戦闘ー独眼巨人
左翼からジーン、右翼からソルファ。別方向から独眼巨人へと接近する。
独眼巨人は立ち止まり、どちらに襲いかかるか迷う。
一番に攻撃を放ったのはジーンだった。
ジーンは杖を突き込む。
胸部に当たるが、弾かれる。次いで連続攻撃を放つが、すべて堅い鉱物でも叩いたかのように弾かれる。
「っつぁ、堅ぇ!」
ジーンがたまらず後ろへと後退する。
ジーンの攻撃の特徴は力以上に的確に急所を捉えるその技量だ。威力はそこまで無い。
「僕が行く」
力推しならば自分以上に適任は居ない。そういう確信があった。
「一撃必倒!」
全力で踏み込み、前足で勢いを止めてその勢いを炎剣の先へとぶつける。
炎剣は額を捉えた。
巨人はぶつかり、立ち止まる。しかし、炎剣を上げるとわずかに切れ込みが入っている程度で、切り傷を与えた程度だった。
そしてその切り傷も数秒経って、元通りに回復した。
「そ、そんな!」
ソルファは愕然とする。
自分の全力が、こうも通用しないことに衝撃を受けてしまった。
「ソルファ、危ねぇ!」
ジーンが足下へとタックルして、ソルファを押し倒す。
ソルファがいた場所を独眼巨人の腕が、凄まじい速度で通り過ぎていった。
「追撃来るぞ、起きろ」
「あ、ああ分かってる」
ジーンがソルファの上からどき、それと同時にその場から飛び退く。
独眼巨人の鉄槌が振り下ろされ、地面を揺らした。
後ろへと走り立ち止まる。まだ、独眼巨人は止まったままだった。
「落ち着けソルファ。お前の全力が効かなかったからなんだ! 俺なんか急所外せば、いつものことだぞ!」
ジーンがソルファは叱咤した。
逃げた事でソルファは幾分か、落ち着きを取り戻すことが出来た。
「いつもって、まあいつもか。僕にも効かないし」
こつん、とジーンの拳がソルファの頭を打った。
「イタ」
「お前はひと言多いんだよ。……ソルファ。教えてくれ。あいつは何だ? ミハエルなのか? 俺にはあいつの気配が、あれからはまるで感じ取れない」
「彼はミハエルであってミハエルじゃない」
「どういうことだ?」
「彼であって、彼で無くなる。彼は自分の肉体をただの魔術を出力するための機械になった。その結果があの姿だ」
「つまり、あの姿が魔術って事なのか?」
「そう言うこと。変貌に少し近いかも知れないが、魔術の原初が人の形をして歩き回ってるそう考えるといいと思うよ」
「馬鹿げたことを聞くけど、強いのか?」
「強いよ。今の魔術師はここの教師レベルが束になっても勝てるか勝てないか分からないレベルだ」
「なるほど、それがあいつが用意した切り札って訳か」
再び、独眼巨人は駆けてくる。
ソルファは横へ走ったが、ジーンはその場に留まる。
「ジーン!」
ソルファは叫ぶ。けれどもジーンは笑う。
「見てろ、お前はお前のやるべき事をやれ」
独眼巨人はジーンへと襲いかかる。
前に進みながら、独眼巨人は拳を右、左と振り下ろす。
ジーンは全てをすんでのところで全て回避していった。
五発目、横凪に腕を振るう独眼巨人。
ジーンは腕の下に潜り込むと、懐に入る。
拳を腰に、前足を強く踏み込み、地面を揺るがし、土をえぐり取る。
「岩砕崩拳」
打撃音があたりに響き渡った。
独眼巨人が後ろに下がらされる。が、すぐさま前へと歩いてジーンを殴り飛ばした。
ジーンはあえて自ら後ろに飛ぶことによって、その衝撃を軽減する。
ソルファはその間に、後ろに回り込むことに成功した。
ソルファの杖からは炎の刃は消えている。ソルファは杖を杖として、新たな術式を唱える。
「求めるは、炎。成すは、無。全てを焦がし、灰へと、白へと成す白き炎を我のもと顕現せよ」
独眼巨人の足下が円形に、橙色を帯び火柱が空へ向けて上がった。
火柱は、橙から、青、白へと変化して輝き独眼巨人を焼く。
炎は輝き、空へと消える。
独眼巨人は変わらずに同じ場所に立っていた。
「我、再び成すは剣。顕れよ!」
炎剣を再顕現させる。それと共に、火球を纏わせ、身体強化も成す。
肩に担ぐ構えで、走り、巨人へと接近する。
「ええええああああああああああああああ!」
背面から斜めに一気に切り下ろす。
