第4話

目が覚めた。タブレットはソファの上に転がっている。体が冷えていた。13:00を過ぎた時計を見て、何とか時間の感覚を取り戻した。酔いが醒めていたのは幸運だった。酩酊していたら、死ぬほど落ち込んだに違いない。

そして今日三回目のコーヒーを作った。砂糖もミルクも入れない薄いコーヒーだ。

ゴクゴクとコーヒーを飲みながらソファーに座り直し、再び「単子論」に目を通してみる。隙のない論理に感心しつつ、ライプニッツさんの思い込みはずいぶん強いものだと思う。世の中ロジック通りには動かないのだ。思い通りに行かない経験を全て飛び越えて、単子に至ったのだろう。どいつもこいつも単子と思えば気が楽だ、というのは同意できる。微分積分も、こんな極端に抽象化した思考から生まれたのだ。僕には出来ない。

「単子には窓が無い」と書いてあるのを読んで、窓がないのはあなたの心じゃありませんか?と200年前の哲人をからかってみると、妻から「じゃあ君には窓があるの?」と聞き返されたような気がして僕はタブレットを放り出した。

窓?

僕に窓があるのか?その窓は、開かれているのか?

分からない。抽象的な思考に立ち向かう余力がないのか、あるいは酔いがまだ残っているのか。

このまま家にいてもしょうがない気がして、僕は電車に乗って池袋に行った。ロフトと無印良品と本屋を、何も考えずに散策した。いや、何も考えられなかった、というのが正しいだろう。



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