異世界到着…したけど

 目を開けた先はどこかの街の中なのか、光を下のタイルが跳ね返し、それが俺の目を襲った。


 明るさに慣れない目をこすりながら周りを見渡すと、何やら西洋風な建物が周りに並んでいた。他の人が着ている服も俺のいた世界とは全く違う、何やら異文化の服で自分が浮いているようだった。というより明らかに浮いていた。


 そういえば自分の姿形が変わっていないのを見た感じ転生したわけではないのだろう。いや、俺死んでないしするはずないか。恐らく神様が俺を転移させたんだろうな。

 ここらへんの知識はまあ、ゲームとかしてたら勝手に身についた。


「で、俺に何かプレゼントしてくれるって神様は言ってくれてたわけだけど、見た感じ何も変わってねーな」


 俺はそう呟くと、ズボンに空いているポケットに手を突っ込み、とりあえず街を散歩してみることにした。ポケットに手を突っ込んでしまうのは昔からの癖である。

 が、ポケットに手を突っ込んだとき、何やら手に違和感があり、俺はそれを取り出した。

 見た感じただの紙で、綺麗に折りたたまれてある。こんな紙ポケットに入れた覚えないし、俺が寝る前にも中は空だった、つーことは……?


 俺は折りたたんであるそれを雑に広げる。そして、何やら日本語で文字が書かれてあったのでそのまま読んでみた。

 少し癖があったため読みづらかったが、読めないわけではない。読み終えた俺は、その紙をくしゃくしゃにしてポケットの中へ入れなおした。

 中を読む限り、この手紙の差出人はあの真っ白神様だ。何で日本語が書けたのかはわからないが、文字が読みづらいことから慣れているわけではないのだろう。


 それより、この文は何なんだ……。俺は怒りと恐怖を噛み締めながら、手を力一杯握りしめると、手紙に書いてあった内容を思い出す。


「女に対抗できる力がよくわからなかったからとりあえず女性に対する運がとても上がるラッキー能力をつけておいたよ。だとぉ……」


 顔面蒼白で書いてあった内容を復唱すると、俺は現実から逃げるように頭を抱えて路地裏の方へと逃げていった。

 路地裏で誰にも見られないように姿を隠した俺は、勢いでくしゃくしゃにしてしまった手紙を取り出し、ジーっと注意深く読み直す。


 とりあえず現状を整理する必要がある。この手紙に書いてあることからして、俺の女性恐怖症という名の恐怖症は全くもって治っていない。そしてなんということか、女性に対する運……どういう運かはわかんねーけど、とりあえずそれが神様によってとてつもなく上げられたってわけか……。


「ただの嫌がらせじゃねーか!!」


 俺はあまりの衝撃に勢い余ってそう叫んでしまう。そしてすぐに我に返り、周りに聞かれていないかキョロキョロと確認すると、確認を終えた後で再び手紙の方へ目線を向け直した。


 とりあえず問題なのは神様の言ってるこれがすごく曖昧だってことだな……。女性に対する運って言われてもそれが女性の出現率が上がりやすくなるのか、好感度が上がりやすくなるのか……ラッキースケ、ゴホンゴホッが高くなるのか、いまいちよくわからない。もしかしたら全部って可能性もあるけどそうなったら本当に地獄が始まってしまう。


 神様は何がしたいの? 俺を殺したいのか!?

いきなりこんな場所に呼び出しておいて、この仕打ちはないだろう。俺は何もわかっちゃいない神様に不満を言い放った。いや、心の中で思った。


 一応自分の中で整理がついた俺はとりあえず路地裏から出ようと脚を一歩前に踏み出す。

 結局自分で確認してみないと本当かどうかはわからない。いや、したくないけど。嫌でもしなきゃいけないだろうし。


「誰かぁ〜っ!!助けっ……」


 ふと、俺のすぐ後ろの方から声が聞こえてきた。明らかにこれはやばいやつだと判断した俺は急いで後ろへ振り返る。

 だが、ここで俺の理性が俺の脚を引き止めた。なぜなら今の叫び声は、どう考えても女の人の叫び声だったからである。


 でも、困っているのなら行くしかない。だがここは異世界……もしかしたら襲ってる人が刃物とか魔法とか使ってくるかもしれないし、何より俺の変なラッキーステータスが発動してる可能性が十分にある。


「ここはあえて行かないほうが……」


 俺は唇をギュッと噛みしめると、後ろを振り返ろうとした。そしてそのまま脚を前へ踏み出すと、声の聞こえた方へ全力で走り出す。

 いくらなんでも女が苦手とかそんな理由で俺が人殺しの手伝いしてしまったとかそんな風になるのは絶対にゴメンだからな!!


 でも、ちょっとまって……俺ってそんなに喧嘩強くなかった気がする。頼みます神様、どうか喧嘩沙汰にはなりませんように。


 が、俺のそんな願いも簡単な打ち砕かれ、全速力で走ってきたせいかくたびれている俺の目の前に佇むのは、見るからに強そうな不良っぽい男たち3名。そしてそいつらに捕まってる女の子1名だった。


「なんだてめぇ、何しにきやがった」


 俺の姿に気づいた男の1人が俺に向かって鋭い目つきで睨みながらそう威嚇してきた。

 一応、言葉は通じるみたいだけど、こいつらには違う意味で通じそうにないなぁ……。俺ははぁ……とため息を吐くと、そんな男3人のところへ余裕の表情で近づいていく。


 男3人に捕まってる女の子は既に半分泣きかけている。

 うそだろ、女子を泣かすことができるとか最強かよこいつら……。

 俺は一瞬怖気付くも、それを隠すように顔を横に振ると、再び余裕の表情で男たちの方へと歩み寄っていく。


 そんな俺の様子を警戒しているのか、男たちは危険人物を見るような目で少し後退しながら俺の様子を伺っていた。だが俺は歩みを止めない。

 相手に手がとどく、その距離まで来た時、俺の脚は一気に加速した。


「先手必勝ーッ!!」


 その言葉と同時に女の子を捕まえてる男の顔面を思い切り殴り、怯んだところを脚で蹴っ飛ばした。いい手応え、久しぶりの殴った感触に感激しながら俺は蹴った脚をそのまま振り切る。

 そして相手が倒れたのを見ると、俺は女の子から距離をとって、男3人に向かって人生最大のドヤ顔を放ったのであった。

 ここまで爽快な気分になれたのは何年ぶりだろうか、初めてかけっこで1番になったときと同じような爽快感である。


 だが、その後何もダメージが効いてないように普通に立ち上がってくる男を見て、次はどんどん冷や汗が額から流れてきた。

 天国から地獄に落とされる気分ってこんな感じなのだろうか……。


 男たちの怒りゲージはもうMAXだ。嫌な予感しかしない。こんなことになるならもう少し身体鍛えとけばよかったな……とふと思う俺であった。

 このままでは俺もあの女の子もただでは済まないだろう。

 そうなる前に、俺は震える脚をおさえながら肺に空気を詰め込む。そして、男3人が襲ってくる前に俺はそれを大声へと変え、叫んだ。


「逃げろォォォォ!!」


 刹那、頭に途轍もない大きな衝撃が走り、俺の目の前は真っ白へと変わるのであった。

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