コーラ
[TRATTORIA Italia TINO]と書かれた看板の前に立つと自動ドアが開いた
中のカウンターにはヨウが座っていて、気がついたシンに体を向ける
シンはヨウの祖父に挨拶をして店内を見回す
トラットリアと言われるイタリアンレストラン、少し居酒屋色が強い店内に似つかわしい白髪の男性がカウンターのオープンキッチンで何か料理をしている
ヨウ「飯食ったらどっかいく?」
ヨウはそう言うと祖父に変わってキッチンに立った
ヨウは冷蔵庫から寝かせておいたピザ生地を取り出し、手早く小麦粉を広げて生地を伸ばし始める
ヨウ「とりあえずマルゲでいい?」
シンが頷く
祖父「もっとガッツリしたやつにしてやれよ」
祖父の言葉に
ヨウ「いいんだよ、最初はこれで、何枚か焼きたいから」
と会話をするヨウ
ヨウ「できるまで時間かかるから」
とシンに灰皿を差し出すヨウ
祖父がそれに気づき話しかける
祖父「酒も飲むかw?今日は部活とかないんだろ?」
シン「いやw酒は大丈夫っす」
祖父は冷蔵庫から瓶のコーラを3本出し、シンから離れたカウンターのはじの席に座りコーラをシンとヨウに差し出し、そしてタバコを吸い始めた
シンも一緒にタバコを吸い始める
祖父「高校生がタバコなんて一丁前に吸いやがって、まぁ俺らの時代は吸ってる奴もっといたけどな」
祖父は続けて話す
祖父「歳とかじゃなくて、お前バスケ部だろ?体力なくなるんじゃないか」
シン「やばくなったと思ったら止めるかもですねw」
祖父はヨウに話しかける
「おまえは、バスケどうするか決めたのか?」
シンもタバコを吸いながらヨウの顔を見上げる
ヨウ「…どう思う?シン…」
ピザ窯にピザを入れながら、ヨウが尋ねる
(正直今のメンバーならヨウは即戦力だからいてもらった方が助かる、なによりこいつは俺が持ってないものを…)
シンとヨウが顔を見合わせ時間が止まる
ヨウは2枚目のピザを作り始める
シン「どう考えたって、キャプテンはヨウだと思ってた、というかむしろ向いてるのはヨウだろ」
シンの言葉に、ヨウが鼻で笑う
シンは続けて話す
シン「俺はキャプテン向いてねえんだよ、短気だし協調性ねぇし」
ヨウ「まぁ確かになw」
シン「ってかヨウは中学ではレギュラー?ってかどこ中?」
思い出したくないのか、辛かったのか、シンは明るいとはいえない顔で話始める
ヨウ「中央第一」
シン「マジかよ!」
シンが驚くことも無理はなく、中央学園という中高一貫の学校法人
中央学園高校は一つだが、中学は第一、第二、第三と3つあり
中でも中央第一中学は都大会上位常連校で過去には全国大会も出場したことがある、シンが中1.2年の時はベスト8まで行っていた
(でも、去年はあんまり名前聞かなかったな)
ヨウ「一応な、んでキャプテンやってた」
シン「あぁ、そんなん」
(ヨウの実力でキャプテンか、少しチームの実力不足の代だったのかな)
ヨウ「まぁでも俺らの代は都大会1回戦負け、めちゃめちゃうまいエースもいたんだけど、なぜか俺がキャプテンにさせられて」
生地を伸ばす手が止まる
シン「…なんで、キャプテンやらされたと思う?」
ヨウ「多分1番嫌がらなさそうだったからじゃないかな」
ヨウの答えを聞いてシンはタバコを消す
シン「まだ出会って1ヶ月も経ってないからなんとも言えねえけど、おまえ素質あんだよ、人の前に立つ素質が
俺は上に立つのは好きだけど、前じゃねえ、うまく引っ張れる人間じゃない、ましてやバカのユウやアホのノリ、口下手なタキなんかもそんな素質ねえな
まぁコウとカツはムードメーカーではあるけど、物事深く考えるタイプじゃねえし
でもおまえは違う、オリエンテーションの時から周りに人を引き付けるタイプで、いわゆる高校生活を楽しめるタイプだよな
羨ましくはないけど、すげぇなって思うよ」
