メダル#30





体育館の2階、観覧席の横に体育教員の教官室がある


そこにノリ以外のバスケ部のメンバーは集められた





モエ「大丈夫かなぁ、男バス…」

エナ「バカばっかだからなぁ」



アンも心配そうに教官室を見つめる








アベ「なんの騒ぎだ?部活はもう終わってるんだろ?ヨウ、説明してみろ」


アベはバスケ部メンバーを一列に並べて睨みを効かす


ヨウ「メンバー同士で少し言い争いになっただけです。なんの問題もないです。」



アベは数秒、メンバーの顔を見回す


アベ「校内での暴力は校則違反、度が過ぎると退学ってわかってんだろうな?そういうのはないんだろうな?なぁ、タケ!」


タケとゴウは元サッカー部であり、サッカー部を辞めた身としてバツが悪そうに苦笑いをしていた


タケ「俺らはちょっとよく見てなかったし、なにしてたかわかんないっすw」


いつもの感じで半笑いのタケをアベが睨む


アベ「お前、サッカーやめてしょうもない部活入って人生棒にふるきか?」



空気が凍るのがわかった


シン「は…?」


シンは伏せていた目をアベに向ける



アベ「シン、お前オリエンの時にシゲとトラブったらしいな。」


シンは口を開かずアベを睨む


アベ「態度悪いなー。お前だろ?トラブルの原因は?」



シン「関係ねぇだろ、あんたには」


食ってかかろうとするシンに

タケとゴウ、ユウは顔を青ざめる





コンコン


教官室のドアが開く



大城「入るぞ!おい、なーにしてんだお前ら!」



大城の出現で、一瞬場の雰囲気がやわらぐが

シンとアベは睨み合ったまま


アベ「大城先生、教員に対して生意気な態度で敬語も使えず話もできないんですかこいつら」



大城はシンの顔を見てため息をつく


大城「本当に申し訳ない、こちらから指導させてもらう。後で事情はお伝えするから、こいつらは一旦着替えさせるよアベ君」



そういうと大城は1人ずつ頭を引っ叩きながら教官室を出す




大城はメンバーに部室で着替え待っているように指示し、体育教官室に残る












バスケ部部室に大城が入ってくる



大城「…。経緯は女バスから聞いた…。何やってるんだお前ら」


いつものおおらかな大城とは打って変わって

真面目な顔をする大城




コウ「すみません!俺がカッとなってシンと言い争いをしました」


コウはいつものようにハキハキと優等生のように応える




大城「手出したのか。シン?」


腕を組んだまま、少し怒った表情の大城に

部室内に緊張がはしる



シン「あぁ。殴った。」


大城「おまえの素行は職員室でもたびたび問題になってんだよ。それで周りが迷惑かけられてんの知ってるか」



シンは何も答えない



大城「お前ら、本気でバスケやる気あるのか?なぁヨウ?」



ヨウ「はい!あります。」


大城「コウ、お前は?」


コウ「はい!ありまs」

大城「いい加減にやんじゃねえよ!!!」


大城はコウの腹筋あたりを足の裏で強く蹴る


コウの体は後ろのベンチに倒れ込んだ



自分達より太く、一回りも大きく見える大城の初めて見る怒鳴りに

メンバーは声が出なかった


大城「お前ら本気の意味履き違えてんだろ。いつまでも中学生みたいな気分でいんじゃねぇよ、一人一人の役割と責任を感じれねぇんなら辞めちまえ!」



大城はそう言い残すと部室のドアを強く閉めて外に出た






1番に口を開いたのはカツだった

涙を拭いながら、椅子に座り


カツ「みんなすまん。。」

タケ「おいwなんでカツが謝るんだよ…」





タキ「ちげえだろ、まず謝らなきゃいけないのはシンとコウ、お前らだろ」



いつも無口なタキがシンに話しかける


シンに物を言うタキを見るのは皆初めてだった、それに驚くメンバー



シン「は?わけわかんねぇ。勝手にしろよ」





シンはそう言って部室を出て行った

黙って見送ることしかできないメンバー







男子部室から出てきたシンを

女バスのいくつかのグループが見ていた

アンや内部の女バスメンバー

エナ、モエなど外部の女バスメンバー

2.3年の女バスメンバー




アン「…シン君…」

アンはぎゅっとピンクとタオルを握りしめた











ヨウ「とりあえず、みんな学校出よう、これ以上問題起こさないようにくれぐれも気をつけてくれ」





メンバーはそれぞれ口数少なく帰路に着いた






家に着いたシンはLINEを開く


ユウ【お前は悪くねえよ、間違ったこと言ってねえ】








I

I

I








