ハッカ飴を片手に 2
「わ、わかった。誰にも言わない。」
俺はどうにか頷いた。頷かざるを得なかった。
眼光がすごかった。とにかくすごかったとしか言いようがない。寧ろ恐怖すらも感じた。本人はそんなつもりはなくても、俺からしてみれば今すぐにでも取って食われるのではないかと比較的真剣に思ったものだ。
しかし、それが打って変わって、俺の首肯と同時にあの見覚えのある人懐っこい目つきに変わった。最初からその顔でいってほしいものだ。
「よかったー!誰かに言われたらどうしようって思った!」
そうかそうか、よかったよかった。俺一人の中でとどめておくだけでこいつがこんなに喜んでくれるとは、なんとも以外なことだ。
「でもさ、」
とはいえ、俺だって人間だ。
「なんでここにいるの?」
単なる興味心、というより純粋すぎるほど純粋な疑問をぶつけてみる。
「なんでも何も、ここで母さんが働いてるから」
「いや、そうじゃなくってさ、君はつい2か月前に」
「言わないで」
そいつは、そういって俺の言葉を遮った。
え。
そいつの顔には、ほんの一瞬だけど、初めて見る表情になった。寂しいとか、つらいとか、言葉にしづらいけど、そういう表情に似ていた。しかしそいつはすぐに表情を繕い、またあの懐っこい顔で言った。
「ごめんねー、言わせないでくれないかなー。ちょっと話したら長いしめんどくさいし~一応病人だから立ち話も疲れてきちゃったし~」
明らかにおかしなしゃべり方だ。君は一昔前のギャルか。
「まあ、これでとりあえずサヨナラってことで。親戚のお見舞いかな?そのハッカ飴持っていくんでしょ?」
そいつは俺の右手に握られたビニール袋の中身を的確に当て、そう言った。
「うん、ばあちゃんの。明日退院するけど」
「じゃあよかった」
その人は安心したような顔をして、俯いた。
これでもう、
俺の目にはそう読み取れてしまった。
俺はたまらず、そいつの肩を掴んだ。
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