第3話 食堂車
いつの間に眠ってしまったのか、ブラインドからうっすら光が差し込んでる。
「おはようございます。ここにおられましたか。食堂車の方で朝食のご用意ができています」
車掌が口元に微笑みを浮かべ、軽く帽子のツバを掴み僅かな会釈をして去って行った。
食堂車か……、昨日はどこまでも続く車室に嫌気がさして探索は途中でやめた。最後尾まではチェックした。だから、きっと食堂車は探索を止めた車室の先。あの奥にあるんだろ。
俺は立ち上がり、前方の車輛へ向かった。当たり前だけど、昨日の席にあの彼の姿はない。彼の席を通り抜け、扉を開ける。
人一人分の狭い廊下。エレガントな花模様の絨毯が敷かれてる。照明は灯っているものの、大きな窓から差し込む光が強すぎてほとんど意味をなしてない。
眩しすぎる。窓の外を直視できない。俺は顔に手をかざした。手の甲の影から、薄く開いた視界には白の中にほんのり緑色が映ってるようにも見えた。
窓の対面にはいくつかの扉がある。寝台車か……。この車輛は個室用のものだろ。
個室車両の二両目の通路を歩いてると、丁度中から人が出てきた。チラッと見えた中は小狭いながらも、綺麗な内装。どこぞのホテルのようだった。アンティークなデザインのキャビネットの前に二段ベット。奥の窓辺にはくつろぎスペースもあった。三両目も同じく個室車輛で、その先に幅の広い大きな扉があった。
食堂車はあそこだろうか。
扉を抜けると、女性の乗務員の人が丁寧にお辞儀をして二人用の座席へ案内してくれた。
ゆったりとした一人用のソファチェアー。肘掛の先端には白いカバーがかけてある。白いテーブルクロスにオレンジ色のランプシェード。一輪挿しの花瓶には、青色の可愛いりんどうの花が刺してあった。大きな窓は、カーテンの代わりにロールスクリーン。
俺は一先ず、軽くドリンクのオーダーを済ませ再び内装へ目を向けた。壁面にはガラスのレリーフ。窓から漏れるひかりにキラキラと美しく輝いている。
ほどなくいい香りと共に、食事が運ばれてきた。
淵に装飾が施された銀のトレイには、フレンチトーストとサラダ、カップスープ。オーダーしたミルクと、フルーツのコンポートがのっていた。
朝からなんとも優雅なもんだ。
豪華な列車に豪華な食事。どうして俺のポケットにこの列車のチケットが入っていたのか。まるで記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったように何も覚えはないけど、こんな経験そうそうできるものじゃない。しかもただでだ。
本来なら臆病で身構えてしまうはずの俺だけど、今回はどうして。俺はこの状況に心配や疑いを微塵も感じていない。そういった細かいことを重要には思えないんだ。
ゆっくりと食事を味わい、食後の紅茶まで楽しんだ。
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