ウサギ#32





『おーい、ソウ!


どうだった?』


白いスラックスに水色のブレザー

帝桜高校の制服



1人の帝桜の生徒がソウに声をかける


帝桜バスケ部『オナ中の奴らとは取り付けたか?うちは来週だけど急遽決まったよ』



ソウ『いやー、まだ1校だけ、あと1校やりたかったんだけどな』



帝桜高校は例年

入部した1年生が練習試合をセッティングする時期がある


中学時代に力のあるプレイヤーがどこの高校にいき、どんなチームになったのか

地区のパワーバランスを知るために

生徒から情報を得るためのものだ


レギュラーメンバーが向かうこともあれば

1年生だけの新メンバーが向かうこともあった




ソウは母校の暁中のメンバーが入った蓮城高校と練習試合を決めていた


そして

シンのいる克武高校にも声をかけていた







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


大城『はい。お電話変わりました、バスケ部顧問の大城です。』


ソウ『あ、あの!お世話になってます。帝桜バスケ部1年の楠ソウと申しますっ!


ソウは

【練習試合申し込み台本】と書いてある紙を片手に緊張した顔で電話をしている


相手高校に失礼がないように帝桜高校側が作ったものだ



ソウ『〜.……という理由で是非試合をさせていただきたいのですが…』


大城『そうですかー!ありがたい話しなんですがね、、今少し問題があって練習試合は組めないんですよ!』


大城は、電話の相手が高校生ということを理解しつつも丁寧に話していた


ソウ『…問題…ですか?』

大城『いやいや、お恥ずかしい話しなのであまり詳しくは言えないんですけどねw


うちとしては帝桜さんと練習試合なんてとてもありがたい話しですので、また準備ができたらこちらから声かけさせてくださいよ!』




〜〜〜〜〜〜





ソウは松戸からのLINEを終えると

自分の部屋のベッドで仰向けに寝転がり天井を見ながら呟く

ソウ『なにやってんだか、アイツは』














シンの祖父『オーイ、シン!肩が上がってるぞ!』



シンの後ろを車で走る祖父が、車についたスピーカーから声を出す



シン『ックソ…はぁ、はぁ』






家に着くとシンは庭の蛇口で顔を洗う


祖父『調子悪そうだなー、足でも痛めたか?午後は俺は山行ってくるから休んでろよ』


祖父は縁側でタバコを吸いながら話す



シンは転がっているバスケットボールをつき始める


ドリブルをいくつかつき、ゴールに向かって飛ぶが

走り切ったシンの足には力が入っておらずボールはリングに弾かれ庭のスミにある池に落ちる




シンはその場に座り込み

そのまま仰向けに空を仰ぐ




祖母『6月前なのにもう少し暑いねえ』


シンの祖母が洗濯カゴに山積みの洗濯物を入れ庭に出てくる



シンは無言で手を洗い

洗濯物を干すのを手伝う


祖母『聞いてるよー、高校入って喧嘩したんだって?


全く変なとこ父ちゃんに似ちゃったね』


祖母が言う父ちゃんとはシンの祖父のことである



祖母『父ちゃん昔っから喧嘩ばっかしてねぇ、働きに出てもすぐ上と喧嘩して辞めてくるんだよ。ありゃ、社会不適合者だね全く。走るしか脳がないからね。似ちゃだめだよあんなのに、まったく。』


