第2話
バイキングと別れてから早数秒。時が経つのはなんと早いことか。
彼らとの夢のような喧嘩と罵倒と血みどろの大宴会がつい数日前にさえ感じる。
……いうほど楽しくなかったのかもしれない。
スーフィがそんなことを考えながらボーっとしていると、勢い余ってダンジョンの壁をぶち抜いてしまった。
世界最高峰の難度と謳われる大空洞である。
異世界者や天然物の勇者が通った後には、彼らが狩った大物によっていくつか町ができるとまで言われている。
このダンジョン、大空洞の周りにはそんなものとは比べ物にならないほど大きな街が形成されていた。
誰も到達したことがない最深部には、あの魔王や邪神にすら引けを取らない古の大魔術師が居座っているとか、もうひとつの別世界が広がっているとか、そもそも終わりなんかなくて無限にループしているんだとか、なんとでも好きなようにいわれているが実際のところは全くわかっていない。
しかしそんなことは住民には関係なかった。
独自の生態系を持つ魔物たち、力尽きた冒険者や先人たちが残していった落とし物、時折見つかるゴブリンやドワーフの旧坑道、生きたように毎回形を変える迷路、新しく発見されたエリアの利権を争う領主たち、商売人は精を出し、教会では死体が蘇る。
とにかく自然の恵みやらいざこざやらでテンヤワンヤの何でもありな街なのだ。
~スーフィが突っ込む数分前~
明かりが点々と灯された暗いダンジョンに悲鳴がこだまする。
犠牲者の断末魔か、または怪物から逃げ惑っているのか、あるいは異世界へと飛ばされたか。
生への渇望を諦めてはいけない。諦めた者から飲まれていく。
ここは大空洞の上層部。一般人には足を踏み入れることすら到底かなわぬ修羅の道。
さらにそこから続く下層は危険なトラップや凶悪なモンスターが跋扈する前人未到のエリア。
どこまで続いているか見えない天井は暗く高く、床は何かの内蔵のように柔らかい。明らかに時空が歪んでいるとしか思えない。
そこは魔界とも呼べるほどに禍々しい雰囲気を放ち、息をするだけで精神を病んでしまいそうだ。
「ホーリーギガントブレイク!!」
声高に技名が発せられると、およそその華奢な体躯では振り回せそうにもない巨大な剣で切り裂かれた空間から光線が放たれ、彼らに襲い掛かる魔物を聖なる光で切り裂いた。
「ステータスオープン!…クソッ、このままじゃ魔力が持たない…」
「ユーシャ!ここまで来ておいてなに弱気になってんだい!お姫さんを救うんだろ!?ここはアタイに任せな!」
「あぁ…そうだ、そうだな!」
「今すぐ回復します!少しの間 援護を!クレリック・ヒール!」
「まっかせといてよ!ライトニング・ソー・エクス・マキナ!」
「ヴァルキリー・ハイネス・スフィア!」
「ストライク・バッター・アウトォッ!!!!」
魔物との熾烈な戦いだ。
パーティの中核と思わしき男性と彼を取り巻く多種多様な歴戦の女性たち。
みな彼に気があるようだ。
彼らは類まれなるチームワークで上級の魔物たち相手に善戦を繰り広げる。
しかし、そんな彼らをさらなる絶望が襲う。
神と人間の間に産み落とされたという不貞の子、ミノタウロスが彼らの行く手を塞いだ。
健闘空しく、彼らの命運が正に付きかけようとしていたその時…
とてつもない轟音と衝撃波が起こり、分厚いダンジョンの壁から地上の光が猛烈に差し込んだ。
ふと気が付くとミノタウロスは消えていた。衝撃により四散したのか、はたまたチキューはチチューカイとやらに飛ばされてしまったのか。その行方は誰も知らない。
「うっわ、カビくさ!獣くさ!何ここ…」
「あの、おかげで助かりました…ありがとうございます!」
「え?僕何かした?」
「す、すごい…」
「な…ミノタウロスが…」
「ていうか、壁が、大障壁が…あわわわわわ…」
少しするとスーフィが作った新しいダンジョンの入り口に冒険者が殺到し始めた。
強大な魔物も外界の光を嫌っていたため、入り口付近は安全だった。
もうここにまた一つ街ができるんじゃないかという勢いだった。
「下層…俺たちが歴史上初の到達者だったのに…あんな簡単に…」
「…なぁユーシャ、そう気を落とすな」
「そうだよ!助けてもらったんだから文句は言いっこなしだよ」
スーフィが(もちろんユーシャパーティも)ひとしきり歓待された後、ドワーフの一団にある依頼をされていた。
「あんたすげぇよホントに!なぁ、そこの丸っこいのさんよぉ。もののついでに、ここの岩盤もぶち抜いてくれねぇかなぁ?わしらの歴史ある古~い坑道があるんだよ」
「別にいいけど、ないと困るの?」
「困らなくはないが、尊厳にかかわるんでな」
「ロマンじゃよ、ロマン!」
「ロマン?ロマンって面白いの?」
「あぁ!何より面白いともさ!男ってぇのはロマンのために生きるようなもんだ!」
「おぉ!!おっけー!じゃあ行くよー!」
ダンジョンを下へ下へと掘り始めた。ドワーフたちは衝撃で吹き飛ばされ大地は震え、魔物たちは怯え、人々は熱狂し、あちこちでトラップが誤作動し、拗ねたユーシャが女性たちに慰められていた。
「ちょ、ちょ、ちょ!掘り過ぎじゃて!!」
「オモシロ!オモシロ!」
ドワーフたちの悲鳴がはるか地面下のスーフィに聞こえるわけもなく、ついに最深部へとたどり着いた。
「ウフフフ…アダムとイブの愚かな子らよ、よくぞたどり着いたわね…神々の末裔たる姫の体、実に馴染むわ!さぁ、楽しませておく…?なによ、あの丸っこいの…?ちょっと!無視してんじゃないわよ!」
「オモシロ!オモシロ!」
古の魔術師の大部屋を軽く突っ切って星のコアへと到達。
「ン”ミャ”アアアアアアアアアア!!!」
吹き出したマントルが大噴火を起こし、姫の体を乗っ取っていた魔術師の魂も浄化されてしまった。
時は暗黒時代!街は火山灰に包まれた…!
奇跡的なことに死傷者もなく、あちこちから温泉が噴き出して大空洞街から一転して大温泉街となった。
「…ユーシャ様、元気を出してください」
「…俺たちがここまで来るのにどれだけ苦労したと…あの技覚えるまで何回…」
「女々しい男だねぇ!姫さんが無事なんだからいいじゃないか!」
ユーシャは何故か成り行きのドタバタで混浴することになった女性陣とよろしくやっている。
「…結局、面白いことって何だったんだろ。まいっか!気持ちいし…」
「だから掘り過ぎじゃて…」
スーフィとドワーフの一団は風呂にゆったり浸かりながら酒盛りをしていた。
(キィ~!覚えてなさいよー!このミートボールー!)
「…? 次はどこで何しよっかな」
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