫌だった。

……今の私はバンドマンじゃなくてアイドルだ。どっちも採るという選択肢は、今の私には考えられない。




でも。


私……どうしてアイドルになったんだっけ。


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