昼休み #16



約2キロの学校の周りのマラソンコース


男子バスケ部、初めての朝練に集まったのはシンとユウとカツだけだった




シンはショッキングピンクのバスパンを履いた黒髪を揺らすアンが視界に入ると、一層走るスピードを上げる

聞いていた音楽がちょうどアップテンポな曲に切り替わったので

シンは音量を上げた


アンを追い抜くとき、小さくアンにしか見えないように手をヒラヒラと合図する


アンの口角が緩みながら、足の回転がはやくなる








アン「お疲れシンくん…はぁ…早すぎ…だよ…!どのくらい走ったの?」

シンがランニングを終え体育館前でストレッチをしていると

走り終わったアンが額に汗を流しながら、話しかける



シン「さぁね」

シンは冷たい返事の中に笑顔を含ませる


アン「だ、男子は今日朝練あんまりきてないみたいだね…」

苦笑いでアンが尋ねる

シン「やる気ねぇんだろ」

シンは顔を曇らせ笑みを消す


男子の朝練はシューティングのみで終えた








男子バスケ部のメンバーは

昼休みは校庭のバスケットゴール付近で昼ごはんを食べるのが日課になっていた


コウ「シンとユウ、タケと同じクラスだろ?飯誘えよ!」

コウがシンとユウに向かって言う

ユウ「誘ったんだけど、なんかあいつら2人で教室で食いたいらしい」

ユウは吉野家の牛丼をかき込みながら答える

コウ「そっかー。まだ馴染めねえんだろうな」

カツ「明日、おれもゴウを誘ってみるよ!」

カツは誰とでもフレンドリーな関係を作るのがうまかった


シン「っていうか、おまえらなんで朝練来なかったん?」

シンが神妙なトーンで空気を止める

ユウ「そうだよ!今朝はおれとカツとシンだけだったんだぞ!」


「わりい!寝坊しちってさ!」

コウが半笑いで答える

「俺も、起きたら…」

タキもそれに乗っかる


「ノリは」

シンがノリと目を合わせる

「普通に寝坊した」

悪びれた雰囲気もなく真顔で答えるノリ


シン「『普通に』ってなんだよ。勝ちてえ、勝ちてえ、って口だけかよ。」


シンの言葉に誰も口を開かず、皆んなの空気が凍る



シンはコンビニのパンを食べ終え、何もいわずにその場を去る





最初に口を開いたのはユウだった

ユウ「あーぁ、またシン怒らせちゃった。あいつ短気なんだからあんま怒らせんなよ!」

冗談交じりで放った言葉は、その場の空気を温めるほどの温度はなかった

「次は全員集まろうな!」

カツの言葉もまた同じであった






シンはおもむろに体育館に入る

誰もいない体育館の体育倉庫に足を運ぶ


真っ暗な体育倉庫から不意に人影が出てくる

「うおっ!!」

シンは思わず声を上げる

中からは体操着に身を包んだアンが出てきた


アン「あれ?シンくんじゃん!驚かせちゃった?ごめんねw」

シンのリアクションに満面の笑みをみせるアン


シン「いや、べつに驚いてねえし」

アン「めっちゃ声出てたじゃん。意外な一面見ちゃった」

アンは嬉しそうにバスケットボールの籠を奥から出そうとしている


真っ暗な体育倉庫に女子高生と2人



薄っすらと体操着に浮かぶ下着のラインにシンは目線を這わせる



アン 「ボ、ボール欲しいんだよね?!すぐ取るから!」

アンはシンの方を見ずに必死ボール籠を取ろうとしている

気づくとシンはアンの横に立つ



シンが口を開く

「ねぇアン。放課後、一緒に帰らない?」

アン「えっ!?あ、あの、うん。…ありがと」

なにに対してのありがとうなのか

シンは軽く微笑み

アンはシンのほうに身体を向けうつむく


華奢な足には似合わないアンの上半身のふくらみがシンを唆る



手を伸ばせば触れられる距離

わずか7.80センチ


シンは手を伸ばす


アンの顔が一瞬こわばり、口を結ぶ


シン「綺麗な髪してるね。前から思ってた」


シンはアンの耳の下あたりの髪を触り

ボールを取り出す


