1000円札#5




(要は体育と同じだもんな)


シンはバックコート1番後ろで考えていた

体育のバスケで、バスケ部がいるチームが勝つことはとても安易であった


シンは素人相手なら取ろうと思えばいつでも点を取れる、ディフェンスも少しのプレッシャーで勝手にミスをしてくれる


素人がゴール下以外でシュートを決めることなんてそうそうない

シンはそう考えていた


しかしそれは、相手チームにバスケ部がいないことが前提である

相手チームのバスケ部、要は相手チームの経験者のヨウがどんなプレイをしてくるかでシンの考えは全てが覆る






女子生徒「「ヨウくんがんばってー!!」」

女子生徒「レンくーん!がんばってー」

女子数名の声が響き渡ると同時にジャンプボールが上がる


レンが女子の声を無視して、ゴール下でパスを受けようと走ってくる

シン「人気者ですねw」

シンが茶化す


レン「うっさいw」

レンはやりにくそうな顔をしてパスをもらうアピールをする

ヨウがハーフライン程から山なりのパスを出す

シンはインターセプトできるパスだと感じたが、しなかった

最初から本気でやるつもりなんてなかったのだろう


レンが0°のスリーポイントラインより内側でパスを受け取る

シン「よしっ!こい!」

シンが満面の笑みで腰を落として手を広げる


レンはドリブルでトップ側から抜こうとするが、行きたい方向には進めずドリブルを止める

レンは周りをキョロキョロし、助けを求める

ハーフコートから走ってきたヨウにパスを出す、シンのチームメイトが無理にカットしようとヨウに当たっていくが、ヨウはそれを物ともせずに進路を変えずにパスを受けドリブルを始める

インサイドプレイヤーのヨウはアタリには強かった


フリースローライン手前でジャンプシュートに持って行こうとするヨウのボールを胸の前ではたき落とすシン

「「アーーッ!!」」と悲鳴にも似たリアクションをするヨウのクラスの女子を横目に2ドリブルでフロントコートに入るシン

3ポイントラインでパスを待ち構えていたユウに、アゴでゴールに迎えと合図する

「…ふー」

(アイツ、シューターかよ)

