決着

 ソルファは光弾を止めているジーンの前に現れる。

 手にした炎の棍棒で持って、思い切り光弾を横からぶっ飛ばした。

 光弾が進む勢いと、ソルファが与えた勢いによってジーンからそれ光弾は館に叩き付けられて、館をえぐり取って空の彼方へと消えた。

「よう、遅かったじゃねぇか……」

 ジーンが死にそうな声で言った。

「ちょっと無茶させ過ぎちゃったかな」

 ソルファは、炎の棍棒をもとの形に戻しながら近寄る。

「死んでねぇんだからついてるだろ?」

「まあ、それも確かに」

 ジーンはまだ生きている。

 生きている間にソルファは戻ることが出来たのならそれは確かにラッキーなことだった。勝ちへの条件は残っている、それもまたラッキーなことだった。

「分析したことを伝えるよ?」

「おう」

「あれは、壊れないし、壊れてもすぐに回復する。付け加えて学習することによって形態をより強い形に進化させることができる。無敵だと思うだろう? でも、完全無欠なんてものは存在しない。どこかに必ず崩壊点になる中心が存在しているんだ」

「ああ、何となくお前があれの急所を探しているのは分かったよ。それで……それはどこになる?」

「のど元だ。あの一つ目は、のどへの攻撃だけは絶対に防御するか避けているんだ。何があってもね」

 ソルファが観察した限り、のど元への攻撃は三度されて三度ともその場所に当たらないように回避している。

 一度目はジーンの突き、これは腕で受けて反撃につなげる。

 二度目は空中に展開した火の槍を突撃したとき。あの時、全身には突き刺さったが、のど元への攻撃だけは迎撃して当たらないようにしていた。

 このとき半分は確信したが、当たっていないところはまだ他にもあった。

 三度目。さっきのジーンののど元への攻撃で確信に至った。

 のどもとだけに関してだけは、どうしても防御が必要になる。普段がノーガードである分より引き立っていた。

「ああ、それは俺もすこし思った。最後の一発でそこだって思った。あそこだけは脆いのか?」

「いいや、皮の厚さはそこも大して変わらないと思って良い。そこにまず、でかい一撃を突き入れる。多分それではコアまでは届かないから何度も叩く」

「釘を刺して、それを金槌で叩く感じか?」

「そう、そのイメージがピッタリ。それでやり方なんだけど……」

 ソルファはイメージしていた方策をジーンに説明する。

 ジーンの目が見開く。

「曲芸じゃないか。もはや」

「う、うーん。自分でもちょっと厳しいかもって思ってるけど」

「んなもの提案するな馬鹿。まあ、対案出せってのは無理だ」

「でも、やれるでしょ? 僕と、君なら」

「まあな」

 ソルファは拳を突き出して、ジーンは拳を合わせて横へ走っていく。

 ソルファは詠唱を始める。

「祖にして、全なる炎。我、元めしは人の恐れし、あるいは人の求めし、炎の根源。最奥にありて、眠りし龍よ。我が召喚に応じ、出で給え!」

 刹那、ソルファから巨大な魔力の炎が立ち上る。

 その形は龍を成して、炎を龍は咆吼ほうこうを上げた。

 呼び出した龍は炎で出来たような体を持ち、その全身を鎖のようなものを巻き付けて、それはソルファの杖に繋がっている。

 ソルファが呼び出したのは契約獣けいやくじゅう

 人の事象に対しての恐れや、喜びを疑獣化させた、その事象の人の思う根源だった。かつてそれは人が神と呼んだものの使役に他ならなかった。

 独眼巨人がこれに反応し、ソルファに向けて巨大な光弾を形成していく。

また、これの召喚には少し手間がかかり、これを召喚するために観察、休みに徹したというのもある。

「行け、紅蓮乱流ぐれんらんりゅう

 ソルファは独眼巨人を指さす。

 炎の龍、紅蓮乱流は再び咆吼をあげると独眼巨人へ向けて飛ぶ。

 独眼巨人は光弾をソルファへ向けて放つ。

 激しい光と共に衝突する紅蓮乱流と光弾。最初、拮抗するが紅蓮乱流が口を開くと光弾を食って前へと進んだ。

 ソルファの予想通りだった。

 独眼巨人の堅さと、再生力に関しては最初から狂った領域にあるが、攻撃力に関しては食らった攻撃を学習してより強い形になり変わる。まだ、進歩の途中にあるのならば、現行の魔術の最高レベルである紅蓮乱流でも勝ちうる。