セリフとは裏腹に祖母はニコニコしながら話している


シン『俺も社会不適合だからなぁ』

シンも笑いながら話す


祖母『アンタもタバコも始めちゃってるし、お母さんは知ってるのかい?タバコのこと』


シン『んぁー。多分気づいてると思う』


祖母は怪訝そうな顔で軽く説教をしながら昔話を話す




祖母『シンも16か、結婚相手とかはどうなんだい』


シンは眉毛をハの字に笑う

シン『ばぁちゃんはえーょwまだ学生だっての』


祖母『そうかい、そうだよなぁw早かったね16ってぇと父ちゃんと出会った歳だねぇ』


祖母は祖父との出会いの話しを始めた




部屋に入ると古いアルバムを出してきたいかにも戦後という白黒の古い写真が

1ページに1枚づつしか入っていないアルバム


何枚か目には若い男女のツーショット

昔の写真館で撮ったという


祖父と祖母のお見合い後の写真だという



祖母『ああみえて、父ちゃん優しいんだよ!昨日はタバコすすめてたみたいだけど、あの人が1回だけタバコやめてたことあったんだよ』


シンは祖父のタバコが生き甲斐というセリフ


そしてシンの記憶の中ではほぼタバコを吸っているシーンしか出てこないことを思い出す



祖母『ほら、あの人頑固でしょ。だから昔から、健康のためにタバコやめろって私とか周りが言っても絶対やめなかったんだよ。


でもね1回だけ。


あんたのお母さん

風子が3歳の時、喘息になって肺炎になったって大騒ぎになったことがあってね

そん時高熱出して苦しむ娘見て


自分のせいだ、自分のせいだって


そっから1日2箱も吸ってたタバコを5年間やめてたんだよ

キツそうな顔を一切見せずにね』



祖母は写真に映る家族写真

祖父、祖母

そしてその子供4人が笑って映る写真を指でなぞる


祖母『しかもあれ』


祖母は家の裏に繋がる井戸水が出る蛇口を指差す


その蛇口は今でも使っており、裏山からの天然水が出る蛇口である



祖父はよくその蛇口は自分が山から引いてきたと自慢をしていた


祖母『この水もね、喘息には水が大事だってなんかで聞いたのか、2年かかって山から自分で引いて、いろんなところに頭下げて借金して、水の検査してもらったり基材集めたりして


そりゃもう大掛かりでねぇ』




祖母『でも結局、風子のは喘息じゃなくて、ただのアレルギーでねwほら昔は病院も立派じゃなかったから、ずっと喘息だと思っててねw


それわかった途端タバコまた復活しちゃってね、父ちゃん単純だからね』





そんな話をしてると

庭に祖父のトラックが帰ってくる


荷台には1匹のウサギが横たわっている



祖父がトラックから顔を出し

手招きをしている



祖母はロープと包丁が入った桶をシンに手渡す




シンがその桶を祖父に手渡すと

祖父は手早くウサギを庭の端にある物干しに吊るし

皮を剥ぎ始める



シンは呆気に取られながら

ウサギが捌かれるのを見ている




シンはウサギを捌く祖父の真剣な顔を見ていた










祖母『ほらご飯だよー』


リビングにガスコンロが2台と鍋が2台運ばれる

祖父と祖母、叔父とシンの4人で2台の鍋とは豪華なものだ


鍋の中には捌かれたウサギの肉が山盛りに盛られている





シンは夕食を食べながら

祖母に聞いた禁煙の話しを祖父に話した


祖父は『余計なこと話すんじゃねぇよ』とぶつぶつ祖母に言いながら


シンに話し始める

祖父『シンよ、高校辞めねえのか?』


シンは

うーん、と話し半分に返事をする


祖父『くだらねえ、生き方すんなよ。


お前、今なにに一生懸命だ。』


シンは箸を止める


シン『わかんねぇ…』



祖父『何に悩んでるかしらねぇが、今を一生懸命生きられねぇなら死ね』


祖母『あんたまたそんな口がわるい…』


祖父『だまってろ!

これは男にしかわかんねぇんだよ!



シンおめぇ、半端してこっち来たんだろ


人様に迷惑かけてきたんだろ』



シンはまっすぐ祖父を見る


祖父は話を続ける

『走り方見りゃわかるんだよ、、特にオメエみたいな単純なガキは走りによく出てら



オメェはいつまで子供でいるつもりだ


掘りもんまで入れちまったのはオメェの覚悟だろ』


叔父『シンおまえ、紋紋入れたんかw』


祖父『シュウッ!!茶々入れんな!』

祖父はシンの叔父を睨む



祖父『一生懸命、本気になれねぇもんを身体に刻むようなやつじゃねぇのはわかってる


中途半端にやるな


やるなら本気で、死ぬ気でやれ


やれないなら死ね!


やるか、やられるか


相手にじゃない


自分にだ


自分にやられるな』


祖父の言葉の本気は

イマ

言葉ではない

生き死にの話しは

イマの人には伝わらないのかもしれない


それでもシンには


吊るされたウサギの姿を


ウサギの瞳の黒さから


一生懸命に生きるとは

ということを


文字どうり

必死に考えていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る