皮膚に弾かれるが、構わず連続で切り下ろす。
首、腕に、肩に、足に切りつけるが。多少の切り傷を与える程度のものだった。
独眼巨人が振り返りながら殴る。
ソルファは後ろへと跳びながら、纏わせた火球を顔面にぶつけて飛び引いた。
着地と共に、後ろ向きに走って距離を取る。
「ジーン、無事?」
横目に見ながら、立ち上がろうとしているジーンに声をかける。
「なんとかな……。食らったのほとんど風圧ぐらいなのに、まあまあ効いたわ……」
ジーンも立って構える。
効いたぐらいなので、そこまで致命的なものでもない。もっとも真っ正面から攻撃を受けていたら上半身が無くなっていてもおかしく無いだろうとは思える。
「わりと最大威力の技をぶつけてみたんだけど、効いてる……か?」
「効いてるようには見えないな。俺もやってみたけど、多分駄目だ。岩砕崩拳は、決まれば中から砕ける技だ。あいつが後ろに下がった段階で効いてはいないだろうよ」
ソルファが行った術は、ソルファが持つ中で最も熱い炎の顕現だった。
範囲を狭めその中に自分の持てる炎を圧縮して、燃焼させる技だった。範囲内にあるものは今まで何であれ燃やし尽くすことが出来たものだ。
一方のジーンの岩砕崩拳は、ソルファは一度だけ見たことがある。文字通り岩を砕く拳だ。流れを完全に制御し、一気に押し出す大技。手加減された状態で食らったことがあるが、一撃で気絶させられた。
ジーンが持っている技の中でも最も威力のある一撃だろう。それもどうやら効かないらしい。
「ooooooooOOOOOOOOOOOOOWRYYYiiiiiiiiiiIII!」
独眼巨人が空に軋む金属音で咆吼する。
うずくまった瞬間、巨大な白い羽が背中から飛び出して、展開する。
前腕部の腕が隆起し、太く、巨大になっていく。太さが独眼巨人の腰回りぐらいの大きさになると、拡大は、止まり、今度はうねりながら形を変えていく。
腕に出来たものは巨大な箱のようなものだった。腕の箱、全ての面には彼と同じ色の瞳のようなものが規則正しく並んでいた。
「WeeeeeeeeryiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiIIIIIi!」
ぎょろりと箱についた目がジーンとソルファを睨んだ。
「本気出すってか?」
「こっちは勝てる算段がまだ無いっていうのに」
刹那、光線が放たれ、二人へと一斉に襲いかかる。
ジーンもソルファも避けた。
避けるが追尾して、曲がって追いかけてくる。
複雑な軌道を使って回避するが、数個が脱落しただけでいくつは追いかけて来る。
ジーンは杖を回転させて、盾を作り出して打ち消し、ソルファは切って払った。
独眼巨人は羽から白い物質を放出しながら、接近してくる。
ソルファの直ぐ目の前にあらわれると拳を二度三度振り下ろす。
「ぐっ」
ソルファは炎剣を盾にしてしのいだ。
独眼巨人の後ろからジーンが跳び蹴りを放つ。
ダメージは与えられた様子も無かった。巨人は無造作に振り返り、ジーンをつかもうと手を伸ばす。
ジーンは空中で、その手を弾いて自分の体の向きを変えて着地する。
ジーンはそのまま片手で独眼巨人の眼球目がけて突きを放つ。
眼球は他の皮膚と同じようにはじき返す。
ジーンは弾かれた反動を利用して、杖を回す。逆側でのど元へ向けて突きを放つ。
独眼巨人はそれを手で払うと、ジーンがバランスを崩す。
バランスを崩したところ、独眼巨人は殴りにかかる。
ジーンは独眼巨人後ろへと駆け抜けるようにして避ける。
瞬間、独眼巨人の腕の目が瞬き、光線が放たれる。
「うげっ」
ジーンは慌てて振り返りながら、光線をいくつか払うが撃ち漏らした数発が直撃し、爆発した。
「セット13、セット26、セット39……セット52」
ソルファは炎剣を消し火球を顕現させる。正確には炎剣を火球に変換している。
「セパレートセット104、オールランスフォーム」
52の火球は倍の小さな火球になり、全てが全て小さな槍の形を取る。
それと、ともにずらりと独眼巨人の周りを取り囲む。
