深海魚
@yonai1234
第1話
「予定調和」
と彼女が軽やかに言った。
彼女というのは僕の妻で、結婚して2年が過ぎようとしていた。
「予定調和?」
気持ちのよい日曜の朝だった。僕らはトーストとサラダ、ハムエッグの朝食を終えていた。僕は皿をざっと流して、次々と食洗機に放り込んでいるところだった
「そう」
彼女はいつの間にかテーブルを離れて窓際にいた。空を眺め、何かを探しているようだった。
天気予報は、外は激しく花粉が舞い、気温は20度を超えるだろうと高らかに宣言していた。春はそこまで来ているのだ。日中はウールのコートは不要だな。と僕は思う。ダウンベストか、あるいは薄手のスプリングコートを羽織って行くか。
「どういうことだろう?」
「君と過ごす生活を一言で表してみた」
「それが予定調和?」
「うん」
彼女の表情を観察した。何かを試すようなコミュニケーションに不安を覚えたからだ。でも彼女は特に不機嫌そうには見えなかった。むしろ春の気配を楽しんでいるようだ。
「どういうことだろう」
ヤカンを火にかけて彼女に問いかける。
「ねえ、太陽に一番近い惑星って何?」
「水金地火木土天海」
「水星ね。次が金星。地球、火星・・・」
「木星、土星、天王星に海王星。一番大きいのは木星だったかな。巨大な目がついている星だね」
「コーヒーに砂糖は3つ。ミルクも温めてくれると嬉しいな」
「分かってる」
彼女がニッコリ笑って言った。
「これが予定調和よ」
「ふーん」
「ねえ?」
「うん?」
「離婚してくれない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます