ハッカ飴を片手に 3

 そいつは一瞬にして肩をこわばらせた。だがそんなのは知ったこっちゃない。

「俺は____」

 言いかけて、いったん言葉を区切る。そして改めて大きく息を吸って、怒鳴るように言った。

「俺は、お前がなんでここにいるか教えてもらうまで、毎日来るから!毎日!」

 何故ここにいるのか、何を思っているのか。何を思っているのか、って部分は言わないでおいた。言い過ぎたら絶対ドン引かれるから。


大変真面目な顔で俺はそうそいつに言ったのに、振り返ったそいつは

「ふぁふぇ・・・・・・?」

あまりにも凄まじく間抜けな顔だったので、思わず吹き出してしまった。


「え、全力でお断り願いたいですけど」

 今頃とってつけたように真面目な顔をして断ったって無駄である。言葉で返事をする前に20秒以上、一人病院の廊下で間抜けな顔を晒してしまっては、説得力の「せ」の字もない。

「ということで、明日からよろしく」

「嫌だっ!丁重に断る!」

「とか言いつつ、俺に来てもらいたいくせにぃ」

「断じてないっ!本当にないからっっ!!」

まったく、意外と強情な奴だ。


 しばらくギャーギャー喚いたあと、そいつは俺に何を訴えても仕方がないと思ったのか、すごすごと退散していった。こうしてみると、昔のそいつの人格に酷似している。だが、あの時の眼光の鋭さは何だったんだろう。学校ではそんな目してたっけ。いや、俺が見ていなかっただけかもしれない。なんせ、過去に用事があって話したのも片手に収まる程度の回数だ。しかしあの眼光、何があって・・・。

 知りたい。すごく知りたい。

 普通に学校生活を送っていて、そいつと話すことなんてなかったけど、それでも同級生だし、そもそも俺の知的好奇心がたまらない。くすぐったくて仕方がないのだ。人の心情でこんなことを考えるのは、おそらくお門違いだろうが、それは棚の上にあげよう。

 

 ふと思考を緩めると、そういえば買ったハッカ飴が入った袋をそのまま持ったままであるのに気付いた。あいつ、ハッカ飴好きなのかな、今度訊いてみようと限りなくどうでもいいことを思いながら、ばあちゃんの病室に足を向けた。

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