第21話 着信
当初の予定より10分早く透哉は新宿に着いた。出かける前に、妹の阿依には、毎度の通り図書館にそのまま行くように伝えた。「うるさい」という言葉しか知らないのか、使いたくないのか、透哉が話しかけるとそれしか返さなかった。
全くもって反抗期かよ。
両親にはそれとなく伝えたが、やはり出かけるようだ。変わる運命もあれば、変わらない運命もあるのかもしれない。
相変わらず新宿は人で賑やかだった。同じ光景を何度見ただろうか。ゲームのように誰かが地形のマスに人を配置しているのではないか。気味の悪いくらいに同じ動きをしている。透哉は全てを記憶しているわけではないが、既に感覚的にわかってしまう。
アルタ前の大型ビジョンから流れるニュースもまた、一字一句変わらなかった。
気持ちが悪くて頭がおかしくなりそうだった。また、気がかりだったのは、葵からの連絡が来なかったことだった。前回も、その前もメールは来ていたのに。葵の身に何かあったのだろうか。
今一度、電話をしてみるが、反応がない。時間的に、東京駅にはついているはず。移動しているのなら、電車の中。メールぐらいは返ってきてもいいはずなのだが。
「よっ!」
普段と変わらない博人の声だ。透哉が振り向くと、隣には真梨阿が、その後ろには申し訳なさそうに絵理が立っていた。
博人は能天気なのかわからないが、Tシャツに短パンにサンダルという明らかにこれから起こるであろう災害に対してなめているとしか思えない格好だった。思わず、透哉はため息が漏れた。
こいつは馬鹿なのか……。
真梨阿は白のブラウスに緑色のカーゴパンツを合わせている。絵理は初めて会った時と同じ、紺のノースリーブに白のロングスカートを着ていた。
「お前その恰好はなんなんだよ」
透哉が苦笑した。
「一番動きやすいんだよ」
不貞腐れたように博人が言う。真梨阿も透哉と同じ意見なのか、博人の耳元で何か囁いていた。それに対し、博人が「うるせー」と言い放っていた。
「葵ちゃんと連絡とれたんかよ」
博人がスマホをいじりながら言う。
「それが、連絡取れないんだ」
「何かあったのかしら」
真梨阿が心配そうに言う。透哉は心当たりがなく首を振った。
「どうしたんだろうな。あっ!」
博人が突然大きな声を出したと思ったら、クスクスと笑いだした。
「どうしたんですか?」
絵理は不思議そうに博人を見た。透哉も真梨阿も博人を見た。
「いや、麻美のやつがよ」
「麻美が? どうした?」
透哉が博人に聞く。
「あいつ東京駅にいるんだって。今、メール来たんだよ」
「何やってんだよ」
透哉は少しイライラしたが、麻美の行動は誰もが予想できないので、受け入れるしかなかった。
「相変わらずなのね」
真梨阿が微笑む。絵理は誰? と言わんばかりに、博人と真梨阿の顔を交互に見ていた。
「博人お前、麻美になんか余計なこと言ったんじゃないだろうな」
「別に言ってねーよ」
透哉と博人が小言を言いあっていると、透哉の前の方から女性が手を振って近づいてくる。
「透哉君!」
詩穂の声だ。胸を突き抜けるようなクリアな声。詩穂はレースが付いた黄色のノースリーブに、薄水色の七分丈のパンツを合わせ、白色のスニーカーを履いている。
「詩穂さん」
透哉は会釈した。詩穂も博人たちに向かって会釈した。透哉は順番に博人達を紹介する。詩穂も自分の身なりを軽く紹介した。
透哉は今一度皆に、これからのことについて説明をした。これから地震が来ること。それからこの辺一帯のビルは崩壊し、また、地面は各所崩落することを伝えた。透哉と詩穂、博人と真梨阿と絵理のチームに分かれて、葵を探し出すことを伝えた。また、わざわざ死にに行くようなことをさせて悪いと謝った。透哉がまだ何か言いそうだったので、「もういうな」と博人がそう言って気持ちを汲んだ。
その時、透哉のスマホが震えた。画面には、楠木葵の表示がされていた。
「もしもし!」
「もしもし!? 透哉君?」
「今どこにいるんだ!?」
かなり激しい息遣いが聞こえる。
「東京駅! やばいの。やばい。男がしつこい……」
葵が最後まで言い切る前に通話は切れてしまった。透哉はすぐ掛けなおしたが、葵は電話に出ることはなかった。
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