バス#19

(全てが他人事に思える、毎日笑っていればそれでいい、いつかは大人になってやりたいこともみつかるだろう、長いものに巻かれて過ごそう)


八方美人、波風たてずに


唯一、好きと断言できるものはピザ作りだった


生地をこねている時、トッピングの構成を考えている時


その時間だけは全てを忘れて熱中した


熱中したといっても

ただ単にピザの事だけを考えていたわけではなく


物事を難しく考えないように頭の中で物事を整理する時間だった



ヨウの祖父はイタリアン居酒屋のマスターで、ヨウは小さい頃から祖父のピザで育ったと言ってもいいくらい

よく祖父のピザを食べていた



ヨウは祖父の店に向かいながら考えていた


なんでまたバスケをやっているのだろう


また中学の時の繰り返しか


バスケはやめるはずだったのにな





ヨウの祖父「高校生活はどうだ、ヨウ」


店につき、カウンターのオープンキッチンで料理を作りながら祖父がヨウに尋ねた



ヨウ「まぁ普通かな…

次の日曜日にピザ作ってもいい?」


祖父「もちろん」


祖父がそう答えるのを聞いてヨウは出されたピザを無言で食べた




シンからのLINEに気が付き溜息をつく


更にもう1通LINEが送られてくる

【あと、部員全員に向けて自己紹介あるらしいから、出身中、ポジション、意気込みだけ話して】


グループLINEに送られた内容を見て更に溜息をつく



祖父「バスケまだやるんだろ?」


祖父の問いかけに顔を上げる


ヨウ「ぶっちゃけまだ迷ってる」

祖父「やればいいじゃねぇかよ、高校生なんて部活やらないと毎日暇だろ」


ヨウの祖父の言葉に少し考える


ヨウ「高校入ったらここでバイトしようと思ってたんだけどな」

祖父「それはそれで助かるし面白いとは思うけどな」




ヨウは迷っていた


高校ではバスケをやるつもりはなかった


ただなんとなく、流れで今バスケ部にいる


中学校のバスケ部では一応キャプテンをやっていた

別にやりたかったわけではないがチームメートが推薦したからなんとなくやっていただけだった

バスケを始めたきっかけも覚えていない、ただなんとなく友達に誘われたからバスケ部に入った



(考えるのめんどくせ、明日また考えよう)


