第4話 シンプルな答え

「おはよう」


「おはよう」


秋菜の笑顔が見れることは嬉しいが、この後の事を考えると素直に喜べなかった。




「……どうしたの?」


流石は幼馴染で、10回目以降からはほぼ毎回様子のおかしさがバレている。


「何でもねー…………いや、明日秋菜の誕生日だろ?」


そう言って買っておいたプレゼントを渡す。


「あ、ありがとう」


驚きながら照れながら俺からのプレゼントを受け取る。


「開けてもいい?」


「おう!そんな良いものではないけどな」



秋菜へのプレゼントはネックレスである。

シンプルで俺が好きなデザインを選んだ。

店員さんに「彼女さんへのプレゼントですか?」と言われ、照れ臭いながらも一生懸命選んだものだ。



ドキドキしながら秋菜の反応を待つ。


「――――――ッ!!」


「秋菜?」


「あ、いや……ナツ君ありがとう」


そう言って抱きついてくる。


「気に入ってくれてよかった」


普段の俺なら恥ずかしくて、秋菜の事を振り払おうとしてしまうのだが、今回は違った。




「…………?」


元の状態に戻った秋菜は少し腑に落ちないご様子だった。


「どうした?」


「なんかナツ君が優しい……」


「俺はいつも優しいだろ」


「そうだけど……今日はなんか違う」


「まあ、そんな日もあるだろ」


誤魔化しながら登校する。

本心を秋菜に語るつもりはない。







放課後はすぐにやってくる。

1回目と同じように一緒に帰ろうと提案すると、秋菜は驚いていた。


「やっぱり今日のナツ君変っ!?」とまで言われてしまった。


それでも嫌というわけでもなく、了承された。




「どうするつもりなんですか?」


「何が?」


「秋菜さんの事です。何か策でもあるんですか?」


「まあな。とっておきの作戦がある」


「そうですか!それは楽しみです」


宙を舞いながらウキウキしている。


「まあ、これでさよならだな、ソラス」


「そうですね。幸せになってください」


「おうよ」


覚悟も作戦も決まった。



あとは成功するかだけだ。





「お待たせ」


「……さて、帰るか」


1本道を二人で歩く。

その距離は近いわけでもなく、遠いわけでもない。

ぎこちない距離感で時間まで秋菜との会話を楽しむ。

時間が進むにつれて、俺は泣きそうになるのを堪える。

そんな様子を簡単に悟られてしまうけれど、誤魔化す。



5時11分。

俺は知っている。やり直しの結果、この道を通ったら秋菜はトラックに撥ねられて死んでいる。

だからこそ俺はこの道を選んだ。

死因が分かっているなら対処もしやすい。







「秋菜」


「何?」


無邪気に疑問符を抱いてる姿が可愛かった。

急に秋菜のことを抱きしめる。



「えっええっ!?ナツ君?」


「…………ごめん」


震える体で秋菜のことを突き飛ばした。

吹っ飛びながら驚く秋菜に俺は微笑むことしかできない。





――――――ドンッ!!キッキキーーッ!!!



俺はトラックに撥ねられた。

撥ねられながら色々と考察する。


『誰か一人の死をなくすには誰かの死で上書きしてやればいい』


それが今回の作戦だ。

秋菜を救うためには俺は死んでもいいと思っていた。

でも、いざ死が近づいてくるととても怖くなった。



「ナツ君ッ!!!!ナツ君!!!!!!嫌!!!嫌あぁぁ!!!!」



泣きじゃくる秋菜をかすれていく意識の中確認する。



ああ、俺は死ぬのか……。

やり残したこともいっぱいある人生だったな。

それでも、その時に俺に湧いてきた感情は一つだけだった。




「…………し、死にたくな……ぃ」


そこで俺の意識は途切れた。

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ハッピーエンドレス じゃー @zyasyakku

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