ゴーストにバスターされてしまった被害者の会
翌日放課後になってからソルファが向かったのは、学園内にある病院だった。
受付で面会と言って、目的の人の部屋番号を聞き出して、部屋へと向かう。
ノックを数回して、中から返事が聞こえたので部屋の中へと入っていく。
「あー、どうも、こんにちはお元気ですか?」
「お前……何しに来た?」
訪れられた入院患者は不機嫌そうに答えた。
彼の名前はジュエル・ジ・アイロン。つい一昨日、ファントムに
ソルファはそんな彼の様子など気にはせずに、椅子に座った。
「まあ、手土産も無いですし。僕たちそこまで親しい間柄じゃないですよね? なので本題に入らせてもらいます。聞きたいのはファントムの事です」
「お前もおれを笑いに来たのか……?」
「聞きたいのはあくまでもファントムの事です。別に君を笑う理由もなければ、道理も無い。ファントムと戦うには実力が足りなかったそれだけのことです」
そう言い切ると、ジュエルは沈黙した後で
「なるほどな。確かにそれもその通りだ。おれには実力が足りなかった。確かにそれだけのことだ。大体お前がそんなくだらない領域にいるはずもないか……」
「はい、その通りです。ただ実力が足りなかっただけなんです」
「お前な、それ素でやってるのか?」
「何のことですか?」
ソルファは首をかしげると、ジュエルはため息をついた。
「あ、そうです。本題です。本題。ファントムについて色々聞きたいことがあって、今日はここに来たんです」
「なんで、ファントムについて聞くことがある? 幽霊狩りでも始めるつもりなのか?」
「その通り、明日の夜に、僕はファントムに挑戦しようと考えています。どうにも噂話を拾い集めるよりも、実際に戦った人間の感想なりを聞いた方が良いかなって思いましてね……」
「なるほど? たかだか二分程度の間に一方的にぼこぼこにされただけだけど、それでも聞きたいか?」
「はい。是非とも」
ソルファは、前のめりになって目を輝かせながらそう言った。
「う、近いんだよ」
「はい」
のけぞってジュエルが答えると、ソルファは元通り椅子に座って、メモとペンを取り出した。
「まず俺の戦い方の特徴だ。基本的に俺は弾丸にに魔術の術式。パッケージの為のミスリルの弾頭、これに簡略化した術式を組み合わせて射出する。で、使うのは銃だ。属性は鋼と炎。戦いではこんなところさ」
ジュエルは試験では銃は使わずに、学園が指定した杖で鋼と炎を練り合わせた個人言語を披露していた。術式難度はBクラスの達成度はAクラスとトップクラスに入る成績を取っていた。
「試験とやってることは違うけど、そっちの方が強いって事?」
「まあそう言うことだ。こと対人戦と、対軍戦というのはちょっと勝手が違う。対軍の大規模な術式をやれっていうんなら、おれはああするが、一対一、それも
「なるほど」
「それでさ、ファントムとやるってことを賭けの大本に宣言したときから、おれは結構準備はしていた。勝てばヒーローで金も手に入る。万全の体制でファントムには挑んださ。確かまだいくつか弾丸の予備はあったな」
そう言って、ジュエルはベッドの横に置いてある鞄の中からケースを取りだした。そこには四色に分けされた弾丸が転がっていた。
「一応全部予備はあるな。赤いのが狙撃用で、加速が速く、風や重力の影響も受けにくく貫通力と衝撃力が高い。青いのが散弾。近接戦闘で射撃と共に広範囲に広がる。散弾に当たれば爆散する。白いのが、刃だ。トリガーを引くことによって一時的に銃身の先に魔術の刃を作ることができる。緑が追尾弾、ある一定の間なら自分以外の熱を探知して追いかけてくれて当てれば爆発する。これを四丁の銃に仕込んだ」
ジュエルはまず赤い弾丸と緑の弾丸を取り出した。
「先手を打ったのはおれだ。指定の場所にファントムが現れた時、俺は奴の五〇〇メートル背後にいた。赤の弾丸を入れた狙撃用の銃で狙い撃った。すると奴は後ろに目がついているかのように動き出した。追撃するように赤を撃ったが隠れられてダメになった」
ジュエルは次に赤の弾丸をケースに戻すと緑の弾丸を前に出す。
「で、次にこいつの出番だ。おれが考えていたのはこの緑の弾丸の追尾の回避に必死になっているうちにもう一度赤で狙い撃てる位置につこうと考えていたんだ。で、結果から言えば緑もダメだった。奴はこっちに接近しながら巧妙に緑を避けて来やがった」
「そうなると、接近戦になるね。ここまでファントムから何か仕掛けは?」
「無いよ。奴は
「身体強化の術式が強固と見るか……あるいは……。そうだ、その先のことを教えてよ」
「そうだな。おれは、逃げてなんとか体勢を立て直そうとしたがファントムを見失ったんだ。気がつけば背後にいて、杖を振り下ろしてきたよ」
「かき消えるように消えて、また現れる。それは戦いの中でも使ってこられるんだね」
「そうだ。おれはそれをやられた。初撃はなんとかしのいで、赤と緑の弾丸が入ってる銃を捨てて、青と白の弾丸入った銃を取り出した。白を起動して刃にして斬りかかると、むこうは後ろに下がって避けた。当たると思ったから青の散弾を撃ったら、当たるには当たったんだ」
「よく分からないけども」
