第3話

「コマンダー、状況を報告せよ…」

「はっ、閣下!…我が艦隊は現在、敵と交戦中…」

「そうだ、見えておる。私が聞きたいのはなぜシールドも張られていない石器時代の船一隻に手こずっているのか、といことだ」


今にも緊張で心臓が止まりそうな指揮官を、男が高圧的に問い詰める。

海の上だというのに全身に暗い色の鎧をまとっている。

海に投げ出されたらまず見つけてはもらえない。

顔も兜で覆われており表情をうかがい知ることはできない。

どうせ穏やかな顔はしていないはずだ。

…それにしても蒸し暑くないのだろうか。


男の名はアーズ。悪の共和国の大将軍をしていた。

ワープ航行時のひょんなことから次元の狭間へと入り込んでしまい現在に至る。

目下、海賊たちが操っていると思わしきガレオン船に奇襲を受け応戦中だ。


「そ、それが…どういうわけか船をいくら傷つけても元に戻ってしまうのです…やつらの文明レベルから考えるに、我が艦隊の砲撃を耐えられるはずはないのですが」

「…魔力、か」

「は…?ま、魔力ですか?あの迷信の」

「魔力は実在する。侮るなよ」

「は、はぁ…」


そうこうしている内に海賊たちが略奪目当てに艦隊へと突っ込んできた。

ワープ航行による故障で満足に機能していない艦隊では、満足に陣を張ることも、浮かんだり潜水したりすることもかなわない。

海賊船の衝突に対してシールドが一瞬作動したが、低速で近づいて来る物にはほぼ機能しない。

運の悪いことに海賊船の全速力は、シールドに低速だと判断されてしまった。

ハッチを閉めようにも故障の影響で作動せず、海賊船は勢いに乗ったまま艦内へと侵入してしまった。

ぶつかった衝撃で海賊船だけが大きく身を削ったが、まるで生き物のように損傷部が直ってしまった。

あちこちが血管のように脈打っているように見え、とても気味が悪い。


デッキに駆け付けた兵士たちはいずれ押し寄せてくる敵に備えて、海賊船を包囲するように陣を構えた。

叫び声が収まったころ、艦内には緊張と静けさが漂った。

ただ鈍く心臓を脈打つのに似た音がドクンッ、ドクンッと響くだけ。


と、突然!船から気味の悪い触手がいくつも飛び出し、デッキの四方八方に根を張った!

彼らを襲ったのは呪われた海賊でも、血に飢えた怪物の集団でもなく、オンボロ船そのものだった。

船から放たれた職種はひどくヌメリ気を帯びていて、海藻をいくつも巻き付け太くしたような見た目をしていた。

兵士たちはいとも簡単になぎ倒され、まるで異物を吐き出すように艦内の全員が外へと投げ出された。

触手はやがて艦全体を覆っていき機能をすべて乗っ取ってしまった。


「全艦、集中砲火!」


薄気味悪い海藻に覆われた船へ、容赦のない砲撃が浴びせかけられる。

どういうわけか、今度はうって変わってとても痛がっている。

皮膚を引き延ばしたことで密度が少なくなったからか攻撃が効いているようだった。

しかし、どれも決定打に欠けている。


「コマンダー、船を近づけろ。私が方をつける」


なんとか復旧させたエンジンで徐々に怪物との距離を詰める。

だが砲撃に耐え切れなくなった怪物船は、砲撃を背に受けながら水しぶきを上げつつ逃げ去ってしまった。


「閣下…あの船には…」

「わかっておる。絶対に逃がしてはならん。急ぎ部隊を編成しボートを出せ」

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