全ての火球はソルファがコントロールしている。すでに脳にかかる負荷は限界近く高かった。脂汗が額から流れ落ちる。
火球の同時顕現は今出ているこの数が限界だと言うことをソルファは試して知っていた。
無理を知った上で、現状をイメージしながら詠唱をする。
「我、求めるは、我が炎による槍の軍勢」
104もの同じ火の槍を顕現する。
全てで208もの火の槍が独眼巨人を囲む。
「倍加……」
さらに増えて、全てで416の火の槍が独眼巨人を囲む。
瞬間、ソルファは脳を焼き切られそうな激痛が頭の中を走った。
「あ、ああああああああああああああああああああああああ!」
叫ぶ。絶叫することで意識をつなぎ止める。
壊れろ。壊れるな。壊れてくれるな。繋がれと頭の中でめぐる。
壊れないと言うことは分かった。意識はまだ繋がっていてくれることは分かった。
出す指示は簡単だ。ただひと言あれば、槍兵達は走る。
「しっかりしろソルファ!」
ジーンが叫んだ。
独眼巨人の拳と光線を受けて、自分よりも怪我をしているのにジーンは叫んだ。
(僕の心配より自分の心配してよ……)
わずかに心が軽くなった。脳の痛みは一瞬だけ引いてくれた。
「オール……アタック」
雨のように、独眼巨人の周囲から火の槍が襲いかかる。
迎撃に独眼巨人も腕の全ての目から光線を出すが、絶対数で叶わない。
次々と独眼巨人の体中に火の槍が突き刺さっていく。
全身に火の矢が突き刺さり、独眼巨人は静止する。
ソルファの最大の切断力を持つ剣で少し傷を付けられる程度ならば、この状態でのダメージはたかが知れている。見た目には派手だが、そんなには効いていない。
ソルファはその状態をよくよく観察する。
この攻撃を放って当てた時、どういう行動をするか、それがソルファの観察の目的だった。
刺さっている火の槍が砕けた。独眼巨人の全身に切り傷がつくが、すぐさま再生して元通りになる。
データを一つ手に入れる。それだけのために酷く消耗した気がする。
「ソルファ、生きてるか。死にそうな顔をしているが」
ジーンがいつの間にか戻って来て、ソルファの横につく。
「ああ、大丈夫さ君程じゃない……」
ソルファは呼吸を整える。
しっかり息を吸いこめば、前はしっかりと見えてきた。
作戦を考えないと始まらない。勝機はある。確信には遠い仮説だが、いくつか倒せる仮説は浮かんでいる。
「なあ、ジーン。一人で戦う事って出来るかい?」
「ふざけているのか、お前?」
殺す相手を見つめる眼差しで、睨み付けられた。
「ふざけてない。質問に答えて」
真っ直ぐにソルファはジーンを見つめ返すと、わずかにジーンはたじろいだ。
「……逃げるつもりで言っているのか……、お前?」
「いや、勝つために。ジーン、君は一人で戦うことが出来る?」
ソルファは同じ質問を重ねた。
ジーンは、表情を緩めて肩をすくめた。
「お前のことだ。どうせ何かやりたいことがあるんだろう?」
「うん」
真っ直ぐジーンを見てそう言いきった。
ジーンは拳を作って、ソルファの胸を叩く。
「お前には、俺が見えていないものが見えているんだな?」
「うん、多分。もう少しで勝ち方が分かると思うんだ……。だからじっくり観察もしたい。それと……」
「分かった」
すべて言い切る前にジーンは頷いて、一人一歩前へと歩み出た。
「待って、まだ全部話してはいない」
「多分、俺が聞いてもそこまでは分からない。俺には、お前がやるって言うことだけ信じてやれる。能書きはこの際無くったって良いさ」
背を向けたままジーンは言う。
「ジーン……」
「なんだ? まだ何か足りないか?」
「あー、うん。あと、少し僕の回復に時間がかかる。出来る限り戦闘時間を長引かせて欲しいのと、あと、出来る限りどこでも攻撃して。倒さなくて良い」
ジーンは振り返る。酷く脱力したみたいだった。
「呆れた……。けどまあ、それぐらい要求があった方がお前らしいか。分かった、行ってくるぞ」
「勝つよ、ジーン」
「おうよ」
ジーンは前へと駆けだして行って、ソルファは後ろへと飛び退いた。
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