第2話 カリカリでトロトロな奴

三年生になると、午後がない日が増える。

午後がないということは、お昼ごはんを選ぶ幅が増えるということだ。


私は先日辞めたバイト先に制服を返しに行く為に、ショッピングモールを目指していた。


だが、真の目的は別にある。


ショッピングモールは、お昼ごはんの宝庫だ。ましてや平日には人が少ない。

並ばず、席を待たず、ストレスフリーでお昼を手に入れられる。


制服を返すミッションを無事コンプリートした私は迷わず2階へと向かった。

1階のレストラン街は高校生の財力には厳しめだが、2階のフードコートにはお財布に優しく、なおかつ美味しいものが揃っているのだ。


私が今日選んだのは……たこ焼きである。


普段は学校帰りに駅前の小さなたこ焼き屋で6個入り360円のものを買うのだが、今日は違う。


制服を返しに行くというコミュ障にはだいぶきついミッションをクリアしたのだ。

有名チェーン店の、8個入り550円のたこ焼きを食べるに値するだろう。


渡されたたこ焼きは乗せられた鰹節が踊る暖かさだ。

小袋のマヨネーズを均等に、しかし途中でミスりチグハグな大きさに乗せる。


「いただきます」


小さな箸とも楊枝とも竹ひごともつかぬアレを手に取り、端の一つを掴み、口に運ぶ。


さくっ。もぐり。


「あつっ。」


カリカリの外側が音をたて、とろりとして、舌が火傷するほどに熱々の中身が流れ込んだ。一つ丸ごと食べるにはまだ早く、半分程齧っておく。


プリプリしたタコの感触。

タコは苦手だがたこ焼きのタコが美味しく感じるのは何故なんだろう。

口の中で混ざり合うソースと鰹節、マヨネーズと生地の濃厚であり、マイルドな味。


はふ、と息を吐いて口の中を冷ましながら食べ進め、唇に付いたソースと青のりを舐め取る。


半分の4個を食べて、私が取り出したのはまたもやビタミン系炭酸飲料だった。


朝に買った残りである。


飲み込むと、タダでさえ微炭酸なのが抜けて、やけに甘ったるさが残ってしまった。


「まずくはないけど、合わない、かな」


たこ焼きにビタミン系炭酸飲料は禁物。

胸に刻んで残り4個のたこ焼きに立ち向かう。


このインターバルで少し冷めたたこ焼きは丸ごと1個頬張るのがよい。


もぐ。


よし、表面は冷めている。ソースとマヨネーズ、鰹節に青のりの味が舌の上にひろがっていく。


問題はここからだ。


さくっ。とろっ。


「あっっつ」


歯を立てて噛んだたこ焼きの中身はまだまだ熱く、舌を火傷した。


だが、これがたこ焼きの醍醐味ではないか?(多分違う)


だが食欲には勝てず、ヒリヒリする舌を誤魔化しながら全て平らげてしまった。


「お疲れ様、私」


唇を拭いて、ぼんやりと斜め上を眺めてみる。へんてこなデザインの天井をすることも無く眺めていると、私はあることを思い出した。


今日はテスト一週間前である。


私が立ち上がり、家に帰ろうとするまであと30秒。

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