鍛錬と戦いの果て
ジーンは笑う、それと共に飛び退く。
ソルファの元へと紅蓮乱流が戻っていき、ソルファの杖を中心として巻き付いていく。
「我が炎。祖である紅蓮乱流よ我の意によりて、何者をも切り裂き、何者をも燃やし尽くす神剣を成せ」
ソルファはその手に炎剣を成す。
普段の杖の先端につくる炎の刃ではなく、束から丸ごと剣へと姿をかえる。刀身は燃えさかり、刃の内側から御しきれない炎がこぼれている。
ソルファは縦に炎剣を振るう。
炎剣は、伸びて龍のように伸びてジーンを追いかける。
ジーンは加速して、その一撃をかわす。
ソルファはそこから何度も炎剣を振るう。
その剣先は音速を超えて、不可視の神速の域に至り、剣の届く範囲全てを切断し、灰へと帰していく。
しかし、ジーンはその斬撃の全てを回避した。
加速したジーンにとってすれば、神速の剣戟も見える範囲でゆっくり襲いかかってくる程度のものにしか見えなかった。
ソルファもある程度はジーンを見て攻撃しているのが分かる。
けれども、この炎剣でも追いつけないということを知ってか表情は歪んでいる。
再びソルファの懐へと潜り込む。
頭から腰にかけて正面から十二連撃を叩き込むと、両掌でソルファを吹き飛ばした。
二度目の加速が解ける。死への生き急ぎ、その代償として傷を負う。致命には至らずとも重傷の領域にある。
ソルファは着地し、膝を屈するも立ち上がる。
「まだ死なないか!」
「あいにく、しぶといのでね」
加速はあと一度が限界だった。
それならば、確実のこの一度の加速でソルファの命を絶ちきる必要があった。
それでこの勝負にケリをつける。何もかもおしまいだ。
「絶槍・極点の一」
技の名前を宣誓し、加速して駆けだして行く。
二歩目で音速を超えて、四歩目で神速を超え、光の速さに近づく。
秒にも満たない時間を引き延ばしていく。
そして、ソルファの前で急激に踏み込み勁力を爆発させる。
手刀で作る絶槍は、神速よりも速い速度とジーンの業とが相まって、時空に捻れを生む。
作られし、究極の螺旋は何者をも刺し、貫くことが出来る螺旋の槍と成った。
真っ直ぐとソルファの心臓へと走る絶槍。
突き刺さると、思ったその刹那。ソルファがずれた。
肩へと突き刺さる絶槍。ジーンは愕然とする。この空間の中で動けるのは自分ただ一人。そう思っていたはずなのに……。
加速が共に解ける。
「いや、参ったよ。やっと追いつけたね……ジーン」
嬉しそうにソルファは目を細めた。
「馬鹿な……なんでここに」
「僕も紅蓮乱流に僕の命を焼け。その代わりに今を引き延ばせってお願いしたらこうなった。まあ君の真似事で一瞬しか使えないけども」
「そっか」
ジーンは言いたいことも何もなくなって笑った。
自分たちは試し合いをしていたのだ。どこまで高く登ることが出来るのか、どこまで遠くまで行くことが出来るのか。果てを目指してここまで走ってきたのだ。
ジーンとソルファはその果てにたどり着いた。そして、その疾走は、ここでどうやら終わるらしいということを何となく悟った。
「さあ、僕ごと食らえ紅蓮乱流」
ソルファがジーンごと燃える。
ジーンの手がソルファの肩から抜けて、地面に倒れる。ソルファも倒れる。
だが、十を数えないうちに二人は立ち上がった。共に意識はなく、技は使えず、肉体も死に体。魔術が使える事もない。
叫びをあげて、ただ、殴り合った。
負けたくない。ただそれだけを願った。
これから何に負けようとも、今目の前に立つ相手にだけは先に膝を屈する訳にはいかない。
その執着と本能だけで立ち上がり。拳を振るった。
それだけのことだった。
やがてその気力も数十発と殴り合ううちに、何もかも使い果たし、地面に倒れ込んだ。
しばらくして、ソルファとジーンは再び目を覚ました。
「決着……つかなかったな」
「そうだね。でも良いんじゃないかな? 僕はジーンのこと殺すつもりだったけど、殺したくは無かったし。良いんだよこれで」
「そうかもな……、まあこれで何もかも終わりって言うなら、最後に良い夢見れたよ。ありがとな……ソルファ」
「同じ言葉、そのまま返すよ。ジーン」
二人で空を見上げて笑った。
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