森の中で
「つーわけで……どうすっかなぁ」
ドラゴン一匹と人間1人、ポツンと森の中に座り込んで俺はう〜んと頭を悩ませていた。
街の方に戻りたいが、戻れない。誰か他の人が救助に来てくれたらありがたいんだけど、こんなに広い森の中だ。到底それは叶いそうにない。
キューちゃんなら森のことわかってそうだが、生憎俺はドラゴンと会話できるような高度な言語能力は持っていない。
「キュ?」
そんな悩んでいる俺を心配しているのか、キューちゃんは俺の顔を下から眺めてくる。
そして鼻先をコツンと体に当ててきた。
今思えばルナにもひどいことをした。いくら女性恐怖症だって理由をつけても、勝手に何も言わず、ましてやお礼も言わず出て行くなんて、俺基準だとあってはならないことだ。
「やっぱり、どうにかしてでも戻らねーと……」
俺がそう決意し立ち上がったとき、どこかで魔物が吠える声が聞こえた。慌てて俺は警戒し、聞こえた方へ身体を向ける。
いち早くそれに気づいていたキューちゃんはすでに戦闘態勢だ。
「こっちには……こない?」
確かに声は聞こえたはずだが、こちらへ寄ってくる気配は感じられない。他の誰かを襲っているということなのだろうか。
それとも魔物同士で争っているか……。
後者だった場合は恐らく無事でいられないだろう。だが、前者だった場合街へ帰られる確率が数段と上がる。もしかしたらその襲われてる人が街までの道のりを知っているかもしれないしな。
「そうと決まれば、ここでずっと居座ってるわけにもいかねぇ」
声の聞こえる方へ脚を踏み出し、前進する。
俺の行動に気づいたキューちゃんも後を追うように俺についてきた。
先へ進むと、どうやら狼型の魔物が一匹、何者かに襲いかかろうとしていた。
大きさが狼型の方が大きすぎるせいで襲われてる方はよく見分けることができない。
とりあえず助けるしかないと判断した俺は地を蹴り狼へと近づいた。勿論戦うつもりはない、助けたらすぐに逃げ出すつもりだ。
まあ、逃げ切れる可能性も限りなく低いけど、戦うよりかは十分マシだろ。
だが、襲われてる人物に目がいった瞬間、俺の脚はそこで氷のように動かなくなった。
狼に襲われているのが女性だったからだ。
しかもただの女性ではない。ふわふわした金髪に潤んだ瞳、そしてその瞳は涙を堪えながらも俺の方へと見上げられている。
「なんでお前がここにいんだよっ……」
戦うのは苦手だから安全な依頼しか受けないとか言ってたくせに。危険なことわかっててこんなところまでくるお馬鹿さんなのかよ!
……いや、違う。
俺のことが心配で、それでここまで来たんだこいつは。
……絶対そうだ。
「どんだけお人好しなんだよお前は。勝手に出て行った俺が悪いんだ! そのまんまほっときゃ……」
「よかった、無事でした……」
そう言うと、安心したようにルナはばたりと地面に倒れこむ。どうやら意識を失ってるみたいだ。相当無理していたのだろう。
まあでも、この状況全くもって無事じゃねーけどさ……。
俺は歯を食いしばって、意識をこちらへ戻す。
「こいつもキューちゃんみたいに戯れてくれたら嬉しいんだけど……流石にそれはありえねーよな」
俺は苦笑いしながら、急な俺の登場で少し戸惑っている魔物に目線を向けた。
が、思ってた通り俺の微かな願いもすぐに打ち壊され、態勢を整え終えた狼は真っ先に俺の方へと爪を立て飛びついてきた。
あまりの速さに俺はついていけず、その場に尻餅をついてしまい動けなくなる。
勝負つくの早すぎだけど、戦闘経験ないんです! ゆるしてぇぇ!
そう願いながら飛びかかってくる魔物に謝りまくると、俺はもうだめだとぎゅっとまぶたを閉じた。
が、次の瞬間吹っ飛ぶのは魔物の方だった。
素早く俺と魔物の間に入り込んだキューちゃんが体当たりで魔物を吹き飛ばしたのだ。
「ナイスタイミングキューちゃん!」
俺は震える脚で立ち上がると、グッジョブと親指を立ててそうキューちゃんに伝えた。
この感じだとどうやら実力はキューちゃんの方が上のようだ。
体格は自分より遥かに大きい相手なのに、それでも向かっていけるとか……流石だぜキューちゃん。
「だけど、キューちゃんに負担かけるわけにもいかねぇ、一旦逃げるぞ!」
キューちゃんに指示を出しながら俺はルナを抱え走り出す。女性恐怖症の俺だ。勿論抵抗はあったさ、でもんなこと言ってたら命が2つあっても足りない。ここは歯を食いしばってでも耐えるしかねえ。
俺はルナを抱えたまま魔物がいたところから走り逃げると、ルナを安全そうな場所へ(っていっても普通に地面の上だけど)そっと降ろし、ホッと胸を下ろした。
ふと、キューちゃんはどこだろうと辺りを見渡すが、そこにはさっきまで一緒だったはずの幼龍の姿が見あたらない。
「逃げる時は一緒だったはずなのに……どこ行ったんだよ」
まさかあの魔物にトドメをさしに行ったとか……?
でもいうことを効かないような子じゃないはずだし、んなことありえねーと思うけど。
俺は不安になり辺りを軽く見渡す。
すると、すぐ側にカサカサと小刻みに動いている不自然な草が生えていることに気づいた。
だんだんとその動きは激しくなっていき……どこまで激しくなるんだと思った瞬間、草が不自然に動いていた原因がバッと草の中から顔を出した。
「にぃ!」
赤い髪をしたその少女は、俺に向かってそう叫ぶのだった。
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