「うん、杖が高速で回転したと思ったら弾丸は全て弾かれたんだ。……ディスペル。魔術を打ち消す魔術を使われたんだと思う」
「そんな魔術を使うのか……。無の魔術は使い手が少ないから特定しやすそうなものだけれども……表では見付からなかったの?」
表とは、学園に登録されている個人言語の事である。
ジュエルはかぶりを振った。
「ああ、もちろん賭けをして遊んでいる連中にも、情報はある程度あった。ファントムは魔術を霧散させる術を持っている。避けられないときはこれを使う。個人言語でこれを使う奴がいるなら、試験の結果だったりで特定出来るものだろ? 全部の学年において無の魔術個人言語にする人間は存在しなかったよ」
「確かにいれば、僕は注目するだろうなぁ」
ソルファはぼんやり言った。
「で、戦いの話しに戻るが、結局ガードさせることが出来たのはその一発だけだったさ。射線の外に回り込まれて一方的に殴られるだけだった……」
「接近戦での技量ってのはどうだったの?」
「おれの身体能力強化と、格闘戦の成績は中ぐらいの成績だ。あんまり得意じゃないし、接近戦の白い弾丸はほとんど防御にしか使わない。そんな程度の奴は接近戦において最高級の力を発揮するファントムに一方的にやられる他は無かったさ」
「それもそうか……。接近されてしまった時点で負けたようなものですか」
「だからお前はいちいち腹の立つことを言うな。まあ実際そうだ。接近される前に片を付けるのがおれのやり方だった。でも、格闘戦が得意な奴、身体強化、いや変化を個人言語にするやつでもあいつには負けていたからな。こと接近戦においては圧倒的な実力があるって考えて良いだろう」
「確かにそうだね。力や技術はどうだった」
「力に関してはそうたいしたことは無かったと思う。一撃で倒されるというより、
「なるほどね。個人的にはディスペルを行った事が気になるけど、どうやって使ったと思う?」
「おれの推測だけど、身体強化が変化まで行かずとも、かなり強力な術式を持っているが、ディスペルを付与した杖で戦闘力を補っている。もしくはその逆で、ディスペルを個人言語として、肉体強化魔術をより練り上げたかどっちか。賭けをやってるやつらにしても大体こんな感じで推測していると思うよ」
「んー、どっちもちょっと引っかかるなぁ」
ソルファの推理は大体ジュエルと一致していたが、微妙に気分が悪かった。何かがはまりきらないそんな感じだった。
「気配が消えるのに関してはどう思う?」
「あー、あれか。相対してみて思うのは魔力の気配があいつからは感じられないんだ。人としての生気みたいなものもね。だからみんなファントムって呼ぶわけだが。おれはあれは無の魔術の応用で、外に出る魔力を抑制しているのだと考えている」
「なるほど、確かにそうも考えられる」
けれども……とソルファは続けなかった。
確かに無の魔術の応用と考えることは出来る。けれども、無の魔術はそこまで都合良くも出来ていない。
無の個人言語魔術を使うにあたっては、そう簡単なものでは無いことは知っている。
術式の研究自体はしたことが無いが、無の魔術はそれを使っている間は他の魔術を使うことが出来ない。だから平素のように二つの呪文を組み合わせて実行するということは、一般的には不可能とされている。これを覆した事例はソルファは知らない。
無の魔術の根底にあるのは魔術の根源である、病理を否定しうる強力な力だ。
片方に無を作り片方に有を作れば、
また、無の個人言語にはどんな共通言語魔術も同時にかけることが出来ないというのもまた一般的だ。
ジュエルが言ったことだったり、賭けを行ってる連中の推測はある一定の正しさはあるが、この事例のかたまりをぶつければ無くなると言うことを示していた。
そしてこの仮説が無くなった後の仮説をソルファは今のところ見いだせずにいた。
議論しても大してかわりは無いだろうと言う風にも考えられる。
「大体こんなところか?」
「そうですね。今日はありがとうございました」
ソルファは椅子から立ち上がって深々と礼をした。
「いや、気にするな。なんだかんだで、今ほとんど優秀なやつもやられたし、数を当ててもダメだってことでミハエルか、お前が挑むってことがなんだかんだで期待されていたんだよ。胴元にはおれが伝えておいて、その日は誰も出歩かないように計らっといてやるよ」
「ありがとう。何から何まで助かるよ」
「そう言うわけでおれはお前に賭ける。だから絶対に勝てよ」
「そうだねぇ……。まあ僕は負けるつもりは無いけれども、引き分けに賭けるのが一番儲かるよ」
最初、
「お前がそう言うんならそうしておくよ」
ソルファがこれ以降やろうとしている意図に気がついたのか、それとも、ただ単純にソルファの謙遜と取ったのか、ソルファには分からなかった。
返せるものがあるとするなら、これぐらいなものだろうと思う。
「それじゃあ、失礼します」
そう言って、ソルファは病室を出た。
結局ファントムについてのヒントは得られたが、答えまでは至らなかった。
さらに考察をする必要がある。ソルファはそう考えると、図書館へと急いだ。
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