愛した者は失われた

....ちゃん にちゃん.... お兄ちゃんっ!!!

 

ハッとして顔をあげた。

 

「あれ?俺寝てた?」

 

「寝てたよ。もう、勉強中に寝るなんて....ねぇ、お腹減ったお兄ちゃん。」

 

「あぁ、ごめんな。今から作るよ何がいい?」

 

「んー。オムライス!オムライスがいい。私お兄ちゃんのオムライス大好き!」

 

「分かった。直ぐに作るからちょっと待っててね」

 

------------------

「んふふ美味しい。しあわせ....」

 

「奏ごめんな....」

 

「なんで謝るの?お兄ちゃん何もしてないでしょ?」

 

「だって俺達には母さんも父さんもいない....俺のせいで捨てられた....なのに小さいお前に苦労させて....お兄ちゃん仕事もっと頑張るから....」

 

「そんな事ないよ。私はお兄ちゃんが居ればそれでいい。」

 


こんな能力欲しくなかった....人を苦しめるような能力より人を守れる力が欲しかった....だからこんな事になったんだ....全部俺が悪かったんだ....だから許してくれ....

 

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どうしてこんな事になった?何が悪かった?そうだ....奏は?

 

「奏っ!!!何処だ奏っ!!!」

 

叫び声が聞こえた。奏の声だった....

 

「お兄ちゃんっ!!!来ちゃダメっ!!!この人達お兄ちゃんを連れていこうとしてる!逃げてっ!」

 

そう叫ぶ奏の口を塞ぎながら男は言った。

 

「俺はマフィアの者だ。ここに精神操作の能力を持つ者がいると聞いて来た。大人しく俺について来ればお前だけは助けてやろう」

 

「それじゃぁどっちを選んでも奏は死ぬじゃないかっ!奏を離せよっ!」

 

「どっちにしろこいつはこの事を知ってしまったんだ。誰かに話されたら厄介だ。殺せとも命令されてるんだ。だが、お前が着いてくるならお前見逃してやる」

 

「奏が死ぬくらいなら俺だっていっしに死んでやる。お前らマフィアになんてついて行くわけないだろ」

 

「そうか....ならお前から殺してやろう....向こうで妹を待っててやるんだな。」 

 

男は銃を構えた。撃った瞬間に能力を使えば奏だけでも助かるかも知れない....男がトラウマの中に居ればその隙に逃げられるかもしれない....そんなことを考えながら撃たれるのを待っていると奏が男の腰下げていたナイフを奪い男の腹に突き刺した

 

「なっ....くそ....お前よくも....」

 

男が激痛に悶えながら奏の心臓目掛けて弾丸を放った。何が起きたのか分からなかった....気づいたら俺は血塗れになりながら男にナイフを何回も突き刺していた

 

「おに....ちゃ....ん....も....やめて....死んでる....から....」

 

奏はまだ生きていた....弾が貫通していた。自分は何時までたっても役立たずだった....

 

「奏っ!なんで....なんで....」

 

「おに....ちゃんが....死ぬなんて....ダメ....私は....もうダメ....私の分まで....幸せに....」

 

そこで奏はこと切れた....ただ叫んだ....何が悪かったのだと....どうして妹が死ななければならなかったのかと....だけどもう後悔した所で遅い....愛したものは失われてしまったのだから

 

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何かが俺の頭を撫でていた。

 

「あ、起きた?おはよう。」

 

抑揚のない声で葉月は言った

 

「あぁ、夢か....」

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。俺よりか葉月ちゃんは自分の心配した方がいいよ。」

 


少しの沈黙の後「あの....」と葉月が言いにくそうに口を開いた

 

「あの....駿は沢山の無抵抗の人を殺したって言ったらどう思う?」

 

「駄目なことだとは思うよ....でもそうしないと葉月ちゃんは生きてこれなかったってことでしょ。それに葉月ちゃんはまだ子供なんだから遠慮しなくていいんだよ。俺じゃ頼りなかったら宵さんに頼ればいい。俺達皆葉月ちゃんの味方だから」

 

少しの沈黙の後葉月が口を開いた

 

「駿ってね....私のお兄ちゃんに似てるんだ....」


「そのお兄さんは今どこに居るんだ?」

 

「もう、死んじゃった....それにねお兄ちゃんだけど実のお兄ちゃんじゃないの....私がそう呼んでただけ....」

 

「そうか....俺も昔妹が死んだんだ....たった1人の家族だった....妹は死ぬ間際俺に私より幸せになってと言ったんだ....」

 

「妹さんが居たんだ....駿はいいお兄ちゃんだったんだろうな....」

 

駿が「そんな事ねぇよ」と葉月の方を振り向きながら言った時には葉月はまた眠ってしまっていた。

 

「愛するものはいずれ必ず失われる....か....いつか読んだ本に書いてあったな....今ならよく分かるよ....」 


 

 

 


 


 


 

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