第2話
「離婚?」
「そう。悪いと思うけど」と彼女は笑った。
「・・・何かの冗談かな?」
「真面目なの」
僕はゆっくりと息を吐いた。
ヤカンのお湯が沸騰していた。コーヒーフィルターをセットして、慎重にコーヒーの量を計った。一旦ガスの火を止めてヤカンを持ち上げ、コーヒーの粉に細いお湯を回しかけた。蒸れたコーヒー豆のいい香りが漂ってくる。
結婚して一年。それなりに役割分担も出来て、上手くやっていると思っていたんだけどな。
「それなりに上手く行ってると思ってたけど」
「あなたの作る料理は大好きよ。部屋が綺麗なのも、洗濯物が溜まっていないのも、あなたのおかげ。申し分のないパートナーよ」
「でも別れたいんだね」
「ごめんね」
「少し考えさせてくれないかな」
「もちろん」
彼女は、一度決めたら揺らぐことのない、強い意志の人だった。思いつきや一時の感情で動く人間ではない。よく考えた上での結論か。あるいは考えるまでもない、自明の結論だったのか。ということは、僕らはそもそも結婚すべきではなかったのかもしれない。少なくとも彼女はそう考えたのだろう。
大きめのマグカップ二つに熱湯を注いで温めて、たっぷりとコーヒーを注いだ。彼女はいつも角砂糖を三つ入れる。少し迷って僕も三つ入れた。ティースプーンでかき混ぜて砂糖が溶けたところで、レンジで温めた牛乳を注いだ。
「コーヒーできたよ」
「ありがとう」
彼女は僕の方を見ないでマグカップを取り上げ、一口飲んでうなずいた。
「美味しい」
僕は自分のマグカップに差したティースプーンを眺めていた。出来るだけ無表情に。
それからため息をついて、マグカップを持って立ち上がり、中身をキッチンに流した。
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