シン「ドキドキしちゃうから、先出るね」

シンは他にも見せないような笑みで体育倉庫を出る



アン「もう…」

シンのドリブルの音を聞きながら

体操着の裾を強く握り顔を赤らめるアン






体育館の入り口に人影が見える

タケ「よう!シン!バスケ教えてくれよ!」

お得意のテンションなタケとゴウが入ってくる


意外な出現者に驚くシン


そして、おもむろにゴール下のシュートを始めるゴウ


シン「なぁ、ゴウってキーパーだったんだろ?」

シンはフリースローラインにボール置き、ボールに腰掛ける


ゴウ「まあな。」

シン「なんで辞めた?サッカー部」


ゴウは動揺したのか、ゴール下を外す


シン「はいミスー。10本連続スタート」

シンはゴウに声をかける


ゴウ「まじかよw」

ゴウは一度も振り向かずゴール下シュートを続ける


シン「手を下げんな」「もっと跳べ」


シンのアドバイスを黙って実践するゴウ



シン「…9…ラストー」


ゴール下シュート連続10本を5分以上かかり

ゴウも肩を大きく回す

タケ「シンってドSだよな。昨日のコウに対しても」

シン「んなことねえよ。昨日のは…ちょっとミス指示だ」

タケ「ミスであんなにキレたのかよw」

シン「キレちゃいねえよ。ちょっと熱くなっただけw」

ゴウ「んで、昨日のコウはなにがいけなかったの?」


シンは数秒考えタケに声をかける


シン「タケ、シュート打ってくれ」

タケ「お!キャプテンの直々指導か!」

タケが嬉しそうに寄ってくる


シン「ゴウ、リバウンド勝負な」

シンはゴール下に入る

と言ってもゴールとゴウの間に立ち、ゴウの方を向く



タケはスリーポイントライン付近からシュートを放つ


シンはゴウの目をじっと見たままボールを追う様子はない

ゴウはリバウンドを取ろうとゴールに近づこうとするがシンが邪魔でゴールに近づけない


ゴールにボールが当たった音、落ちたボールの音、ゴウが進もうしていた方向を見定め

シンはリバウンドの落ちる先を予想し身体をゴールに向ける

ゴウをスクリーンアウトしリバウンドを跳ばずして取る


シン「今のがスクリーンアウト。リバウンドは跳ばなくても取れる。要は身体の使い方と判断力だ。タケもう一本打ってくれ」


シンはシュートコースを見ると

次はしっかりとゴウを背中で捉えリバウンドを取る


シン「簡単だろ?バスケのディフェンスはサッカーみたいに肩を入れるとファールになる。でもリバウンドはサッカーのトラップと一緒で前にボールを落とせば勝ちだ」

ゴウ「お、おう!なんとなくわかりやすいな!」


ゴウ「んで、昨日のコウはなにがいけなかったんだ?」

タケがシンに問う



シンはまた数秒考える

そして

シン「じゃあ、タケとゴウで攻めてきて。」

そう言うとシンはゴウにディフェンスする


タケはノーマークにされたことで、ゆっくりと3ポイントを打つ


シンは先ほどと同じようにゴウの目を見て、ゴールに近づけさせない

シン「びびんなよ、ゴウ、取りに来いよ」


シンの言葉にゴウの遠慮が消える


ゴウは左右のフェイクで前に出ようとするがシンがゴールに近づけない

無理やりまわり込もうにも

シンは必死にスクリーンをしてリバウンドを拾う



シンのオフェンスもスリーポイントを放つが外す



タケの2回目のオフェンス


タケはシュートを打つ様子はなくゴールに近づく

ゴウに隠れていたシンが急に飛び出しタケにプレッシャーをかけスティールする




シン「タケ。今なんで近づいてきた?」

タケ「いや、シュート入んねえから…」

シン「それが答えだよ」

シンは笑う


タケとゴウ

それに、いつのまにか座って見ていたアンも不思議そうな顔をする



シン「絶対的なリバウンダーがいれば、タケのシュートが入らなくても、リバウンドから点になるだろ?でもゴウではまだリバウンドが取れるかわからないから、オフェンスはシュートを外したくなくて近づいてくるんだよ」


