報酬なしの依頼
ふと、近くに見えた現場に俺は目を凝らす。そして疑問に思いながら俺は口を開いた。
「あー……。あ? 俺ら受ける依頼間違えたか?」
あれからかれこれ30分近く歩いてきたわけだが……、なんと盗賊の隠れ家に着く前に盗賊本人たちを見つけてしまったのだ。
だが、盗賊をここで倒してしまえば相手の戦力も減らすことができる。
プラスに考えると一石二鳥というわけだ。
問題は、その盗賊たちが現在襲おうとしている対象が、あの一角獣の子供だということ。
さらに、盗賊たちと一角獣のすぐ近くには小さな村があり、村の住民と思われる1人の女性が、盗賊と一角獣の間に割って入っている様子が目に入ったことだ。
一角獣の依頼の内容が討伐ではなく特殊になっていたのも、もしかすると今の状況が関係しているのかもしれない。
俺がのうのうと現状を整理している間にも、盗賊たちは女性とユニコーンの方へじりじりと詰め寄っていく。
「とりあえず助けねぇと……!」
俺がそう発した時にはもう走り出していたフェンリルたちとキュリアは、一斉に盗賊たちに襲いかかる。
盗賊4人近くに対し、狼たち約20匹。
あっという間もなく盗賊たちは狼たちによって無力化された。因みに、キュリアは狼たちの速さについていけず途中でギブアップである。
「てか俺まだ一言しか言ってないんだけどな……」
まるで俺の頭の中がわかってたような動きぶり、判断力が優れているのだろうか。兎に角、あまりにも一瞬の出来事だったため、俺の方が狼たちに置いていかれているようだった。
一瞬にして盗賊たちを片付けた狼たちは、首を揃えて俺が来るのを待っていたようだ。
やっとのことで辿り着いた俺に対し、褒めて褒めてと言わんばかりの様子で尻尾を振り続けている。
フェンリルもその例外ではなく、他の狼たちよりも自慢げな表情をしていた。
俺は「よくやった」と近くにいた狼から頭を撫で、盗賊たちのもとまで移動する。
そして、近くにいた女性とユニコーンの方へ顔を向けた。
「えっと……、もしかして貴方があの特殊依頼をギルドに依頼してた方でしょうか……」
ふと、後ろにいたルナがひょこりと顔を出し女性に問う。
俺は最後まで依頼の内容を読んでいないから詳しいことはわからないが、あの依頼にやけにこだわっていたルナなら、何となく気づいたことがあったのだろう。珍しくそんな目をしていた。
「あ……あの、私たちはあの依頼受けてないのですが……その、できれば力になりたくてっ」
「急に何言い出してんだてめーは」
俺は話を止めながら割って入ると、キッとルナの方へ目線を向けた。
そして、女性恐怖症である俺の方が逆に撃退される。
「な、何がしたかったんですか」
「そりゃあこっちのセリフだバカ! どうして俺らが協力しなきゃなんねーんだ」
次は目線が合わないよう注意してそう叫ぶと、俺は頭の中がハテナで一杯になってそうなユニコーンの方へ近寄った。
近くで見ると一層わかる。やはり子供だ。
もしこいつが俺に懐いてしまった場合……、どんなことが起きるか、それは安易に想像できる。
「兎に角、俺は反対だね」
「……このユニコーンに命の危険があると知ってもですか?」
「この村で保護してもらってんじゃねーのかよ」
ルナは首を横に振ると、よく見ろとでも言うようにユニコーンの方へ指をさす。
俺は仕方なくユニコーンの方へ目線を向け、先ほどより一層注意深くユニコーンの体を凝視した。
目を凝らすと、その小さな体にはいくつかの傷跡が残っており、未だに治りきってない傷跡や、最近できた怪我などが確認できた。
ユニコーンの体は、俺が思っていたよりも、かなり痛々しい状態だったのだ。
「うぐぐ……」
「ふっ……迷ってますね」
謎のドヤ顔を俺に向けるルナは、どうやらもう俺が無視できない状況にあるのに気づいているようだ。
本当に困ってる人……や動物を見てしまうと避けることができない、という俺の
いや、でもよく考えろ俺。それで俺が得をしたことが一度でもあったか……?
ある時は顔面を思い切り殴られ、ある時は魔物から死に物狂いで逃げ……。
「わかったよ。事情はよくわかんねーけど、そのユニコーンを保護すりゃいいんだな?」
「本当ですかっ!?」
村の少女はそう言うと、涙を浮かべ頭を何度も下げてきた。ユニコーンの状態といい、この反応といい、何だかとても深刻なことに突っ込んでしまった気がする。
「なあ……でも、どうしてこんな依頼をだしたんだ」
「か、簡単なことですよっ。普通の馬だと思っていた馬が実はユニコーンだったんですから」
未だに涙を堪えている女の子に変わってルナはそう言うと、女の子の元へ近寄り、そっと頭を撫で始めた。
たしか、あの通称魔物図鑑にも成長するにつれ徐々に角、翼を成長していくと書いてあった気がする。
産まれたばかりのときはまだ角が小さすぎて、ユニコーンだということがわからなかったのかもしれない。
「ユニコーンがいるってなると、さっきみたいな盗賊がうんとやってくるしな。もうこの村じゃ面倒みきれなくなったってわけか」
「この子が……ずっとお世話してたんだね」
俺の後に、珍しく黙って話を聞いていたキュリアが口を開く。
キュリアが言うように、この子がこのユニコーンをずっと世話してきたんだろう。
でなければこんなに感情的になるはずがない。
安心したような、辛いような……寂しそうな、こんな表情をするはずがない。
「あー、そうだな……。心配しなくてもユニコーンの安全は保証してやるよ。こいつらがちゃんと守ってくれるからな」
「ふぇ!? わ、私たちがですか!?」
「当たり前だろ。おそらくこの中で最弱なの俺だし」
「あ、ありがとうございますっ……」
俺の自虐ネタを聞いていたのか聞いてなかったのか、ようやく笑顔を見せた村の少女はそう言って俺たちの方へ顔を上げた。
すかさず俺は顔を背けるが、隣にいたルナによって顔の向きを戻される。
この時の俺の内心は……言わなくてもわかるだろう。
ルナを振り払い、俺はユニコーンを連れその場から立ち去ろうとする。
「……さよなら。リコルノ」
恐らくユニコーンの名前だろう。それを聞いたユニコーン……いや、リコルノは一瞬走りだしそうな勢いで後ろへ振り向いたが、すぐに俺の方へと顔を戻した。
自分のすべきことがわかっているのだろう。
寂しさを堪えるように歯を食いしばっている様子を見ていると、俺のしていることが本当に正しいことなのか……少し疑問に思ってしまう。
「にぃ、にぃはいいことしたよ?」
「でもよ……」
「にぃがそんな顔してたらみんな不安になっちゃうからっ。ニッコリしてないとだめだからっ……」
その言葉を聞き、キュリアの言いたいことがなんとなくわかった気がした。
確かそうなのかもしれない、俺がこんな顔してたらリコルノたちどころかルナやキュリアも不安にさせてしまう。
俺はふぅ……と一息吐くと、右手を勢いよく天に突き立てた。
「俺に任せろッ!」
最後に一言そう叫び、俺は再び歩き始めた。
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