底の浅い異世界物語

タコ

第1話

暗雲が立ち込め雷鳴が轟く…

対峙するは魔王と勇者。

今まさに、魔族と人類双方の命運をかけた決戦の火ぶたが切って落とされた!


…と突然、ポンッと間の抜けた音と共にとてつもない衝撃波が二人を巻き込んだ。

魔王と勇者は跡形もなく消え去っていた。

大方、過去とか未来とか異世界に飛ばされたのだろう。


衝撃波の中心にはマスコットキャラのような可愛らしい丸い生き物(?)がいた。

誰もこんなことが起きるなんて予想もしてなかったし、散々、この世界に移民を送り込んでいる神々ですらもあずかり知らぬ存在だった。

その生物の何気ない一挙一動が大地を、大気を、時空を震わせた。

彼、あるいは彼女は周囲の大混乱を気にもかけず、誰にも追いつけない速さでいずこかへと去ってしまった。


次の日には彼、あるいは彼女はバイキングの長となっていた。

というのも彼、あるいは彼女は……呼びづらいので名前を付けよう。

丸い…スフィア…「スーフィ」とかでいいだろう。たぶん大丈夫なはずだ。


昨日の晩の話。

スーフィが何か面白いことを探していると、今日も今日とて北方の荒くれ者ことバイキングたちが略奪に精を出しているではないか!

しかも今回の略奪の相手は一味違う。

周辺の陸海空を好き勝手に暴れ回っている邪神の巣から卵を盗み出そうというのだ!


本来なら邪神に脅かされている身内でもない近隣住民のことなど気にもかけない彼らだが、邪神討伐は一族にとっても悲願であり名誉なことであった。

そのうえ、今回は周辺諸国からも報酬が出るし、密輸した卵を邪教徒に売れば超高額で売れる。

それでもリスクに対する見返りは十分とは言い難いが、彼らが身に秘めた大いなる勇気を奮う動機は揃っていた。


しかし相手が悪いかな…怒った大人邪神がバイキングの船団を壊滅させてしまった。

当代一と言われた実力者だったバイキングの長も、この世の者とは思えないはるか上空の大渦巻に巻き込まれて消えてしまった。

おそらくヴァルハラか異世界へと旅立ったのだろう。

もうダメだと誰もが思ったその時、遥か彼方から何かがやってくる…そう思った時には既に何かが邪神に激突して遥か彼方へと吹き飛ばしていた。


バイキングたちは歓喜した!

自分たちを救い、長の敵を取り、彼らが何よりも敬愛している『圧倒的な力』を持つ者、スーフィに。

中には伝説の神が降臨されたと騒ぎ立てる者まであった。

バイキングに受け入れられたスーフィは彼らの文化に徐々に馴染んでいった。




~それから数時間後~


破壊された船をかき集めて即席で宴会場を作りドンチャン騒ぎをしていた。

誰一人まともにろれつが回っていない。

バイキングたちはベロンベロンの舌で旅立とうとするスーフィを必死に引き留めていた。


「ありがとう!とても楽しいひと時だった。どこの馬の骨とも知れぬ僕を受け入れてくれたこと、感謝する」

「おぉ、神よ!我らが長!どうしても行ってしまわれるのですか!?」

「うむ。すまないが僕は君たちが言うような神じゃないし、君たちの長にもなれない。僕は行かねばらなぬのだ。もっとたくさんの面白いことを探しに!」

「それなら!我らもお供いたします!この世の果てまでも略奪して回りましょうぞ!」

「「「そうだ!そうだ!」」」

「気持ちだけありがたく受け取っておこう。僕は元来孤高の身(生まれてから数時間)。一人の方が性に合っているのだよ。縁があれば再び会いまみえることもあるだろうさ!それでは諸君、さらばだ!」

「「「長ぁーーー!!!」」」

「…長、この数時間でえらい饒舌になったな…」


スーフィは次なる物語を求めて旅立っていった。

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