ゴウ「昨日のコウだとまだリバウンドが足りないってわけか…」

ゴウが納得するが、シンは続ける

シン「リバウンド自体は充分拾ってたよ、ゴウはな。でも、それをチーム全体に知らしめる力が足りなかった」

それを聞いたまた頭にハテナが浮かぶゴウとタケ


シン「じゃあ、今日の練習でゴウはリバウンダーデビューしようか」

シンは髪を結び不敵に笑う





10分ほどシンによるゴウのリバウンダー講座が行われた


体育館にぞろぞろとバスケ部のメンバーが入ってくる


それをみて

シン「んじゃ続きは部活で」

シンはメンバーにもったいぶるように

ゴウへのアドバイスを切り上げる


ユウ「シン!ゴウにだけずるい!俺にもなんか教えてくれよ!」

ユウが大声で叫ぶ後ろで、笑みを見せないコウが体育館を後にする











「次ー5対5対やるぞ!」

大城の合図にすかさずシンが駆け寄りチームの提案をする

大城は「任せる」の一言でシンに一任した


シン「ちょっとチームいじるぞ!」


チームは

シン、コウ、ユウ、ゴウ、タケ


カツ、ヨウ、タキ、ハヤト、ノリ




「シンくんどういうつもりだろうね…」

アンが不思議そうに、不安そうにアイに話しかける

アイ「まぁシンくんのことだし、なんか考えがあるんでしょ」


アンたちとは別の場所でエナも真面目な顔で見ている



シン「コウはフォワードやってくれ。ゴウがセンターだ」

コウ「…わかった」

コウは嫌な顔をするわけでもなく、自分への課題を必死に答えを出そうとしていた


シン「ゴウ、やることはわかってるな?スクリーンアウトとアレな」

ゴウ「オウ!」

ゴウとシンが不敵な笑みを浮かべて、拳を合わせる



コウは目をそらしコートに入ろうとする

その瞬間コウの身体が揺れる

ユウ「心配すんなよ!このチームで1番のリバウンダーはおまえだ!!」

ユウがコウの腰を蹴り満面の笑みで話しかける


シンはその一部始終を横目で見ていた


ジャンプボールの際にユウに礼をいうシン


シン「サンクスなユウ。コウのフォロー頼むは」

ユウ「おう!まかせろ」



試合が始まる


シンがトップでボールを持つと真っ先に声を上げる


シン「ゴウゴール下入れ!外から打つぞ!」

部員全体が驚きの目を見せる


シンをディフェンスしているノリでも理解した

ノリは3ポイントを打たせないようにシンに詰め寄る


シンは詰め寄ってきたノリを抜き去りシュートを決める


ゴウ「打たねーのかよッ!」

ゴウが笑いながら声を上げる


ゴウのディフェンスは正にザルで

ヨウのポストプレイに簡単に点を与える





シン「ゴウ!コウ!外からいくぞ!」

シンの声を合図に、シンとユウの連携でユウがスリーを放つ


コウがカツをスクリーンアウトする

ゴウも昼休みにシンに教わったようにヨウをスクリーンアウトする

ボールはゴウの方に落ちる、スクリーンアウトをしたままボールが落ちるのを待つゴウ

しかしボールが落ちる前に高い位置でリバウンドを取るコウ


シン「ゴウ!自分のリバウンドにしろ!誰にも取らすな!」


ヨウ「…スクリーンアウトが様になってんじゃんかよ」

ヨウがニヤリと笑いながら呟く







カツとヨウがゴール下に入ったのを見て、ハヤトがスリーポイントを放つ


シン「ゴウ!!!」

シンの掛け声にゴウは一瞬振り向くが

ヨウにスクリーンアウトされ直ぐに正面をむく


ゴールとゴウの間にいるヨウをすり足で前に押し込むゴウ

あっという間にヨウより良いポジションに構えたなゴウは、ボールが落ちるの合わせて高く飛ぶ


横で高く飛ぶカツと競りながらも、持ち前のガタイでリバウンドを巻き込む


シン「ナーイスリバン!!!」

シンの叫びに反応もせず取ったボールを必死にキープするゴウ


ユウ「外出せ!」

ユウの声に反応し

3ポイントラインのユウにパスをだす


ユウから前線のシンにパスを出すが速攻には行かずフロントコートの3ポイントラインで止まるシン


シン「ゴウ!リバウンド入れ!」

シンの掛け声で懸命に反対側のゴール下まで走るゴウ


先に戻っていたカツがゴウをディフェンスする


シンは細かいハンドリングから3ポイントを放つ



またもゴウはカツを押し込みリバウンドを巻き込む



シン「サンキューゴウ!!外戻せ!」

あたかも最初から外すことをわかっていたかのようにシンが叫ぶ



ゴウはパスを戻そうとするが、シンへのコースをタキとハヤトが遮っている


ユウ「ゴウ!こっち!」

中にきりこんだユウにボールを渡すゴウ


ユウは縮まったディフェンスをみて


3ポイントラインのタケにパスを出す


「「タケ打て!」」

シンとユウの声にゴウがまたもスクリーンアウトの体制にはいる


タケのシュートは短く

エアーシュートになる


しかしシンがそれを無理やりタップシュートに持ち込み点を決める





タケ「やばw恥ずかしいw」

どことなく人ごとのように、自分の責任ではないような言い方をするタケ


シン「それでいい。自信持ってゆっくり打て。フォローは俺らでする」

シンのこの言葉は

タケにとって非常に深く響いていた


自分は初心者だからしょうがない

そう思っていたタケに羞恥心と、試合に出ている責任を覚えさせるには十二分な言葉だった

タケは笑みを見せず、ただ頷いた






「ゴウ!スクリーンアウトだけ集中な!」

シンのセリフにゴウの顔に気合が入る


タキがハヤトにボールを回すと、ハヤトが外から打とうとする


タキ「まだ早い!!」

タキの叫びでどうにか止まるハヤト

単調なボール回しのあとノリがジャンプシュートするが

そのシュートも落ちゴウに拾われる


「っしゃーーー!!」

ゴウの叫び声にシンはニヤリと微笑んだ




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