第9話 調査隊、敵を制圧す?



 帝国軍を鎮圧したその後も、私は止まる事なくウエダに向かって走り続けた。



「流石ですね。でも『お友達』にはそんな事できないでしょ?」



 一部始終を眺めていたウエダはそう言って、ジョゼを盾に後ろへ下がった。


 そしてジョゼ自身も長剣ロングソードを構え、無言で私に応戦するような姿勢をとっている。



「ジョゼぇぇえッ! 歯ぁ食いしばっとけよぉッ!」


「なッ! アナタの一撃を食らえばジョゼさんは死んでしまいますよッ!?」


「そんなん知るかッ!」



 私は右の拳に力を込める、するといつも如く拳が光り始める。



「しょうもない事に巻こまれやがって! ウチ、直々の鉄拳制裁やぁぁあああッ!」


「…………」



 ジョゼは無言で長剣ロングソードを振り下ろす。


 私はそれを鮮やかにかわし、懐に入り込んで前拳下突きアッパーパンチを叩き込んだ。



 ピキッ……



 拳が肉に当たる鈍い音と共に、何かが割れる音が聞こえた。


 そして、全力の前拳下突きアッパーパンチを喰らったジョゼはしばらく宙を舞い、そして地面に落下した。



「痛ッ……てぇえええ! あれ、痛くない?」



 地面に叩きつけられたジョゼは正気に戻ったらしく、そう叫びながら痛みでその場を転げ回って……



 え? 効いてへん?



 確かに私は全力の前拳下突きアッパーパンチをジョゼの顎に綺麗に命中クリーンヒットした筈だ。


 良くて瀕死。最悪死んでいてもおかしくない筈だ。


 しかし、ジョゼは死ぬどころか痛みすら感じていない様に見える。



「まじパナい。カオちー、やり過ぎっしょ」



 声がする方へ目をやると、木の陰からアイラが姿を現した。



「あぃらが居なかったら、ジョーさん死んでたよ?」



 アイラはドヤ顔で私にそう述べると、いつもの如く魔力飴を舐め始めた。


 どうやらジョゼのダメージはアイラがどうにかしたらしい。



「まさか……私のスキルが破られただと!?」



 まさかの展開にウエダは目を見開いて固まっていた。


 そして隙を見て逃げようとでも思ったのだろう、ゆっくりと後ずさりを始めた。



「アンタにはこれから詳しく話を聞かせて貰うわよ」



 しかし、エリーゼとヴィンセントがすぐさまウエダを取り囲み、彼の喉元にレイピアと短剣ショートソードを突き付けそれを阻止した。




 ***




 喉元にレイピアと短剣ショートソードを突き付けられたウエダは屈辱に顔を歪めていた。


 しかし、しばらくすると気でも触れたのかウエダは声を上げ笑い始めたのだ。



「ふふ……フハハハハハーーーッ」



 私はウエダに近づき首を傾げた。



「なんや、おかしなってもたんか?」



 すると、彼は笑うのを止め私に視線を戻した。



「ふぅ……いや、失礼。ここまで追い込まれたのは初めてでしたので」


「「…………」」



 ウエダの話にその場にいた誰一人返事をしない、それでも彼は一人で話を続けた。



「流石に転移者ストレンジャーが2人も相手だと、私一人ではどうにもならないですね」



 そう言ってウエダは私とアイラに視線を送り、溜息を吐いた。



「今回は私の負けを認めましょう、池淵さん」


「何それ、まるで『次』があるみたいじゃん。まじウケる」



 ウエダの話にアイラは彼を睨み、エリーゼとヴィンセントは得物を更に彼の喉元に押し付ける。


 しかし、ウエダは怯む事なく話を続けた。



「何言ってるんですか。私が保険を掛けてない筈がないでしょ?」



 その言葉を聞いたアイラが目を見開き、叫んだ。



「みんな、そいつから離れてッ!!」



 アイラの叫びに、その場にいた全員がすぐさまウエダから一旦離れた。


 そして私たちがウエダから距離を取るとほぼ同時に何者かが彼の側に現れたのだ。



「ボス、何やってるんですか?」


「合流地点に来ないから、迎えに来たよぉ」



 …………。



 突如現れた、ウエダの事を『ボス』と呼ぶ二人の少年少女に私たちの思考は一旦停止した。



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【スキル解説】


非魔法適正ちからずく 改】


 カオル=アサヒナのユニークスキル。


 魔法系スキルが使用出来ない代わりに、魔力を消費してその値を攻撃力に上乗せできる。

 その際に、道具などを破壊することも可能。


 改:スキルによる効果などを打ち消す事が可能になる。


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