ひと段落
結局、俺が気付いたときには盗賊たちも全滅していて、何の役にもたたないまま依頼は達成してしまった。
現在俺は報酬金を受け取り、このあとどうするか絶賛悩み中である。
オドオド系女子に、ドラゴンロリ、イヌミミ少女に一角獣と狼多数。これだけの数が俺の周りにいるとなると……、どう頑張っても一緒に暮らせそうにない。
「に、賑やかになりましたね……」
「あー、賑やかすぎてかなり困ってる」
苦笑しながらそう言うルナは、手元に置いてある見た感じコーヒーの様なものを口へと運んだ。
一応ギルドから報酬金を受け取った俺はこの大人数を連れて歩いていたわけだが、ルナのこれ以上は疲れて歩けないという要望により、近くにあった喫茶店へお邪魔している。
さすがにあの数の狼は手がつけれないため、るんるん達には外へ出てもらっているが。
外で何も問題起こさないといいんだけど……。
「やっぱりあの狼の数はどうにかしねーとなぁ、何十匹もいるし、俺んとこでも3匹が限界だ」
「おおかみさんいなくなるの? るんるん寂しくなっちゃわないの?」
「俺だってそのことはよく考えたけどさ、どう頑張ってもあの数は無理だ」
家の外と中、どちらも一応考えては見たが圧倒的にスペースが足りない。
るんるんには悪いが、次期リーダーか副リーダーをここで決めてもらって、呼びたいときに呼ぶ……そのような形をとってもらわないと、正直今後一緒にいるのは厳しい。
遠くに居ようが俺が叫べばだいたいの狼がそれに気づくくらい耳はいいみたいだし、なにより同じイヌ科の中でもズバ抜けた嗅覚がある。俺の居場所くらいすぐにわかるだろ。
「まあ、一番の問題なのは……、リコルノを合わせて男女比がついに1:4になったことだな」
まだ姿はユニコーンのままだけど……、子供、そして雌だし、いつ人間の姿になるかわからないのも気にかかる部分である。
いや、俺だって自分がすぐ懐かれるほど魅力的な性格じゃないし、見た目も平凡的なことくらいわかってる。
でも俺には呪いと言ってもいいようなあの禍々しい加護が常についてるからな……。
本当に、今の調子じゃこれから先が思いやられる。
「なあ、ご主人様。なんとなーくさっきまでの話聞いててわかったんだけど……、要するに俺の手下を近くに置かなきゃいいだけなんだろ?」
俺とキュリア、ルナがテーブルを囲んで座っている真横の窓が急に開き、そこからるんるんが勢いよく顔を出した。
どうやらさっきまでの話は全部聞こえていたようだ。
「まあ、結局はそういうことだけどよ…。るんは寂しくないのか? 別に他の狼と一緒に俺から離れてもいいんだぜ?」
「別に、遠くにいたって頭ん中で会話できるから寂しくなんかねーよ。……それに、手下どもには悪りぃが、ご主人様から離れるのは……いやだし」
こいつら頭の中で会話って、あの連携攻撃の秘密はそのコミュニケーション能力だったってわけか。
それも距離関係なくできるとなると……恐ろしい能力だな。
「まあ、それなら決まりだな」
るんるんのツンデレは、ツッコミを入れたところでどんな反応するのかは目に見えてるため、あえてスルーしておく。
因みに、毎回るんるんるんるん言うのは面倒だということで、俺たちは基本的に略してるんと呼ばせてもらっている。本人も了承しているし別に構わないだろう。
俺は席を立つとカウンターの方別に移動する。キュリアのことはルナに任せておけば問題ないはずだ。
代金を払い終えると、ルナたちの後を追って俺も喫茶店をあとにした。
俺が外にでると、そこにはルナ、キュリア、二匹の狼とるんるんの姿だけしかなく、残りの狼たちは巣へと戻った後のようだった。
でもまあ、頭の中でつながっているせいか、るんるんの表情からはあまり寂しそうな感情は伝わってこない。
隠してるだけかもしれないが、るんるんが決心したことだ。俺が下手に気を使うとるんるんの意思を踏みにじることになる。
俺は平常心を意識して、口を開いた。
「で、今から家に帰るわけだけど……。流石にこの格好のままってのもなぁ」
俺の目線はるんるんの衣服へと向かう。ただのボロ布を纏っただけのその姿だと、一緒にいる俺たちが悪い方へ勘違いされそうだ。
「ど、どこか衣服の売ってる場所が近くにあるといいんですけどね……」
ルナはそう言ってあたりを見渡すが、近くにはそれらしい店はないようだった。
だけど……なあ、この服のまま家に帰るっていうのも……。
「あー、そうだ。ルナ、ここからは別行動ってことでるんの服探すの手伝ってやれねーか?」
「は、はい……私は大丈夫ですけど」
「この金髪女とかぁー? まあいいけどよぉ」
両腕を頭の後ろに回したるんるんはかなり威張った態度をとっている。まあどれだけ威張った態度をとろうがもともとお前に拒否権なんかないからね?
「じゃあ、俺は先にキューちゃんとリコルノ、狼たち連れて先に帰るから」
「はいっ! き、気をつけて」
俺は、恥ずかしさから顔を合わせないままルナに手を振ると、そのまま足を動かし始めた。
流石に1人の洋服買うためだけに馬と狼を連れて行くわけにも行かないからな。
いやまあ、正直なところルナとるんるんと別れることでこの場の女性率を低くするという算段もあったのはあったけども……。
「特にルナと一緒だと神経削がれるからなぁ、同じくらいの歳だし、特殊でもなんでもないし」
だいぶ距離離れてるしルナには聞こえてないだろう、そう思いキュリアの方へ顔を向けた。
「にぃ、ルナがじーって見てるよ? 寂しいのかなっ?」
「え?」
あれはそう……聞こえてたようだな。何も見なかったことにしよう。笑顔なのに笑顔じゃないあの表情は、見ちゃいけなかったやつだ。
一瞬背後に振り返った俺はさらに歩くスピードを加速させる。そしてその速さのまま自宅の方へと歩いて行った。
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