トモ「あれ?今日シン休み?」

ユウ「んぁー、連絡返ってこねーから多分な」

タケ「あいつ多分アウトだよwアベ先に見られたら無理だよw」


トモ「なに?なんかあったの??」



トモが興味津々の様子で話しを聴こうとしていると

担任のケイが教室に入ってくる


ケイ「はい!席付けー!HR始めるぞー

あれ?シン休みか…?」


ユウ「シンから連絡は学校にないんすか?」


ケイ「んー。今日はまだ連絡ないなー。まぁ先に言っておくと、うちの学年から2人停学者が出ました。そのうちの1人がシンで、明日から1週間は来ないから」


教室内がざわめく

タケ「うわー!やっぱだめだったかーw」


ケイ「あとバスケ部!ユウとタケな、バスケ部は2週間活動禁止がでたから!」



ユウ「えぇーー!まじすか…?」


ケイ「マジだよ。みんなにも言っておくと、部活動中だろうがなんだろうが、暴力は犯罪だ。それで人生不意になるやつなんでごまんといる、行動ひとつひとつが自分の人生背負ってるんだ、そのことを忘れるな。」



バスケ部の話しは朝のホームルームで全クラスに知れ渡った



タキ「コウ、お前も明日から休み?」

コウは半笑いで頷く



他のクラスからも、コウを一目見ようとギャラリーが数人、休み時間ごとに集まっていた



ノリ「まぁしゃあねぇよ。俺もいつかあいつにはキレてただろうし、部活ねぇのはつまんねえけどな」


コウ「いや、本当悪い」

コウは両手を机につき2人に謝った





放課後、女子も含めたバスケ部全員が講堂に集められた


大城「えー。じゃぁミーティングを始める。まず、申し訳ないが今日の練習は女子もなしだ。知ってると思うが男子バスケ部でトラブルがあって、男子バスケ部はしばらく活動停止、女子バスケ部は高校、中学共に明日から通常通りだ」


ザワザワと話し始める部員達


大城「当事者立て」


大城は徐に言葉を発した


それにあてられ、コウは立ち上がる


皆の視線がコウに集められる

男子メンバーは目を伏せている者が多い



大城「内容はいい。みんなに迷惑がかかったことに対して、なにかないか」

大城は昨日の怒った表情とは違う、神妙な顔でコウを見つめる


コウ「えー。この度は本当に申し訳ないです!自分のせいでご迷惑をおかけし本当に申し訳ないです!」


コウは話しながら2回頭を下げた



大城「簡単に言うとメンバー同士、コウとシンの喧嘩だ、どっちも手を出したとして2人とも停学。お前らのせいで、いうては男子バスケ部の雰囲気のせいで起きた事件だ。全員もう一度自分の行動に責任をもってくれ。

んじゃ男子以外は今日は解散!」




今後のスケジュールなどを話し、大城は男子メンバー以外を帰らすが

女バスの代表、副代表、2年の代表、1年の代表2人アンとエナは残された



大城は教壇に座りため息をひとつつき

いつものおおらかな顔になる


大城「知り合って2ヶ月ちょっとのお前らの絆なんて合ってないようなもんだよな…

お前らの中で本当に仲間だと思いあってるやつはいるのか?」


男子メンバーはみな大城を真っ直ぐ見つめる


大城「お前ら前に全国行きたいって言ってたのは口だけか?そこらへんの寄せ集めの高校生が簡単に行けると思ってたのか?

行けるわけねぇだろ、心技体、どれがお前らに備わってるんだよ、チームワークなんて上辺だけだったんだよ。


どうすんだよヨウ」



ヨウは結んでいた口を開く


「中学でバスケ部にいて、絆ができたと思い込んでいたやつら、今連絡とるかっていわれたら正直あんまりなんだよな、、

1人2人はたまに遊ぶけど。


全国に行くような奴らって仲良しこよしじゃやってないとおもう。

ゴウも前に言ってたみたいに、みんながライバルでバチバチやりながら


俺らのバチバチって多分それとは違くて

自分にイラついて、シンにイラついて、あいつ上手いから、それの言いなりになって

それじゃチームワークなんてできるわけもなくて


なんて言っていいかわかんねえけど、このままじゃだめなのはわかってるんだけど…」



ヨウは歯切れの悪い言葉で、話をやめた




「なんか思うことのあるやつはいないか?」

大城の問いかけに口を開く者はいない




静寂を切り裂くように

スッと手を上げるカツ


カツ「やっぱ、、真摯にやらなきゃダメでしょ。。手を出すのは何があってもダメ、試合でもルールがあるんだ、それを守れないやつは試合にも出てほしくない。


シンは言い方とかきついかもしれないけど、間違ったことは言わないし、でも普段の行いとかは直さなきゃ行けないと思う。どんなにチームに必要なうまいやつでも、社会のルールを守れないやつはバスケ部にいてほしくない」



