赤髪の少女

 少女は草の中から勢いよく飛び出すと、俺の方へその勢いのまま飛びついてくる。

 見た目からして5から7才くらいだろうか……。服は着ておらず、ところどころ大事なところに爬虫類の鱗のようなものがへばりついていた。

 そして、それに気づいた少女はそれが気持ち悪かったのか、鱗を剥がすように搔きむしり始める。


「いや、まて! 服着てねーだろ、剥がすなバカ!」


「きゅ?」


 少女はどうして? と問うように俺にそう言うと、うーん……と自分の身体を眺め始めた。

 そして自分の姿を自分でも驚いたようにピョンピョンとその場で飛び跳ね始める。

こいつ、忙しい奴だな……。


「しかも、きゅ? ってもしかしてだけどキューちゃんじゃ……ないよなぁ……」


 うん、鱗へばりついてた時点でまさかとは思ってたけど、流石にそれはねーよなぁ。

 それに、唯一心を許せる仲間ができたと思ってたのにそれが女の子になっちゃうだとか、それほど悲しいことはない。

 俺は勝手にそう決めつけると、1人うんうんと頷く。

 まあ、それだとこの子はいったい誰だよってなるんだけどね。


「にぃ、きゅーの身体……変。おかしいよ?」


 少女はそう言うと、赤い髪を揺らしながら俺の方へ視線を向けてくる。あと、『にぃ』ってもしかして俺のことなのだろうか。

 俺は確かめるために「にぃ?」と自分を指差しながら少女に向かって尋ねる。すると少女は何の迷いもなくうんうんと首を頷かせた。

 どうやら『にぃ』とは俺のことらしい。どこからその単語が出てきたのか知らねーけど……兄ちゃんにでも見えたのかな。


 ってか、自分のこときゅーって言ったよなこの子。それ言われちゃもう否定のしようがないじゃん。

 何でだよ! どうしてこうなっちゃったんだよキューちゃん……!

 俺は理解できぬ状況に、歯を食いしばいながらそう思った。

なんとか意識を自分の世界から戻し、ルナの方へ目線を向ける。

 気持ち良さげに寝ているその表情から、命に別状はなさそうだ。俺はふぅ……と安堵の息を漏らすと、ゆっくりと地面に腰を下ろす。


 もう辺りは真っ暗だ。最初は危険だからここで寝るわけにもいかないって思ってたけど、ここまでくるともうここで野宿するしかない。

 俺は近くに散らばっていた木の枝をかき集めると、キューちゃんを近くに呼んだ。

 俺は火を吐くジェスチャーをキューちゃんにしてみせると、キューちゃんも同じようにして、本当に口から火を吐き出す。

 思った通りと、俺は木の枝をキューちゃんの目の前に持っていき火をつけると、そこから太い枝を重ねていき、焚き火を完成させた。


「じゃあキューちゃんは寝てろ。見張りは俺がしとくから」


 胡座をかいていた俺は、キューちゃんの頭をそこに乗せると、安心して眠れるように頭を撫でて様子を見た。

 なんだか、あの神様と会ったときとは違うけど、キューちゃんからもそこまでトラウマを感じさせる女っぽさってのがないよな……。

 まだちっちゃいからか、それとも龍だからか……。いや、一緒に心を通わせた相棒だからってのが正しいかな! まだ出会ったばっかだけど!

 考えたところで上手く答えが出るわけがなく、俺はヤケクソ気味に考えをまとめた。


「てか、こいつ服着てねーんだった」


 俺は思い出したようにそのことに気づくと、慌てて上の服を脱ぐと、それをキューちゃんのうえに被せた。明日からはとりあえずこれを着せておくしかないよな。

 そしたら俺が変質者みたいに見られそうだけど……、上着を羽織ってなかったんだし、仕方がない。


 まあ、それにしても、何がどうなってこんな姿になっちまったんだろうか……。

 ドラゴンに遭遇するわルナと魔物に遭遇するわ、ドラゴンいつの間にか幼女化するわ、頭がついていかねぇ。


「むにゃむにゃ……」


 ルナの静かな寝息が聞こえてくる。寝てるだけなら、少しはマシなのかもしれない……けど。

 俺はルナを抱えた手に目を向け、現実から目を背けるように顔を横に振った。

 

 ……今思えばキューちゃんとも会話がとれるようになったし、街に戻るのは簡単かもしれない。

 とりあえずこいつを無事家まで帰す。話はそれからだな。

 俺はそう頭の中で決めると、長い長い夜と睡魔の戦いを静かに開戦するのだった。

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