配列05-3 / 月の影

それからというもの、日中は仕事、夜は朱穂と過ごす日々が続いていた。驚くことに三日三晩もの間、朱穂が自宅に帰らなかったこともあった。

昼間の自分と夜の自分が著しく乖離していることに、激しく違和感を覚える。……昔もこんなギャップに酔い痴れていたっけ。今とはだいぶ違っているけど。

太陽と月のように。

今ではもう裏表を作りすぎたら疲れてしまうし、昼間はせいぜいどこかに拵えた仕事用切り替えスイッチが押されるのを待つばかりだった。

というのも、朱穂と接しているうちに抱いた気持ちの一つだ。朱穂は結局、私に自分のことを話していない。それは私にはできないことだ。だって私は事あるごとにその日あったことを朱穂に話してしまう。酒が回ればなおのことだ。そして私もまた朱穂について聞くことを躊躇ったまま。

誰かが壊さなければ、きっと幸せの空間を保ち続けることができるだろう。

……幸せ、だなんて。

ばかじゃないの、私?

そんな恥ずかしい言葉、どこで覚えてしまったんだか。何に感じてしまったんだか。

喫煙室で紫煙をぼんやりと眺めていると、

「おつかれさん。だいぶ溜まってるんじゃないか?」

またあの春日井だった。

「お疲れ様。溜まってるって、何が?」

「疲労が、だよ。なーに勘違いしてんだ」

「はっ、はあ?」

つい声が上擦った。別に勘違いなんてしてないのに。

「心ここに在らず、って見えるな。気のせいだったら悪いけど」

「まあ、間違いじゃないと思う」

仕事は、パターンを覚えさえすれば同一のルーチンで淡々とこなすことができる。こういう時はこう、こうなったらこう、そんなものだ。

だからか、余計に仕事に身が入らないのもあった。

自分のことばかり考えている。もっと言えば、プライベートの側面ばかりに思考を侵されている。つい勢いよく煙草を吸い、少しむせた。

「彼氏とトラブル?」

「彼氏とか興味ない」

「ああ、そう。そういや評価面談控えてるだろ。意外と見られてるから、今からでも切り替えていこうぜ」

やんわりと、ちゃんと仕事しろよ、ということを春日井は言った。

体良くいられることはできるけれど、常に完璧でいることは難しかった。事実揺らいでいる今は、春日井くらいの遠い距離から見ていてもおかしいと思えるもの。

同じチームの人間だったら、私のこと、どんな風に見てるんだろう。密かに陰口なんか叩かれてるかも。……最近だらしないよね、とか、ちゃんと下の人間のことも考えてスケジュール組んでよ、とか。

……まあ、いいか。

何も解決していないけれど、あまりにもシンプルな一考。

「ありがと。気をつける」

春日井は真面目なやつだ。私とは違って、人間ができている。

少しだけ眩しかった。





夜。

静かな夜に、カラン、と氷が擦れた。

……家に帰ろう。

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