ノリ「要はタバコとか酒とかでしょ?あいつがそれやめればいいんだよ?」


タケ「なんか、大城先生の前で普通に言ってるけど、いいのそれw」



カツの真っ直ぐな意見に、徐々に話し始めるメンバー達




大城「まぁ、しばらくは練習試合も組まん。シンが戻ってきた時、部活再開する2週間後までにどういう結論になったのかを俺のとこに持ってこい」



大城は女バスのメンバーを連れて講堂を出た




カツが大きなため息をつき肩を撫で下ろす


メンバーはだれも席を立とうとしない


タキ「んで?ヨウ、どうするの?」


ヨウ「いや、、わかんねえよ、」



再び沈黙が訪れた講堂に

嫌気をさしたのか


めんどくさそうにタケが口を開く

タケ「だからー!黙ってたってしょーがないだろ?これからのこと決めんだろ?辞めたくなったやつがいるのかってのと、今シンが戻ってきていいのかってこと!多数決で決めりゃいいじゃん!」



ゴウ「そんな簡単なことなのかよ。シンがいないとこでそんなん決められねぇだろ」


ノリ「いや、今だからいいんじゃね?シンに気遣って意見言えねぇやつもいんのは事実だろ?バスケ部はシンの物じゃねぇ。問題を起こしたあいつの処遇は俺らが決めても、それがバスケ部の意見ならしゃーねぇだろ」



コウ「それを言うなら俺も意見を出す立場じゃねぇ。。すまんけど、俺も先に部屋から出るな」


コウは荷物を肩に背負い講堂のドアを開けた






バタンとドアが閉まり、コウの出た扉を見る物、目を落とす者、スマホを触る者

それぞれの想いが講堂に漂っていた




I

I

I








シン「ハァ…ハァ…」



シンは夕方の山道を汗だくになりながら走っていた


車の通りもなく

ただひたすらにカーブが続く上り坂


後ろには並走する白いバンが1台



「ッコラ!シン!そんなんじゃ晩飯遅くなんだろペース上げろ!」


ゲキを飛ばすのはシンの祖父、バンから肩肘を出し車を走らせる





〜・〜・〜・2日前



シン「はあ?なんでだよ!やることあんだよ俺だって!」


登校するために靴を履こうとするシンは

振り向きながら大声を上げる


シンの母親は腕を組み怒った表情だ


シン母「あんた学校から連絡来てんのよ!最悪停学って!


今日は休め!またろくでもないことして!何のために高校行ってんのよ!もうすぐオジちゃんが迎えに来るから、待ってなさい!」


シンの母は学校からの連絡が入ってすぐ、自分の父親(シンの祖父)に連絡していた






しばらくすると、シンの叔父(シンの母の弟)が車で迎えに来る


叔父「おーい!シン!迎えに来たぞー」


シンは不貞腐れた表情で庭の縁側から身体をのぞかせる

学校に行くカバンとは別のカバンを背負う


無言でため息をつきながら







叔父は車を走らせながらニヤニヤした顔で

シンをチラチラ見ている


叔父「まーた何かやらかしたのかw」


シンはスマホで動画を見ながら目線を変えずに応える


シン「あぁ。最悪停学だってさ」

叔父「あれまwんじゃまた親父にドヤされるんじゃね?w」





白いバンは高速道路に入り

1時間ほどたっていた



シンが目を覚ましスマホを見ると電波の入り具合が都心の半分になっていた


叔父「高速降りたら電波入らんからなー!Wi-Fi使いたい時はこれ使え」


叔父は車内にあるポケットWi-Fiを指差した




高速から降りて山道を2時間近く走るとシンの祖父母の家につく

いかにも田舎の家といった佇まいだ




厳しい顔をした70代の男性がバンに寄ってくる

「シン、よく来たな。また走らされるとおもっちょるんやろ?」


叔父に似たニヤニヤした顔で話す老人に笑いかけるシン


シン「程々でお願いしますw」


シンが家に入ると

記念館のように幾つものトロフィーや賞状が目に入る

シンは見慣れた様子で横を通り過ぎる


箱根駅伝、陸上競技大会、トライアスロン

どれも時間が経って色褪せてはいるが


一際輝きを放つメダルはシンの目にしっかりと映っていた


全日本高校陸上競技大会優勝の文字と共に









シン「庭のゴールだすよ?じっちゃん」


眉間に皺を寄せているが陽気な声で

庭の方を親指で指先しながら

「もう出してるから!身体あっためとけ!」



シンはカバンから外履き用のバッシュを取り出し玄関に置く

穿いていたスエットをジャージに着替えパーカーを脱ぐ




一見似つかわしくないコンクリートの庭の地面は

シンのために、祖父と叔父が6年前に塗り替えていた


庭はバスケのコート、3ポイントライン程の大きさがあり

1メートルほどの小さな池と

物干し竿だけが置いてある


盆や正月になると

この庭に4.5台ほど親戚の車が止まる広さだ


そこに移動式のバスケットゴールが設置してある





シンは祖父の車が駐車してあるガレージ

ガレージというよりは大工小屋からビニール袋に入ってあるバスケットボールを出す






軽く体操をした後


シンは真っ直ぐにゴールに向かって跳んだ

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