ゾーンディフェンス#27






克武14対22山陽

1Q終わり





シンは息を整えながらチカに近づく


チカは何も言わずにスコアシートをシンの方に向ける




丁寧な字で書かれたスコアシート


スコアシートの横にはもう一枚の紙

チカはその紙を裏返した


シンは気にせずにスコアシートを見つめる






2階観覧席脇



キョウコ「エナー、撮影どう?ちゃんと撮ってるー?」

エナ「ん?あぁ」



女バスのメンバーは2階の観覧席から試合を見ているが


エナだけは別場所で試合を撮影していた

キョウコがエナを気遣って、サポートという名目で喋りにきた





エナ「キョウコさー」


キョウコはホワホワした雰囲気の笑顔で

ん?とエナを見る


エナ「何カップあるんだっけ?」


キョウコ「えー、、最近全部小さい気がしてまた上がったかも、そしたらEになっちゃうー、また太ったとか思ったー?」


エナはクスクスと笑い

カメラを指差す


キョウコ「えっ!?!ちょ、ちょっと!カメラ回ってるじゃん!ねぇーもう!やめてよー!」


どうやらエナは暇潰しにキョウコを揶揄い

恥ずかしい会話をカメラに収めていた





遠くで2人のはしゃぐ姿を

横目に見ていた女バス3年のキャプテンが仲間内に愚痴をこぼす

「あいつらふざけすぎじゃない?」


アンはそれが聞こえていたのか少し気まずそうな顔をした


(もーエナさん、後で怒られちゃうよ…)











克武ベンチ


シン「4番に12点7番に6点、点取られてるのがほぼインサイドなんだよ、半分くらいはリバウンドから、ここ止めなきゃ点差は埋まらないよ」



シンはカツ、コウ、ヨウを見つめる



大城「一回ゾーンでもやってみるか?」


ゾーンディフェンスとは

マンツーマンが1人を1人が守るディフェンスに対して

ゾーンディフェンスは一人一人決められた範囲を守るディフェンスだ



(たしかに、これだけ中をやられていたらそれも手だが…このメンバーでできるか?)


シンは考えていた


ゾーンディフェンスは一見簡単そうに見えるが、チームワークや一人一人の機動力が求められる






シン「まぁものは試しか。


2-3で前を俺とタキ、下の真ん中をコウでやってみよう

俺もリバウンドに絡むから、しっかり1本ずつ取っていこう」




「クソっ」



ノリの小言がシンには聞こえたが

反応はしなかった



自分はできる

こんな試合、ストリートの目じゃない

もっと上手い奴らとやってきた

こんな点差ひっくり返してやる







ノリ「俺、行けますよ」


大城にだけ聞こえるように

ノリの自信に溢れる台詞が飛ぶ


大城「…そうだな、、身体あっためておけ」







第2Qが始まる


リョウタはベンチに下がっている



タキはシンからスローインを受け取ると

ハイポストのヨウにボールを入れる


ヨウは身体をゴールに向けシュートフェイクを入れ、抜きにかかる


しかし、山内のすぐさまに来たヘルプによってドリブルを止められる


山内「囲め!」



山内の反応の速さ

身長、手足の長さ

インサイドのメンバーは仕事をさせてもらえなかった



ヨウからトップにボールを戻そうとパスを出したがカットされる




カットした相手のプレイヤーがドリブルでゴールに向かう


シンとの1対1になるが

止まるそぶりは見せずに突っ込む



シンはブロックに飛び、ボールがラインを割る



大城のハンズアップの声で

克武のメンバーはゾーンのポジションについた



シン「4番挟んどけ!ボール入れさせんな!」


カツとコウで山内をガードするのを見て


アウトサイドのシュートが決まる



ユウ「外!足使え!」









その後の試合は単調だが克武は着実に点差を縮めた


シンのカットインの得点

シンからのゴール下へのパスでなんとか点は取れていた


ディフェンスもゾーンが予想以上の効果を発揮し


山内の得点が止まる


アウトサイドのシュートが外れるのを

カツとコウの懸命なリバウンドで物にしていた




克武24対28山陽

2Q残り5:22





「ピッ!交代!黒!」


審判の合図は

シンの予定外だった


(マジかよ、、いまじゃねえよ)


ノリとゴウがコートに入ってくる


大城「コウ!タキ!一旦下がろう!」


「えぇ…」というタキの声がシンだけの耳に届く




シン「とりあえずゾーンは続行!ゴウ真ん中で手上げて入ってきたやつにボール持たせんな!ノリ!外からシュート打たせんな!」




「ピー、黒69番」


ノリが入ってきて数秒、ノリはファールを取られた


(はぁ?…こんなんでファールかよ)





ユウ「あのバカ!おい!ノリ!手出すな、足使え足!」




ストリートバスケにゾーンディフェンスなんてものはない

主に1対1を楽しむバスケをやってきたノリにとっては

高校のバスケ部に入ってからのディフェンスは苦手だった




山陽のパス回しに翻弄され、やすやすと3Pを決められる



やはり初心者とのゾーンはうまく機能せず


山陽の点が重む




3本連続で取られたころ

シンがディフェンスを変える



シン「一旦マンツーマンに戻そう!カツが4につけ!」




克武のオフェンスは

シンのカットインからのジャンプシュートで決まる






山陽「マンツーに戻ったぞ!インサイドでもう一回攻めよう!」




ノリが山陽のトップにつく


(よかった。ゾーンが終わって、マンツーマンなら抜かれねえし打たせねえ)



安堵しているノリの脇をパスが通る



と思いきや

ノリは手を精一杯伸ばしてカットする



こぼれ玉はシンの元へ


ボールを欲しがるノリに渡す



ノリは速攻で1対1に持っていく

後ろからシンが来ていることも考えず

レッグスルーからカットイン、バックビハインドで抜き去り点を取る



コウ「あいつ、やるなぁ!」

ベンチに下がったコウが笑顔で盛り上げる



シン「ナイスノリ、もう一本頼む」



(ディフェンスだ、オフェンスよりディフェンスを…)




シンの心配の原因

山内のポストアップ


山陽のオフェンスは再度ポストの山内にボールを入れてくる



シンが山内を挟もうと身体を動かすより先に



ゴウが山内を挟んでいた



ヨウ「イケゴウ!ファールすんなよ!」


(ナイスゴウ、フォローは任せろ)


シンとヨウは自分のディフェンスと、ゴウがほったらかしにしたディフェンスを、どちらも警戒するために距離を空ける




通常のマンツーマンディフェンスは自分のディフェンスを全く放っておくことなどしないが

ゴウはそんなことは知らない



負けず嫌い

初心者の心理

サッカーでも同じく、ポイントゲッターへのディフェンス


無我夢中で山内から点を取らせないことに集中していた




山内の無理なシュートがカツの手に当たる



跳ね返ったボールをゴウが無理矢理奪い取る



シン「貸せゴウ!」


シンはゴウからボールをもらうと一気にゴールへ向かう



並走するノリに一度ボールを渡し

リターンに走るが


ノリはそのままドリブルディフェンスに突っ込む


外れたボールをシンがタップシュートで決めた




連続得点と


山内が止められたこと


山陽のベンチは沈下していた




ゴウは喜ぶこともせず

集中した顔で



山内の動きを見ていた




克武30対35山陽

2Q残り1:15

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