シンは誰にも聞こえないような小さなため息をする


ユウは理解していないのか動かない

3ポイントライン内から相手チームがシンを止めにくるのをレッグスルーとバックドリブルで軽くかわし、次はゴールを指差しユウの名前を叫ぶ

シン「ユウ!!」

ユウはシンの考えを察したようだ

ユウ「オッシャーー!」

ユウのスピードに合わせボード下くらいにアリウープを出す


ドンピシャにユウの両手に吸い込まれたボールは、すぐさま手を離れボードに当たりゴールに落ちる


シンたちのC組の応援が盛り上がる

トモ「ユウすご〜い!」

トモが声を上げる


シンがユウを指差す、それに気づいたユウもシンを指差し合図に応える



ヨウがナリに耳打ちをしている


それを見たシンはユウに指示を出す

シン「ヨウが攻めてくるから。打ったらブレイク走って、カウンターでもう一本」

ユウ「OK!」

ニヤニヤとユウが飛び跳ねる


シン「ボール取りいけーーッ!」

ディフェンスのために自陣の台形に戻ったシンがチームメイトに叫ぶ


未経験者がドリブルでキープしながら進むことは難しく、たとえディフェンスが未経験者でも2.3人に囲まれればボールを取れると狙ってだ


案の定、ナリはスピードをあげたが為に自分の足にボールが当たりボールを蹴飛ばすような形になった

だれも予期してなかったボールの動き、転がっていくボールは運良く右側のスリーポイントラインに立っていたレイに拾われる


すかさずヨウが台形のラインでパスを求め

シンとポストアップする

始めからヨウはポストアップを狙っていた

ナリにパスを入れてもらおうと頼んでいた、が結果オーライでレイからパスを受けた


ヨウが右に首を振りフェイクをかけ、左にターン

それをシンは読んでいた

ポストアップのディフェンスから一歩下がり

ドライブに備える


ヨウは中庭でのプレイを思い出し、頭の上でボールを構える

一歩下がって腰をおとしたシンをみて、ヨウはゴールを見る

シンはヨウのゴールへの目線がシュートフェイクだと悟る

だが


ユウ「バックいるよ!!!」


不意にシンの背中からユウが声を出す


シンが驚き目線を動かす

ヨウは見逃さずシュートの体勢にはいる

シンの反射神経は並大抵のものではなかった

一瞬にしてシンはブロックに跳び、ヨウのシュートコースを遮った

が、遮ったシンの手はそのままヨウの遥か上を跳んだ

ヨウは笑った、ヨウはボールを放ってはいない

空を切ったシンの腕、シンは焦った表情を見せた


ナリ「ナーイスフェイク!!」

ナリの声が聞こえる


シンが頂点到達し落ちてくるタイミングで

ヨウは再度シュートモーションに入りシュートをうつ

シンの下半身の筋肉が雄叫びをあげる

全身を使ってジャンプするのではなく

足首、ふくらはぎ、膝、太ももの筋肉のみしなやかに使い、再度飛ぶ

「マジかw?!」

フェイクで跳ばせたディフェンスに、再度跳ばれブロックされたヨウは驚いた表情を見せる

ヨウの台詞とともにシンの手に弾かれたボールは進行方向を変える

咄嗟にユウがボールを拾いフロントコートに持ち込む、ユウのスピードにだれもついてこれず

ユウは得意位置であろう、右側45°スリーポイントラインから放つ


綺麗な弾道のボールはそのまま吸い込まれた


またも盛大にC組の女子が盛り上がる!