 紅蓮乱流は再び飛ぶ。ジーンが先を走り併走するようになる。

 ジーンが跳び紅蓮乱流の額の上に、自らの杖を投げ置きその上に立つ。

 紅蓮乱流と、ジーンの杖は拮抗し合い物理的な干渉を生む。

 ジーンは杖が独眼巨人ののど元に刺さるようにわずかに紅蓮乱流を踏みつけて調整する。

 紅蓮乱流が独眼巨人へと襲いかかる。

 杖がのど元へと走る。独眼巨人は腕を前に置いて、杖を防いだ。次いで襲い来る紅蓮乱流に対しても腕を前に置いてのど元への攻撃を受ける。

 衝突の瞬間にジーンは飛び、独眼巨人の頭を踏み台により高く上へ、後ろへと飛ぶ。

「我、求めしは至高の炎剣。手にせしものを最強たらしめる剣! 我の手でなくとも輝き続ける、至高の炎剣!」

 ソルファは再び手に持った杖に炎剣を成すと、ジーンに向かって投げつけた。

 ジーンは空中で受け取る。

「っけぇえい!」

 投げられた剣の勢いを殺さないようにさらに回転。狙いをつけてぶん投げる。

 紅蓮乱流が消える。その後を追うようにして、炎剣が飛来する。

 独眼巨人の腕は前に置かれたまま、その上を通り過ぎてのど元へと突き刺さる。

「Ryiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!」

 ソルファはそのまま突っ走ると、高く飛んだ。

「我を加速しめし、炎顕れよ。一つの流星と成せ」

 跳び蹴りの構えとなるソルファ。炎の円が顕れ、その中へと蹴り抜く。

 蹴り抜くと共に、ソルファの全身は炎に包まれ加速する。

 それは思い描いたとおり一つの流星だった。

 独眼巨人の喉に突き刺さった。炎剣を跳び蹴りでさらに深くに蹴り込む。

 カチン、とコアに至った感触はあった。だが、まだ一つ足りない。「ジーン!」

 振り返って叫ぶ。

「分かってる」

 ジーンが着地すると再び駆ける。

「彼を加速せしめし、炎よ再び顕れよ。彼を一つの流星と成せ」

 ソルファは詠唱して、ソルファを加速させた炎の輪を空中へと出現させようとする。

「oOOOOOOOOOOOOOOoooooooooooooooooooOoonnnnnnnnnnnn!!」

 独眼巨人は咆吼し、腕の目玉から全方位に向けて光線を放つ。

 ソルファの足下に着弾する。

「うわっ!」

 ソルファは詠唱はほとんど終えていて、後はどこに出すか設定する段階だった。

「しまった!」

 独眼巨人の光線によって、炎の輪が出現した位置が大分前になってしまった。

 ジーンがそこに追いつく前に独眼巨人が回復して剣を抜いてしまう。

 回復して剣を抜けば、紅蓮乱流を受けたことによってさらなる攻撃力を獲得する。この曲芸じみた一発以上のものが必要になる。そうなれば勝てない。死ぬまでだ。

 失敗した。そう思った。

 何もかもが終わってしまう。

 もう駄目だ。ここまで来て自分のミスで失敗してしまった。ソルファは何もかも諦めてうつむく。


「まだ、諦めるな! 勝つまでは、勝つまでは顔を上げてそこで見ていろ!」


 ジーンが走る。ジーンが叫んだ。

 ジーンは走る。

 顔を上げれば、ジーンはまだ諦めて無かった。彼は走る。追いつけるように走る。

 その瞬間の時間はまるで止まっているかのようだった。

 ジーンは届かぬ残像に届くように、走る。

 手を伸ばし、残像をつかみ、残像を超える。止まった時間の中、彼だけが一人独走しているかのようだった。

 必要な時間を追い越してジーンは高く飛ぶ。

「いっけぇああああああああああああああああああああ!」

 跳び蹴りを放つジーン。

 炎を纏って、加速して一つの流星になるジーン。

 独眼巨人は炎剣に手をかけて抜こうとする。

 瞬間、流星となったジーンの跳び蹴りが炎剣へと突き刺さった。

螺旋轟炎脚らせんごうえんきゃく

 ジーンは足を捻り、螺旋と成し、さらに勁力を発揮すると蹴りへと上乗せする。

 蹴りはより深く入り、炎剣は背中へと突き抜けた。

 ジーンは飛び、着地すると独眼巨人はわずかにジーンを振り返りその場に倒れた。

 白い爆発が起こり、地面を揺るがす。

 ソルファはまばゆい爆発に目を閉じる。光が開けて、目を開けると独眼巨人がいたところにはミハエルと、燃えている魔術書の二つになった。

 魔術書は、数秒のうちに燃え尽きて真っ黒な消し炭になった。それを見て、ああ、なんとか勝つことが出来たのだなと確信を得た。

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