二人目

「なあルナ。依頼の真相のことだけどよ、なんかユニコーンのこと知ってたみたいに見えたんだが……」


「そ、それは……、い、依頼にかいてあったからですよ」


……嘘つけ。

 そんなこと依頼内容に書いてあるわけがない。俺は心の中でそう思うも、声には出さず「そっか」と何も思わなかったように頷いた。


 まあ、そんなこと言ってる間に盗賊の住処には辿り着いたわけだけども。


「どうしよう。ものすごく怖くて足が動かぬ」


 いや、下っ端倒すのと本部に突撃するのではわけが違うからな。足がすくんで力が入んないの。

 そして俺が一人ビビってる間にもさっさと進んでいくキュリアとオオカミたち。さすがというかなんというか……いやちょっとまっておいてかないで。


「だ、大丈夫でですか? ちっ因みに私は立てないとかではありませんから。休んでるだけですからっ」


「はっ、はぁ? 俺だって休んでるだけだし。別にビビってるわけじゃねぇーしぃ!」


 キュリアとオオカミたちがどんどん進んでいくのに対し、情けない言い争いをする俺とルナ……。後ろにいるリコルノの目線が痛い。


「……せーので行くぞ」


 このままではびびって俺だけじゃ動けないままだ。かといってリコルノからの視線に耐え切れるほどメンタルも強くない。

 俺は協力してくれる仲間を求め、隣で緊張感丸出しのルナに声をかけた。


「了解しました……」


「じゃあ行くからな。せー……ぶほっ!?」


 突如襲いかかる後ろからの衝撃。

 全く周りに警戒していなかった俺はその衝撃に耐えることができず、そのまま前へと転がった。

 痛む背中をさすりながら後ろを振り返る。

 すると、そこには見慣れぬ黒髪ショートの女の子がイライラした顔つきで俺を見下ろしていた。


「なんか、オレの身体つき変わったかと思ったら、ご主人様が目の前でビクビクしてんじゃねぇの。ムカついたから蹴っ飛ばした」


 ところどころ破れているボロ布を羽織ったその少女は、そう言うとさっさと行けと言わんばかりに俺の背中をずいずい押し始める。


「ちょいちょいちょっとまて! なんでお前まで姿変わってんだよ。お前子供だったの!?」


「ンなもんオレに言われたってわかるかよ。なっちまったもんは仕方ねーだろ。それに、大人だったらあんなに小さくねぇ」


 やっぱりか……。いや、フェンリルの姿がなかったから少し怪しいとは思ってたが、まさか子供だったとは。

 フェンリルが上位種だってこと知らなかったし完全に油断してた。

 ただ、見た感じキュリアほど幼くはないようだ。

 人間で言うところの小学5年生くらいだろうか。因みにキュリアは幼稚園生から1年生くらいの間くらいだと思う。


「てかお前、俺に心許してたのな」


「う、うるせぇ! 撫でてもらったとき気持ちよかったとか、そんなんじゃねぇからな!」


「自分でバラしてどうすんだよ……」


 なんというか、嘘をつくのが下手くそというか、ツンツンしてるくせに考えてることが丸わかりだ。


 でもまあ、よくよく考えてみると人型になっても言葉が通じるぶん、狼の考えてることを伝えてもらったりできそうだし、悪いことは特になさそうだな。

 フェンリルに背中を押されながら、今後のことをすこし考える。そして重大なことに一つ気づいた。


「お前の名前って、なんだっけ」


「は? 知るかよそんなの。名なんてもらったことねーし」


「そっか、なら俺が命名してやるよ」


 あえてつけ忘れてたことは言わないでおく。

 いや、こいつらが仲間になったのすごい突然だったし、全員に名前つける余裕なんてなかったんだよ。

 今もほら、盗賊の隠れ家に突撃中だろ? 名前つける暇なんてなかったんだよ。……なかったの!

 俺は心の中で自分の言い訳を強く肯定すると、うんうんと頷いた。


 でも名前か、考えるの得意じゃないんだよな。

 神様にネーミングセンスをあげるスキルでももらってた方がよかった気がする。

 しかも、言葉遣いはかなり男勝りだが、見た目はどう見ても女の子だ。というかそうじゃないと懐かないんだけど。


 女の子ってことは可愛い名前つけた方がいいのか? キュリアの件もあるし安易に決めるのはやめた方がいいよな。


「ずいぶん悩んでるみてーだけど」


「名前っていうもんはな! 大事なもんなんだ。というわけでもう少し考えさせろ」


 可愛い名前、可愛い名前……。俺の頭の中でその言葉が右往左往する。

 実際そんな可愛い名前なんて考えたことなかったせいか、パッと思いつくということはなかった。


「えっと……なんだか、盗賊の方はキュリアちゃんと狼さんたちでだいぶ片付いてるみたい、ですよ?」


「あぁ? 今はそれどころじゃ……ってまじか。俺たちの出番ない感じか」


「ご主人様たちがノロノロしてッからだろーが。全く頼りにならねーぜ」


 俺に追いついたルナが声をかけ、それに答えている俺にフェンリルがチェっと舌打ちをする。

 確かにノロノロしてる俺たちが悪いが、急に姿変えて動揺させてくるフェンリルにもほんの少し非があると思う。


 で、名前のことだけど、どう考えてもいい案が思いつかなかったためフェンリルとかウルフだとか狼に関する文字をいじってつくることにした。

 名前は大事なもんとか言ってた俺よ、殴りたいなら殴っても構わない。それでいい案がでるのなら。


「きめた…」


 俺はそう呟くとフェンリルの方へ勢いよく顔を向ける。そして決め台詞を言わんばかりの勢いでフェンリルの方へ指をさした。


「るんるん……だ!」


 辺りにしんとした空気が流れる。

 ルナの何とも言えない表情、全く今の流れについていけてないようだ。肝心なフェンリルの方は顔が下を向いてて表情が読み取れない。

 ……ごめん。俺にネーミングセンスなくてごめん。

 急に空気悪くしちゃってごめん。

 因みになんでるんるんになったかというと、なんとなくノリでフェンリルんるんって思ってみたんだ。そうしたらさ、それがなんとなくいいかなって思って……さ。


「あー、えっとなその……」


「ありがと……よ」


「はへ?」


 再び俺の思考回路がぐちゃぐちゃになったのは無理もないだろう。

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