二次元めし

茸桃子

第1話 心の怪盗×カレー・コーヒー

カレーの誘惑に負けた。一時間後に選考会があるというのに。

カウンター席に案内された私は、鞄から覗く企業のパンフレットを横目に後悔した。

ああ、この前の休日にペ○ソナ5なんてやるんじゃなかった。ゲーム内でマスターに「カレーの後のコーヒーは格別だぞ。」なんて言われなければ、カレーの看板が出てる喫茶店なんて入らなかったのに。後、私辛いの苦手なのに。

 

タバコの臭いスーツについてるだろうなあ、とぼんやりする私の目の前にコーヒーとカレーが並べられた。2つの香りは混ざりあい、鼻孔を通り抜け、空腹の胃袋を刺激した。

 

スプーンいっぱいにすくい、口内へ運ぶ。一気にスパイスやナッツの芳ばしさが広がる。次に辛さが込み上げ、白米の甘さがそれを中和しようとする。

それでも、私の口内は辛さが陣取っている。さらに、初夏の日光が、窓越しに私を攻撃する。


いつもなら、キンキンに冷えた水を流し込むけど、マスターの言葉が脳内に響く。


ヒリヒリする舌に熱いコーヒーが注ぎ込まれる。少し痛い。けど、なんだこれ。くせになる。熱いのに、辛いのに。そしてまた、カレーを食べる。コーヒーを啜る。水を飲むなんて勿体無いと思ってしまうほど、熱を帯びた体内に2つの風味がじわじわと浸透していく。

 

スプーンを空の皿に置き、水を含んでもなお、その2つは私の中に居座り続ける。

 

口臭スプレーを使っても、居座り続ける。

 

選考会が終わっても、居座り続ける。

 

家路につく頃には流石に消え去ってしまったけれど、あの感動は忘れられない。

 

三次元で、カレーとコーヒーに心を盗まれるなんて、思いもよらなかった。

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二次元めし 茸桃子 @kinoko

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