「ユウやばーい!すごーい」


ユウは女子たち6.7人とハイタッチを交わす




「ナイスブロックだよー」



あまりにも冷静な女の子の声がシンの耳にとまる


不意に声の主をキョロキョロと探すシン

C組の女子はユウとはしゃぎ、誰もシンを見ていない





レンがボールもらい早めにフロントコートに持ってくる


レン「ヨウ頼む!!」


負けたくなければバスケに託す

体育バスケの常套手段だ


そのボールを容易くインターセプトしゴール下にいるサトに優しくパスをするシン


シン「ユウ。点差ついたからいろいろ回してあげな。ディフェンスはどうにかなりそうだから」


とサトのシュートが入ったかどうかも確認せず、シンはディフェンス位置まで下がっていった





それからは、ヨウがゴール下でのリバウンドからのシュートを決めたものの

シンのディフェンスとユウのゲームコントロールにより

時間が過ぎるのみであった



『ビーーーー』


C組 9対2 D組


C組のメンバーは危機感を持つこともなく試合が終了する


ユウ「よし1勝!!シンサンキューな!」

ユウがハイタッチを求める

シン「とりあえずな」

シンはユウとハイタッチをした

ユウはひたいから玉の汗を流しあいかわらずの笑顔だ。シンはメンバーに歩み寄り全員とハイタッチを交わす



ヨウ「いやー無理だわwちょーうぜーなシンのディフェンスw」

シン相手に何もできなかったヨウが笑って喋りかける


レイはつまらなさそうな顔でボールをいじっている



ケイ「次すぐいくよー!E組とJ組でてきて!」

ケイ先生が時間を巻こうとみんなを急かす


シンとメンバーは自販機に向かうため体育館の外へ出た


ユウ「シン、うまいな!全然本気じゃなかったろ?」

ユウがはしゃぎながら問う、事実シンはパーカーを脱ぐこともなく汗ひとつかいていなかった


自販機につくとシンはパーカーのポケットに手を入れ気づく

シン「あ、財布ねえや」

ユウ「え?!まじかよ!おれシンが奢ってくれるのかと思って持ってきてねえよw」


サト「僕も、自販機に向かってると思わなくて」


5人とも財布を持ってきてなかったらしい


シン「どいつもこいつも使えねーなwいまトモにTELしてみるよ」

シンがスマホを取り出す

ユウ「え?!もうライン交換したの??早っ!さすがイケメンは違うねーw」


ユウが茶化す後ろにいる、人影がこっちを見ている


女子生徒「あの…」


シン「ん?」

シンが真顔に戻る

女子生徒「よかったら貸しましょうか…?」


ユウが驚いて声を出す

ユウ「えっ!?なんで?いいの?」

女子生徒「いや、、トモと友達らしいし。あの…暁(あかつき)中のひとですよね?」


シン「そうだけど、克武の内部の子?」


(あぁ、そういうことか)

シンは察した


克武高校は中高一貫なので、エスカレーターで上がった女の子を「内部」、高校から入ってきた子を「外部」と呼んでいた


女子生徒「はい。…じゃあこれ!」

というと、上下とも克武高校指定のジャージを着て手首にピンクのタオルを巻いた女の子は折り曲げた1000円札とその中に、みんなに見えないようにメモを入れ渡す


女子生徒「いつでもいいんで!またね!」

と恥ずかしそうに言うと、女の子は笑顔で早足でその場を後にする



シンはニヤッと笑いみんなにメモを見せびらかす

シン「なんかごめんねwモテ期きそうw」

と、シンは結わいていた髪を解く







体育館に戻ると、E組とJ組の試合はラスト20秒を切っていた

5対5の同点でJ組のボール

水色のバスパンに白シャツの生徒がボールを運ぶ、前線からディフェンスしている生徒を綺麗なバックドリブルで抜き去る

バタバタと派手なドリブルをしているがボールコントロールは良い


経験者と思われるディフェンス1人

素人のディフェンス1人

二人掛かりで止めにくる


水色バスパンは右側に押されながら、流れた身体でジャンプシュートを打つ

ミートの仕方もシュートフォームも下手くそだが、打点だけはとても高い


シュートはリングに弾かれ逆サイドに落ちる


男子生徒「打つのはえーよ!、、よっーーっと」

リバウンドは水色バスパンのチームのやつによって拾われた

右手でとって派手な音を鳴らして両手でキャッチする

その生徒はすぐさまゴール下でフェイクし1人飛ばした後ワンドリで逆サイドからゴール下を決める


残り10秒、スローインから始まったプレイはフロントコートのスリーポイントラインを超えることなくブザーを迎えた



シン「10秒残したらだめだよな」

ユウ「俺だったら10秒あったらスリー決めて逆転できるしw」

シンとユウが体育館の入り口で話している、体育館の中にいる女子の人グループが目に入る

その中にはピンクのタオルを手首に巻いたあの子がいる


ユウ「お!ほらシン!さっきの子が見てるぞw」

ユウもアンの存在に気付いたようだ


シンは何気なくさっきの女子生徒にぺこっと頭を下げる

その子を取り巻く女子生徒たちもそれに気づき、その子を茶化すように盛り上がる


シン達は体育館内のC組の女子が応援しているところに合流する



シン「なぁ。あの子ってどんなこ?」

シンは顎でアンのことを指しながらトモに聞いた

トモ「アンちゃん?まじ美少女って感じだよね!女子力高いし!どしたの?w一目惚れ?」

シン「いや、さっきラインID渡された」

トモ「は?まじで!?あいつそんな積極的だったかw」

シン「仲いいんだ?」

トモ「特別にってわけじゃないんだけどね、普通に喋るよ!」


シンは試合を見る振りをして、ちらちらとアンを見ながら次の試合の話をユウとする


ユウ「次どうしよっかー?シン作戦は?」

他の3人のメンバーや女子達までもがシンをじっと見る


(なんかやりずれーな…)


 

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