第3話 ホカホカでじゅわーな奴

テストも無事終了(ある意味)して、私が向かったのは志望校の学祭である。


地元から電車を乗り継ぎ県境を過ぎて1時間半。

最寄り駅から徒歩5分。


とある栄養大学。

4年もかけて栄養、料理、健康について学ぶこの学校。だが、私の志望はこの大学にある養護教諭育成の為の課程であるのだが。


学祭は当然9割が調理関係。


養護学科の出し物はフランクフルトである。

キャッチコピーは「未来の保健室の先生が作るフランクフルト」らしい。

見渡してみると「学外への飲食物の持ち出しは禁止」や「アレルゲン一覧」など、普通の文化祭では有り得ないほど徹底された食中毒やアレルギーへの注意がある。


たくさんの屋台が並ぶ庭を抜けて、2号館と書かれた校舎に入る。


私の今日の昼ごはんは合唱と軽音楽、そして演劇を混ぜたサークルによる『ネギ塩豚丼』


ギター同好会がクッキーを焼く学祭である。


なんでもありか!と突っ込みたくなるのを我慢し、校舎内の3階へ向かった。


野菜も取れるネギ塩豚丼。三百円。


シンプルな教室を可愛く内装している。

みどりのギンガムチェックのテーブルクロスの上に青い画用紙をラミネートして出来たランチョンマットが置かれている。


店員であるサークルの部員たちはエプロン三角巾にマスク、ビニール手袋の上からアルコール消毒という徹底ぶりだ。


しばらくして届いた豚丼は、ご飯の上にキャベツと人参、パプリカなどが入った野菜炒めと細かい豚肉が乗り、白ごまが散らしてある。


正直、野菜はそこまで好きでない。

だが、出されたものは食べなくてはならないだろう。


割り箸を割って、野菜炒めとご飯を口にする。


もぐり。


キャベツのシャキシャキ、パプリカと人参の甘味。


これは

美味しい。


次は豚肉を野菜と一緒に。

塩の味がしっかり染み込み、それでいて柔らかい豚肉。それを受け止める野菜炒め。


栄養大学って、すごい。


気がつけば野菜炒めを先に食べ尽くし、残るはご飯と豚肉。


塩味のきいている、脂ののった豚肉をご飯と共に。


言い尽くせない幸福の味。


豚丼を食べ終えて、紙コップに入れた烏龍茶で口の中を一掃して教室を出る。


階段を降りた所で見つけたのは、白衣を着た理系男子。


彼の後を追って、『廃油を利用した石鹸作り』で翌日腕が筋肉痛になるまで廃油と水酸化ナトリウムを振り続ける羽目になることを、この時の私はまだ知らない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る