偽物なんかじゃない
次の日の朝、全く予想していなかった光景が俺の目に映った。
「ミズキさん! おはようございます!」
俺の部屋にいきなり突入してきたルナは俺の部屋に入るやいなや、勢いよく窓を開けて、朝の日差しを目一杯部屋中に入れ込んだ。
加護はなくなったはずなんだが、それにルナにはクズのような発言をしたっていうのに、何がどうなってるのかさっぱりわからない。
「なぁ、ルナ……」
「今日一日で、ミズキさんには自分のことを大好きになってもらいますから!」
自信満々に胸を張るルナ、そのあとに慌てて「私のことを好きにってわけじゃないですよ!?」と付け加え、動揺を隠せぬまま一階のリビングへと駆け下りていった。
俺もそれを追いかけるようにしてリビングに入る。
そこには、いつもと変わらない、キュリアとるんるん、そしてリコルノのメンツが顔を合わせて朝食に手をつけていた。
庭へ目をやると、モフとチビも仲良く日向ぼっこをしている。
いつもと変わらない風景だ。
1つ違うといえば、いつも窓を突いているメスの雀たちがいないということだろうか。
やはり、加護が消えているのは確かなようだ。
「ミズキさん、残さず食べましたね! 偉いです!」
「いや、子供じゃあるまいし、当たり前だろ」
忘れてた、ルナの俺に対する扱いも何かおかしい。
何故かわからないが、ちょっとしたことで俺のことを褒めようとする。まるで幼稚扱いだ。
あんまり俺のことばかり褒めるもんだから、隣にいるキュリアが不機嫌そうな顔をしている。
俺はそんなキュリアの頭を撫でてやると、食器を持って台所にいるルナのところまで移動した。
「なあ、俺……」
「私は何も気にしてませんから、大丈夫ですよ」
ルナは笑顔で俺の言葉を遮る。どうやら俺の言いたいことはわかっていたようだ。
「それより……」
ルナは続けるようにしてそう言うと、俺の顔をジッと直視する。
俺は咄嗟に目線を逸らそうとしたが、ルナから両手で顔を固定されたため、逃げ場がなくなった。
「ミズキさんは、自分を過小評価しすぎですっ!!!」
リビングに響き渡るルナの声。
それはあまりの大音量だったらしく、まだ食卓についていたキュリアたちはギョッとした目でこちらを見つめ、外にいたモフとチビもビクッと身を震わせて飛び上がっていた。
「昨日は本当にがっかりだったんですから! ミズキさんが自分のことをあんな風に思ってたなんて……、全然そんなことないのに、私の方がミズキさんのいいところ沢山知ってるだなんて、ミズキさんは自分のことを何一つわかってないですよ!!」
止まらないルナの叫び声。
「最初は、私のことが嫌いだから突き放そうとしただけかと思いました。だけど、あの時のミズキさんの辛そうな表情から、本当に思ってることだけを言っているんだなって……」
ルナの顔が真っ赤になり、涙が頬を伝う。
「ルナ……」
俺は驚きと困惑によってポカンと開いた口をなんとか動かしてルナの名前を口に出す。
ルナの目は本気だ。
かなり動揺していたのだろう、今は加護がはたらいていないことなど、もう頭の片隅の方にしか残っていない。
「私のことをどう思ってたっていい……、でも、自分だけは嫌いにならないで……」
ルナは俺の胸に顔を埋めるようにして、声にならない声でそう言った。
俺は無言で頷き、ルナが泣き止むまでの間、その状態のまま立ち竦んでいた。
時間が経ち、ルナの様子が落ち着いてきたところで、るんるんが俺の膝あたりを人差し指でつつく。
「ルナのやつ、ご主人様の部屋から出てからずっと悩んでたんだぜ? 最初なんかオレのところで泣い……、これは言わない約束だった」
るんるんらゴホンと咳払いすると、俺の目をジト目で見つめながら続ける。
「兎に角、オレたちのご主人様が中身まで本当のクソ野郎だったら困るってわけだ。自分で思い込んでるってのは尚更ダメだ」
るんるんは一人で頷きながら、最後に俺を指差しながらそう言った。
るんるんもルナから話は聞いているのだろう。そして、俺の予想だと真っ先に俺の考えを否定したのもるんるんだと思う。
「たしかに、ご主人様には悪いところが数えきれないほどある。それは認める。だけどな、それ以上に頼れるところだってあんだよ」
るんるんはそう言いながら笑い、俺の腰に優しくグーパンチした。
ルナも言いたかったことがるんるんを通して全て伝えられたのか、うんうんとるんるんに合わせて頷いていた。
俺は、加護に囚われすぎて、自分の良さなんてこれっぽっちも考えていなかったのかもしれない。
何でもかんでも加護のせいにして、自分のことなど全く視野に入れていなかった。
加護を神様に返した今ならわかる。
こいつらが、本当に、心から俺のあとをついてきてくれているってことを。
俺のことを心の底から考えてくれていたってことを。
俺は、ルナ、キュリア、リコルノ、るんるんのことを心から信頼してるってことを。
「……で、結局ルナは俺のことどう思ってんだよ」
俺は最後にルナにそう尋ねる。
「もちろん、大好きですよっ」
ルナはノータイムでそう答えると、満面の笑みを俺に向けた。
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