照れるわけでもなくシンは目を真っ直ぐに話を聞いている
シン「力貸してほしいんだ、クソ弱いうちの部活には俺だけじゃ無理だ、俺は冷たい人間だからみんなやめて欲しくないとかは思ってない、勝手にやめてくれればいいと思ってる
だけど、俺が…俺らが上に行くための人財はいる
手貸してくれよ」
ヨウはしばらく黙って大きくため息をつく
ヨウ「んーーー、言ってることすげえありがてえんだけどな、高校は普通に過ごそうと…」
ヨウの話を遮るように祖父が話し始める
祖父「普通ってなんだ?ヨウ
いつからそんなつまんねえ子供になっちまったのかねぇ、普通だとか平和だとか、おまえには向上心とかねえのかよ
そんなんじゃピザの世界、料理の世界でもやっていけねーよ、社会に出たら必ずしも順番争いがある、ピザの大会があって料理の大会があって、それだけじゃない、隣の飲食店にも負けちゃいけねぇ町1番の居酒屋になりたい、そう思わなきゃ店なんてやっていけないし違う職でも同じだ
一度おまえをピザの大会に連れて行った事あるだろ、オリジナルの生地トッピング、どれも自分の個性を出して1番を目指す、あの中で普通のマルゲリータはあったか?
普通でいいなんて言っていいやつは人生全て謳歌して後は死ぬのを待つだけのジジイだけだ
その兄ちゃんが言うには良い潤滑油になってんだろう、ピザでいやオリーブオイルじゃねーか、生地に練りこんで豊かな香りを全体に出す、最後に回しかけてピザにまとまりを持たす
イタリアンじゃぁオリーブオイルは必要不可欠だ兄ちゃんはそうやって言ってくれてんだよ」
ヨウはジッとシンの顔を見た後にマルゲリータを窯から取り出しカットする
シンにピザを渡すと2枚目のトッピングに取り掛かる
ヨウ「そんな大それた役割に俺がなれるとは思ってねえよ、本当に周りもそう思ってるかなんてのもわかんねえし
中学のチームにはエースがいてさ、引退試合もめちゃくちゃ活躍したんだけど、結局負けて、監督にも怒られて
卒業してた先輩たちにも小言言われて
そっから逃げたんだよ、そのまま中央高校に上がってまた同じチームに入りたくなくて
なのに他の高校でバスケやるなんて、どれだけ情けないんだろうなっていうのもあってさ…」
シン「関係ねえよ
自分が楽しけりゃなんでもいい」
シンの睨むような真っ直ぐな目にヨウは微笑む
ヨウは2枚目のピザをカットする
ヨウ「これが俺の”普通じゃない”ピザ」
皿に盛られたピザはオレンジ色のチェダーチーズがこんがり焼かれ、その上にトマトソースでバスケットボールのイラストが描かれていた
ヨウ「巻かれたよ」
2人に聞こえない声でヨウは呟き
コーラを飲み干した
ヨウ「それ食って待ってて、準備してくる」
ヨウはそう言って急いで店を出て行った
祖父「1枚くれよ」
祖父がそのピザを一枚取り、頬張る
シンも同じく食べる
シン「うん、うまいね」
ピザを食べ終わったシンが祖父に尋ねる
シン「いくらですか?」
祖父は声を出して笑って手を横に振る
祖父「いらねえよ金なんて、中学校から試合の後は、いつもここでチームの打ち上げをしてたんだ
これからもチームが勝ったら好きなだけ
食わしてやる
入学式の後の旅行でお前バスケやったんだろうヨウと
あいつが言ってたよロン毛のヤンキーにバスケ誘われたってまぁやるつもりはないけどってさ
だけどお前はあいつに勝ってバスケ部に入れてくれたから今日はその分だ」
シンは祖父に頭を下げると、タバコに火をつけた
戻ってきたヨウの自転車のカゴにはバスケットボールが積まれていた
ヨウ「近くに公園があるんだと食後の運動しに行こうぜ」
満面の笑みのヨウとシンは店を出て行った
祖父「クソガキ、洗い物くらいしていけよw」
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