卒業式、その日は雨が降っていた。

 明日の天気は雪で、昨日の天気は雪の後雨。季節としてはまだ雨ではなく雪が降る季節だった。それが何故か卒業式の日だけに雨が降る。魔術の汚濁を吸いこんだ黒い雨が降り注いでいる。

 第二演習所に響く音は雨音だけだった。ただ、雨音が森を打ちそれが響いていく。魔術で人為的に作り上げた森。そこに生物は再現されていない。

 ソルファはぬかるみの中を歩いて行った。

 待ち合わせの時間午前十時。揃い次第戦う事にする。そう約束を決めてここまでやってきた。

 昨日の夜はあまり眠ることが出来なかった。部屋の本の整理を終えて寝ようかと思ったがなかなか寝付けなかった。けれども体調が悪いわけではない。

 頭から打ち付ける雨が、熱くなった頭を覚ましてくれて心地よかった。

 約束の十分前に到着。

 マリアはすでに到着していて、傘を差して待っていてくれた。

「おはよう」

「おはよう、マリア先生」

 いつも通りの挨拶をする。会話はそれで途切れた。

 それから五分ほどして、ジーンがやってきた。

 装備は戦うときのもので、旅のための荷物は持ってきてはいない。傘も差していない。ソルファも装備以外に持ってきたのは何も無い。

 ここが、いずれにしろ最後だという認識は同じだった。

「おはよう、ジーン」

「ああ、おはよう」

 ジーンは答えるいつも通りに。気楽に気負った様子も無く応じる。

「んじゃ、前置きも要らないし、はじめようか」

「そうだな」

 二人は同時に構える、普段のスパーリングをするときのような気楽さで構えた。

 マリアは聞く。

「最後にあんた達に聞くけど、本当にこれで良かったの?」

 ジーンは頷く。

「ああ、もう後が無くて、今最高にやりたいことがあるって言うんなら、俺にはこれしかない」

「ソルファは?」

 ソルファもまた頷く。

「同じだよ。最高に尊敬しているから、認め合えるからこそ知りたい」

「「僕・俺と、君・お前、どっちが強いのか」」

 最後にソルファが言ったこととジーンが言ったことは重なった。二人は笑った。

 マリアは呆れたようにため息をついて、そっと手刀をかざした。

「なら、好きにしなよ」

「それでこそ、俺達のマリア先生だ」

「ここまでありがとうね」

 マリアは苦笑すると、手刀を一気に振り落とした。

「はじめっ」

 ソルファは無詠唱でバベルズアトラスを付与すると、後ろへと下がる。

 ジーンは先制するように一気に距離を詰めて突きを放つ。

 まだ剣を作れていないソルファに一方的に攻撃を仕掛ける。

 ソルファは後ろへと逃げながら、杖の攻撃を受けつつ詠唱を重ねる。

「求めるは、剣の形、我が炎幾重にも折り重ね、全てを切り裂く剣の形を成し顕現せよ。手にせしものを最強らしめる剣を成し顕現せよ」

 受けた瞬間に詠唱を終わらせ、杖を爆発させ剣を成す。

 ジーンはわずかに後ろへと吹き飛ばされて、隙が出来る。

 すかさず切り込むソルファだったが、布の端を切り裂いた程度に留まった。

「酷いなぁ。魔術師の戦いは詠唱が終わってからが本番だって言うのに」

「んなことしてたら、日が暮れるし、そもそもお前対応出来てたじゃねぇかよ」

「それもそうか」

 二度ほど、ジーンにこれで一方的に倒されたことがあった。それ故に対応出来たのでもあった。

「やれやれ、あたしは他の生徒見送ってくるよ。好きにやりなさい」

 マリアは返事を期待しないでそう言うと、森のどこかへと消えてしまった。

 ソルファは再び構え直す。ソルファは更に周りに三つの火球を出現させる。

 今度はソルファからジーンへと突っ込んでいった。

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