第2話 探索

 さて、何もわからないこの状況。取り敢えずするべきことは現状把握だろ。


 俺はチケットを内ポケットへとしまい、膝をポンと叩いてまずはこの豪華な列車の中を探索することにした。


 俺の乗った車輛しゃりょうからひとまず、列車の後方へ向かって歩く。さっきと同じ車室がしばらく続き、乗客はちらほらだった。ほとんどの窓はブラインドが下りている。五つめの車輛はサロンだった。


 両サイドにズラリと並ぶ長いソファ。等間隔にサイドボードを挟み、ボードの前にはオットマン。ソファの前にはミニローテーブル。サイドボードもローテーブルもヨーロッパの貴族とかが持っている調度品のようなデザインだ。機能面というより、装飾に特化したデザイン。窓はパノラマで風景を楽しめるようになっている。ギラギラとはしてないけど、豪華さが増してるだけあって、ココはブラインドではなく、カーテンだった。こちらもベルベット素材でゴールドの裾飾りがあしらってある。


 さすがに、この時間。サロンには人がいなかった。奥の扉の手前にはピアノがあった。


 次の車輛への扉を開ける。


 ここはバーか。カッコいいカウンター席といろいろなお酒のビンが棚に並んでる。蝶ネクタイのバーテンダーが静かにエレガントな手つきで客にお酒を振る舞っている。


 カウンターの反対側には立ち飲みスタイルの背の高い小さな丸テーブルがぽんぽんぽんと並び、奥はソファ席。最後部車輛なだけあって、デッキもあった。夜風にあたりながら一杯。なんてのも可能らしい。バーの客入りは数人で、みな静かに飲んでる。


 来た道を戻る。


 スタート地点まで戻り、反対側前方車輛へ進む。


 まだ、同じ車室だった。その次の車輛も同じ。どこまで行っても同じだろうか……。


 ちょっと飽き始めた俺の目に止まった乗客。


 次の扉の手前の席。オリーブ色のソファシートに足を組んで座ってる、若い男だった。彼は真っ白のスーツを着て、真っ白な靴を履いている。


 なぜ彼に目が止まったんだろう。


 オレンジ色の電球色でぼんやりと照らされる車室、オリーブのシート。彼は着ている物だけじゃない。その肌の色もまた白く。細く尖った鼻筋と輪郭。セットをしないストレートのショートヘアー。黒い髪が白に映える。一文字の眉、落ち着きのある瞳は琥珀がかった茶色いビードロ玉のようだ。車内の小さな電灯が余計にその存在を華奢に浮かび上がらせてる。


 高校生……か? 中学生は言いすぎだろうな。童顔だけど、顔がしっかり整っている。


 彼はただ窓の外をじっと眺めていた。


 俺は通路を挟んだ反対側、二つ三つ手前のソファに手をかけた。そこへ座ろうとしたけれど、やはり止めて来た道をまた引き返した。


 あの席に座ってしまうと、彼のことをじっと見てしまう。そんな気がしたんだ。

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