第6話 奴隷少女、主人と二人で…



 由々しき事態に私はいきどおりを感じている。



「ルベルレット、今までお世話になったね。それじゃあー」



 こちらに手を振り別れのお言葉を述べるシャルジュ様を、私は頭を下げ見送った。


 我が主人は長年使えてきた私ではなく、先程まで地下牢に幽閉されていたような犯罪者と新たな道へ進もうとしているのだ。


 選りに選ってあんな粗暴者を奴隷につけなくとも、一言命令していただければ私が奴隷となりシャルジュ様に使えるというのに。



 …………。




 ***




 私は急いで二人の後を追い掛けた。


 勿論、二人には気付かれないように、こっそり後を追い掛けているのだ。



『シャルジュ。髪切りたいから、床屋寄ってええ?』


『うん。構わないよ』



 アイツ! 奴隷の分際でシャルジュ様に気安く話やがって……



 私は後を追いながら、二人の動向を観察した。


 腐っても私はシャルジュ様の護衛だ、例え不必要と言われても仕事をまっとうする。


 私は二人が入った理髪店が見える路地裏に隠れ、二人が出てくるのを待った。



 …………。



『カオル、短い方が可愛いよー』


『そうかー、あんがとー』



 ア・イ・ツ! シャルジュ様が褒めて下さっているのに、何だその反応はッ!



 私は思わず拳を握りこみ、壁を殴ってしまった。



「私が髪を切った時は、何にも言ってくれなかったのに……」



 悔しさに打ち拉がれながらも私は二人の後を追い掛けた。




 ***




 日が暮れ辺りが暗くなって来た頃、二人はようやく今晩の宿を探し始めた。



『ちょっとボロいけど、ウチが使ってた宿屋でもええ?』


『うん。いいよ』



 そう言って二人が入って行った宿屋は、宿屋と言うには余りにも杜撰(ずさん)な建物だった。



「王子をこんな宿に泊めるつもりか……」



 思わず宿屋を見上げ固まってしまった。


 私自身もこのような宿屋に泊まった事は、生まれてこの方ない。



 …………ッ!



 何やら二人がフロントで揉めている様子だった。


 しかし、店の外から覗いているだけでは何を揉めているのかわからない。


 チェックインを済ませた二人が部屋へ向かった後に、私も意を決してフロントへ向かった。




 ***



 かなり店の主人に怪しまれたが、どうにか二人が取った部屋の隣に泊まる事ができた。


 そして幸運な事にかなり壁が薄いらしく、普通に隣の声が聞こえてきた。



『だから、どうして僕とカオルが同じ部屋なの?』


『何べんも言わすなよー。ウチはアンタの物やの、だから店主おちゃんも納得して一人分で入れてくれたやん』


『それはそうだけどさー』



 どうやら、シャルジュ様が奴隷と同部屋な事で不満を述べていたらしい。


 こればっかりは私も不本意だが、まで奴隷は主人の所有物なのだ、物の為に部屋を取る主人などあまりいな……



『けど、ベッドが一つしかないよ』



 なにぃぃいいいッ!



 シャルジュ様の言葉に思わず私は壁に耳を当てて、隣の様子を伺った。



『別に一緒に寝たらええやん』


『え、その、あの、僕とカオルが同じベットで寝るの?』


『そやで』



 ちょっと待て、どういう事だ。


 お前は奴隷の分際で、ベットで寝るつもりなのか!?


 しかも、シャルジュ様と一緒に!?



『なにモジモジしとんねんッ。ほら寝るでッ』


『え、ちょっと待ってよー』



 あー糞ッ! 羨ましいにも限度があるぞッ!


 どうしよう、こうなったら隣の部屋に行って二人を引き離しに行くか?


 いや、本来私は城に帰っている筈だ。


 ここで出て行けば、シャルジュ様を追跡していた事がバレてしまう。


 そうすれば、最悪の場合シャルジュ様に嫌われて……


 ちょっとまて、それよりもシャルジュ様の貞操を守るのも護衛騎士の勤めッ!


 いやでも…………。



 …………。


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