ヨウはピザを食べ終えると皿を祖父に渡し店を出た






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【この後講堂に集合な忘れんな】


4限の授業が終わる10分前にシンからのLINEがグループに入る



コウ【忘れてた!】

タキ【飯食べれないじゃん】


2人からの返信を見て

ヨウはシンに個別LINEを送る


【すまん、俺はパス!ぶっちゃけまだわからない】



【わかった】


一言だけのシンからのLINEを見て

ヨウは机に顔を埋めた










ユウ「あれ?ヨウは?」

シン「あいつバスケ部入んないかもって、まぁハナからバスケは高校ではやらないって言ってたし」

ユウ「それはシンもだろ!」


シンとユウの会話に全員が耳を傾ける



ミーティングが始まる直前に

発せられたシンの発言に落胆するユウとカツ


コウ「はぁ?なんだよあいつ!」

冗談混じりで怒るコウ




ミーティングが終わると

男バスのところに大城が寄ってきた

大城「ヨウは来てないのか?何してんだあいつ?」


シンが説明すると仕方なく納得する大城




タキ「今日の練習も来ないのかな、ヨウ」


タキが口を開くとすかさずカツが答える


カツ「いや、来させよう!急に辞めるとかはダメだし!」


タケ「とりあえず放課後呼びに行こうぜ」

タケが面白がって言うと

全員で呼びに行くことに決まった





放課後のホームルームが終わるとタケがヨウのクラスに入りヨウを呼んだ


教室の外には

シン、ユウ、タケ、ゴウ、タキ、カツ

が廊下に輪になって座っていた




アベ「おい!廊下に座んじゃねえよ!邪魔だろお前ら」


廊下を歩いていたサッカー部顧問兼監督アベの声にビクリと反応したタケとゴウがすぐさま立ち上がり気をつけの姿勢でアベに頭を下げる



メンバーは場所を体育館外のバスケットゴールの下に移す

途中でコウとノリも合流した



ユウ「んで?なんで昼来なかったの?」

優しく問いただすようにユウが話し始めた


ヨウ「わりい、俺ぶっちゃけまだバスケ部入るか悩んでるんだよね」

真面目な顔で答えるヨウ


ヨウ「高校はバイトしようって思ってたんだけど、レクの日から流れでバスケ部いたんだけどさぶっちゃけまだわかんねえ」


ヨウの台詞に全員が黙る



ノリ「いんじゃない?辞めれば、やる気ないやついてもしょうがねぇし」


口を開いたのはノリだった

ノリはそう言うと立ち上がり体育館に向かおうとする


カツ「おい!まだ途中だろ!」

カツが呼び止める


ノリ「だってどうしようもなくない?」

ノリは顔だけをメンバーに向け一言放つと体育館に入っていった



カツ「今日は?練習でるの?」

カツの問いかけに首を横に振るヨウ




遠目で見ているアンと数人の女バスメンバー

アン「何話してるんだろうね?」

アイ「早速揉め事かな?雰囲気よくないし」


心配そうに見つめるアン








練習が始まってもいつもよりテンションの低い男バス


コウ「声出てないよ!テンション上げてこ!」

コウの声がけに

ゴウとタケも乗っかる

「たのしくいこーぜ!」


しかしみんなの顔はイマイチ吹っ切れないまま練習を終えた








シンとカツ、タキ、コウ、ノリはバス停に向かって歩いていた

ノリ「どうするの?ヨウのこと」


特に不安そうな顔もせず、他人事のようにノリが聞く


部活前のノリの態度、更にまた今、人ごとのように話したノリの言葉にシンの眉間が僅かに動いた


シン「ぶっちゃけヨウがいないと10人たらねぇし、レベル的にもいた方がいいだろ、素人に教えなきゃいけないことだらけなんだし」


シンのいう素人がノリを指しているのか誰にもわからないトーンで言う

その場とみんなの空気が止まる


ノリ「まぁいなくてもいいんじゃね?誰が抜けても変わんないっしょ」

言い返したわけではないノリのセリフをシンは聞き流すように歩く



まだ入学して3週間も経っていないバスケ部で、メンバーの1人が入部しないことを止められるほどチームワークなんていうものはできていなかった


メンバー同士全員が考えている


あいつはどういうやつなんだろう

どういう育ちをしてきたのだろう

学力はどのくらい?

そういや、苗字なんだっけ?


入学したての高校生にこの先の行く末なんて考えても行動に移せなかった




シン「ちょっと先帰ってて、俺電話するから一駅歩くわ」

シンは4人に首だけ振り返り、軽く手を振ってバス停を通り過ぎる

もちろん本当に誰かに電話するわけでもなくただその場を離れたかっただけだ



シンはバス停脇の川沿いを歩いた


例年では葉桜になっているはずの桜がまだ川沿いではチラホラ咲いていた


いくつか並んでいる川沿いのベンチのうち、1番街灯が当たらず暗がりになっているところに座る


バッグからタバコとライターを取り出して火をつける

夜空を見上げながら物思いにふけるシン


みんなが乗ったであろうバスが発車の時刻を過ぎたのをスマホで確認し、ベンチを立ち上がる



先ほど来た道をUターンして、バス停に着く


ほどなくすると数人シンの後ろに並び始める、5.6人並んだところで

克武高校の制服を着た男子生徒がシンに近寄ってくる


「1人なの?」

ヨウはちゃっかりシンの横に並び話しかける


不良、ヤンキーではないにしろこの年頃の男子だ、友達を見つけたらモラルやルールなんて二の次になる



シン「あぁ、お疲れ、遅いな、何してたん?」

シンはヨウの顔をチラ見し、スマホをいじりながら訊ねる


ヨウ「学級委員の仕事でさ、係決めたりしてた」


(そういえばそんなことトモも言ってたな)

シンは帰りのホームルームが終わる時にトモに全て任せて教室を出たことを思い出す



バスが到着すると2人は当然のように横並びに座る


お互いにバスケ部の話題は話さずに会話をしていたが不意にシンが核心に迫る


シン「やっぱピザ作りたいの?」

ヨウ「あ、そういやシンには話してたっけ、そのこと、まぁそんなとこ」




シン「ピザは?何ピザ?イタリアン?アメリカン?」



ヨウはシンの質問に驚き、つい「えっ?!」と声を出す


ヨウ「じいちゃんはイタリアンだけど、俺はアメリカンが好きなんだよね、シカゴピザなんだけど、シンわかるの?」


シン「まぁ多少なりとは、こんなナリしてるけど料理好きなんだよね俺も」

ヨウ「マジでギャップだわw」


シン「1人で1から作れるの?ピザ」

シンの質問に照れ臭そうにヨウは答える

ヨウ「まぁまだ完璧じゃないけど、一応食えるもんはな」

シン「へー、じゃあ今度食わせろよ、学校にデリバリーして」

シンの冗談に笑うヨウは、それから一呼吸おいてゆっくり緊張気味に言う

ヨウ「次の日曜、食いに来る?」

シンは触っていたスマホの指を少し止め答える

シン「あぁ、行くわ」



バスはヨウの近所のバス停の名前を呼んでいた


ヨウ「んじゃ、また明日な!」

ヨウは軽く挨拶をするとバスを降りる



(照り焼きチキンピザ食いてえな)

シンはヨウの後ろ姿をバスから眺めてバスの発車を待った



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る