スタンドアローンバディシップ

 選手交代。

 ジーンは一人前へと出る。

 独眼巨人に刺さっている火の槍が砕けた。独眼巨人の全身に切り傷がつくが、すぐさま再生して元通りになる。

 この化け物に対しての勝ち方はジーンは知らない。

 ジーンが知っているのはあくまで、魔術を纏った人間の倒し方であって化け物の倒し方ではない。

 最高の切断力を持つソルファの炎剣でも傷はほとんど付けられない。傷が付いたとしてもすぐさま元通りになってしまう。ソルファの炎にしても恐らく焼けた端から回復しているのだろう。

 己の持つ、相手の内部から崩壊させる発剄にしても手応えは無い。

 恐らく体内に衝撃を与えることは出来ているはずだが、壊れ切るには至らない。それか、壊れたはしからすぐに回復している。故に有効打たり得ない。

 内面から、あるいは外面から持てる最大威力の技をぶつけても効果は無い。

 ならば急所を突くことになるだろうが、そもそもあれが人と同じ構造をしているかは大分怪しい。

 眼球を一度攻撃したがあれも他の皮膚同様の硬度を持っていた。

 どこを狙えば良いかと言う観点においては、ジーンにはまるでさっぱり分からなくなっていた。

 ソルファにはこの手がかりのようなものが見えているのだろうか。

 ともあれ、自分の役割はソルファにより多くの手がかりを与えること。恐らくそれが自分の成すべき事だ。

「さーて、始めようか。ここには俺と、お前二人っきりだ。お前に、俺が狩れるかな? 狼さんよ」

 独眼巨人が腕を前に突き出し、光線を放つ。前方、左右、上から同時に襲いかかる光線。

 ジーンは前へと走り出した。

 前方から、自分へと飛来する光線だけを避けて、独眼巨人に接近する。

 接近と同時に、独眼巨人のつま先へと杖を走らせる。

 当たる、が弾かれる。巨人も気にした様子も無い。

 ジーンが避けた光線たちが背中から、ジーンへと襲いかかる。

 ジーンは独眼巨人の足下に滑り込むと、すぐさま立ち上がり背面へとすり抜ける。

 追いかけてきた光線が独眼巨人に降り注ぐ。

 独眼巨人に対して威力が無いことはジーンもよく知っている。盾に使ったまでだ。

 振り向きながら脇腹を突く。弾かれる、効果は無し。

 羽から白い粒子ははき出して、独眼巨人は回頭する。腕も同時に振り回す。

 ジーンは一方後ろに下がって回避すると、すぐさま突進し肩を突く。

 そのまま真っ直ぐに走り抜けて安全圏内へと逃げる。

 こちらを向く前に、ジーンは再び接近する。

 すねと、側頭部を撃って、後ろへと走り抜ける。

 独眼巨人が光線を放つ。

 ジーンは逆に後ろへと下がって、向かってくる光線を収束させる。斬り払って霧散させた。

 独眼巨人は背中の羽を推進力に一気に前進する。

 ジーンもまた、同じように正面に走り出した。

 独眼巨人が真っ直ぐパンチを繰り出す。

 攻撃は見切っている。速さはあれども、告知してから殴るような初期動作の緩慢さだ。

 すんでのところで避ける。

 風圧が頭を揺らした。

 意識を刈り取られかかるが、たぐり寄せて前へ。

 すれ違うように胸をうち、反対側へと駆け抜ける。

 杖を突き刺して、反動で振り返りそして走る。

 ジーンが行う戦術はヒットアンドアウェイだった。

 近距離で戦えば、腕を振り回す攻撃に直撃してはじき飛ばされる。

 かするだけで致命的なダメージになるような攻撃だ。杖で受けところで杖ごと貫通されるのがオチだろう。

 故に打撃を当てて、逃げ、打撃を当てて逃げを繰り返す。

 遠距離で、あるいは離れ際に警戒すべきは、追いかけてくる光線。

 離れ際に関しては撃ってすぐさま離れることと、後ろに目を付けるつもりで警戒をする。遠距離時の場合前に避けて、格闘距離に持ち込めば立ち止まらない限り巨人に当たる。

 この戦術がうまくはまっていてくれるうちはこれを繰り返す。

 繰り返し続けること十回以上。ジーンは様々の箇所へ打撃を与えながら、戦闘を引き延ばしていた。

「うらぁ、行くぜ! 行くぜ!」

 ジーンはまだこちらを振りかえれていない、独眼巨人の背中から襲いかかる。

 腰、背面、頸椎へと三連撃を突き込む

 独眼巨人はこちらを振り返りながら、腕の目を瞬かせる。

 光線が来る。

 そう直感して横っ飛びで避ける。光線が背中側へと抜ける。

 すぐさま転がって立ち上がりももを叩き、のど元をつきにかかる。

 のどを突きに行った刹那、巨人がずれた。

 体を瞬間的に回転させて背を向ける。またも頸椎にあたって弾かれる。

 そのまま回転して、ジーンを殴りつける。

 離れるように転がって回避……間に合わない。

「ごっはぁっ!」

 肺から強制的に空気をはき出させられ、喀血する。

 痛い、熱い、焼ける、冷たい、痺れると打撃に対しての体の拒絶反応が一気に放出された。

 吹き飛ばされて、数度地面を転がって起き上がる。

 ああ、まだ生きている。それがジーンの抱いた感想だった。

 回避の動作が勢いを吸収し、防御で受けて、なんとか生きられる。まともに食らえば生きていない。

 衝撃は肘の先に集中し、その肘が肋骨を砕いた。被害はざっとそんなところだった。

 なんとかして起き上がる。

 気の巡りをコントロールして痛みを無かったことに暗示する。

「おいおい……マジかよ…………」

 独眼巨人を見ると、頭の目、腕の目が全て瞬いていた。

 光は両腕と頭の三点の真ん中に巨大な光弾が形成されていく。作られていくごとに周囲の地面が抉られていった。

 避けられないと判断する。避けたところ余波で体を解体される。

 受ける事を判断。

 ジーンは杖を高速で回転させて魔術を打ち消す障壁を作り出す。

 光弾が射出され、障壁へとぶつかる。

 衝撃にひび割れる。

 ジーンは杖を回し続けて、障壁の回復を図るが壊れる方が速く砕け散った。

 そのまま、杖で直接受ける。

 術式の限界を超えて、杖にひびが刻まれていく。

 光弾は減衰する様子は無い。一切無い。

 あと数秒で自分は死ぬな。と確信が出来た。あの馬鹿は自分がやられている間に逃げることが出来るか? いいや、無理だな。ここで全員が死ぬ。

 そう確信が出来た。


「求めしは、最高の硬度を誇る炎の鈍器、我が手に顕現せよ!」


 天使の声かと思った。生きられる。まだ生きられる。

 何せ最高に信頼している相棒が戻ってきたんだ。

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