ノート#31




「あんた、シンがいるんだからやめなさいよ、臭い…」



食卓の食器を片付けながら

シンの祖母は、寝転びながらタバコに火をつけた祖父に言い放つ


祖父「平気だよなぁ?シン?

どうせお前もそろそろ吸いたくなる頃だろ」



祖父母の家に来て2日目の夕食を終えたシンと祖父母と叔父


暴力沙汰で停学になったことは母親から、祖父に伝えられていた


祖父は元陸上競技選手であり、オリンピックに出たこともあるという武勇伝のもと



親戚が来るたびに山登りと称して、キツいランニングをさせることで有名だった


シンの母は4人兄弟でシンの母が3番目

下に弟、上に兄1人、姉1人がいる

かつてシンの叔母が連れてきた旦那さんも山道を走らせたところ山の途中でダウンし、祖父はその旦那を置いて帰ってきたことから


シンの叔母はもう5年も顔を出してないのだという



シンは昔から、悪さをすると反省と称して度々、今回のように連れてこられていた



しかし、当の本人は何も考えず走ることができるこの環境


スポーツマンとしての考えや性格が祖父と合っていたのか、それほど苦に感じておらず


祖父もまた自分の練習という名の気まぐれに付き合ってくれるシンを可愛がっていた







祖父「タバコ吸うと体力落ちるなんて、ありゃ嘘だ!おれぁ、12から吸ってるがピンピンしてらぁ」


ニヤニヤしながらシンに語りかけながら

タバコの箱をピンッと指で弾き、シンの前に飛ばす



もー、と文句を言う祖母を横目に


シンはタバコに火をつけた



祖父「ほらな!かぁちゃん!こいつももうタバコ覚えてらよ!」





祖父「高校でもバスケやってるみたいでよかった。お前ほど、俺の血を引いてる身体はいねぇからな!ほら、シュウもあんなんだからよ!」



叔父「聞こえてんぞ!親父!」



祖母の隣で洗い物をしている叔父の身体は

身長はあるものの、スポーツに向いているとは言えない風貌であった




祖父「正月よりタイムも上がってらし、中学引退してもちゃんと走って偉いでねぇか」


祖父はボロボロのノートを見つめながら嬉しそうに笑った



シンの祖父母の家では

柱で身長を測る代わりに帰ってくるたびに



ランニングタイムを測っていた


男性は10km

女性と子供は5km




驚いたことにシンの祖父の家にはロードメジャー、マラソンで距離を測るための機械が置いてあり

あながち正確な距離を測っていた



シンは昔からそのノートを見るのが好きだった



1番古い記録は

祖父自身のもの

42.195km 2,47

10km 38,55


今の記録としては遅く感じるかもしれないが

戦後間も無くの約60年前の記録としてとても立派なものだ



そこに記された

"2012.8月 シン (10歳)10km 59,44"


その記録の周りには


シンの叔父や、叔母の息子や

町会の若人などの記録もあったが



それ以前、以後にも10歳にて10kmを走った記録はなかった




シンは昔から走ることが好きだった


さらに負けず嫌いの性格も相まって


10歳にして大人に混じり10kmを走ると言って親を困らせたが


祖父だけが笑って『いいじゃねぇかw』

と走らせた



周りの心配を他所に


叔父のシュウより早い記録で帰ってきた時は


祖父は大喜びで、その話題で朝まで酒を飲み明かすほどであった










ブブッ



テーブルの上にあるシンのスマホが鳴る


未読のLINEが45件

ユウやトモ、アンからの未読のLINEの上に


新着で見慣れない名前からのLINEが入っていた


[松戸]



誰だっけ

シンは松戸からのLINEを開く



松戸はシンと同じ克武高校の生徒であり、シンの中学から一緒の唯一の生徒だ


だが中学時代にシンと松戸の交友はほぼない


同じ高校に入学すると知ったシンが入学にあたって、情報を聞くためだけに連絡先を交換していた


[今日ソウから連絡あって、シンのこと聞かれたから答えちゃったよ。もしかしたら連絡行くかも]



(ソウ…)

シンはソウとの4月(#14参照)の会話を思い出していた





『ックソ。。』


シンの小声、表情をを祖父はジッと見ていた

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