アナザーワン・素底愚魔(スティグマ)〜魔紅蛇螺城の悪姫〜

スガマサミ

アナザーワン・素底愚魔(スティグマ)〜魔紅蛇螺城の悪姫〜

コノクニとカノクニ、魔女との決戦のあった魔紅蛇螺城の悪姫、その後…



マリア王女と大名マグダラの治めるマグダラ城に魔王をはじめ、カルマ王子、キマイラ王女、スティグマ王子が揃い、マリア軍の凱旋式が盛大に執り行われた。


その夜、宴も終わりそれぞれの部屋へ戻ったのちマリアの部屋へ魔王の家族達が集まっていた。魔王はマリアとマグダラの手にしたものを見つめるとおもむろに叫んだ。


「おめでとう!なんだかよくわからないが虹色の薔薇だ!」

「いぇー!!」


マリアとマグダラが取り残された形になり、皆は大盛り上がりになった。……色々あり、家族水入らずの宴が始まった。


その後、鬼母衣衆も宴会。三々五々酒を飲んだり話したりしている。ヒトツキはだいぶ酔った様子でザンゲキに絡んでいた。見かねたフブキは溜息をついた。


「ヒトツキ!あんまり飲みすぎると、またザンゲキと喧嘩になるわよ。まったく…あらゴウキ、どうかした?」

「フブキ、なんで俺はゴウキなんだ?確かに俺が一番最後に造られたから、おまえ等より後の番号になるってのは構わねぇんだが4番目なんだから4にちなんだ名前になるんじゃねぇのか?


飲んでも酔わない程気にしているのか、ゴウキは腑に落ちない顔をしている。


「さぁ?マリアさまにしかわからないわね」

「ゴウキ〜!そんな事もわからねぇのか!」

「なんだよザンゲキ!酔っぱらいはあっち行け」


ザンゲキもヒトツキに負けず劣らず酔っぱらっている。


「お前がなんで4番目なのにゴウキかっつうのはだなぁ……あ、4は縁起が悪いからだよ!そうに違いないわっはっは!」

「あーはいはい……」


さらに浮かない顔をしてゴウキはつぶやいた。


魔王たちの宴は夜中まで続き、いつしかそれぞれの部屋へ戻っていった。空が白み始める前の頃、ローブを纏った人影が音もなくマリアの枕元に立った


「では、ここから始まります」


ローブから禍々しい装飾の施されたナイフを持った手が振り上げられた。


「やはり、お前だったか」


不意の声にローブの者は振り上げた手をゆっくりと下げるとフードから顔を出した。醜い傷のついた顔が薄暗い部屋に浮かびあがった。


「いーっひっひっひ、気づかれていましたかぁーさすが我が生みの親、魔王といったところでしょうかねぇ」


いつの間にか広い寝室のソファーに魔王が座していた。


「スティグマ。まぁ座らぬか、ゆっくり聞きたいこともあるしな。マリアはお前が眠りの魔術をかけているのだろう?」


スティグマはゆらゆらと身体を揺らし魔王を見つめながら魔王のベッドから少し離れたソファーに乗り、しゃがんだ。


「おぉ…全てお見通しなのではないのですか魔王陛下。今更この私から何を聞きたいと」

「お前自身の口から聞きたいのだ」

「まぁいいでしょう。しかし、あなたはどこまで状況をご理解されておられるのですか?」


魔王は傍らに置いてあったらグラスへ水差しの水を移すと少し口を潤した。


「スティグマ、トーマの心臓を使わねばならぬところまで貴様が皆を追い込んだということであろう?」

「ひっひっひ…あっははは!この新世界においても前世界の事を忘れておられぬ!魔王の力、そこまで偉大であったとは!」


スティグマは興奮した面もちで立ち上がると両手を掲げ笑い始めた。


「あーはははははは!あっはははは!ごほごほ…」

「あまり無理はするな。新世界になったとて、お前の身体に蝕む呪いは解けてはおらぬはず」

「あぁその通りさ!あんたのせいでこの俺の身体には、先代魔王の呪いがかけられているのだからなぁ!!」


先程までとは別人の顔つきでスティグマは魔王へ歩み寄り、魔王の顔の目の前まで自身の顔を近づけた。


「あんたが憎いぃぃ、何故だ、何故この俺だけが呪いを受けなければならないのだ…あんたが悪いのに!」


魔王は悲しい眼差しでスティグマを見つめた。


「だから俺は…世の中の摂理を変えるために、変えて呪縛から解き放たれるために、どうすればいいのかをずっと考えていたんだ。地下牢の中でね」


スティグマはくるりと向きを変え、再度ソファーに乗りしゃがみながら魔王を見つめた。


「その答えが、魔女を使うこと?」


少し目を細めながら魔王が聞いた。スティグマは目を見開いたまま口を開いた。


「えぇ、まぁ確かにそれはそうなのですがね。それは一部でしかない」

「一部、というと」

「少し長くなります、夜が明けてしまう前に終われるかな」


しゃがんでいた体勢から後ろに倒れ込むようにスティグマはソファーへ腰かけた。


「全てはトーマの心臓、こいつの能力の限界がどこかなのさ。確かに強大な力ではあるけれどもどこまで可能なのか。それ次第だったわけですよ」


魔王は悲しい眼差しで頷くだけだった。


「そこでトーマに近づいたわけなんだけど、あいつは自分の力については誰とも話をしなかった。魔王、あんたともね。かなり仲良しにはなったんだけどな〜少なくとも兄弟の中じゃ一番の仲良しだったはずなんだ」

「そうだな、トーマはお前に一番気を許していたところがあったな」


眼差しを虚空に移しながら魔王が言った。スティグマはそんな魔王の顔をただ凝視しながら話を続けた。


「まぁトーマの力はわからなかったのさ。ただ先代、先々代らの話を聞いたら世界を創り直す事が出来るのはわかっていたんだ。それも少し手を加えてね。ただしそれはこの宇宙の中に限られる」

「魔女、は予測ができないというわけか」


少し嬉しそうな顔をしてスティグマは首をかしげた。


「そう、魔女と魔王の力は未知数。だからこそカノクニの王と魔女たちを使おうと思ったのさ。しっかしマムシの奴はポンコツ過ぎてね。仕方なく妹のタマムシを使う事にしたんだ。まぁ役には立たなかったけどね。とにかく魔女が絡んでくればトーマは必ず魔女たちを完全に新世界には出現させない方法を使うしかない。それは冥界のさらに闇へ閉じこめる事」

「それこそがお前の狙い」

「本当に何もかもお見通しなんだなぁ魔王さまぁ…あひゃひゃひゃひゃ流石に宇宙の外の外!魔女、あいつらは面倒でさ!何もかも勝手でさぁとりあえず使いにくいから困ったよ。俺が時の魔女として制御しなきゃただの筋肉バカとクソ餓鬼だったわ」

「そうか、どうやって魔女を制したかわからなかったが自身が魔女となり制していたのか」

「そうですよぉ…未来予知なんて妖魔を身体に寄せてやれば簡単な事だったしねぇ…トーマが一番お気に入りだったマリアお姉さまをいかに追い込みあんたを殺させるか、その為に魔女を使っただけなんだけどねぇ思ったよりお姉さまは魔術に弱かったから楽しかったよねぇ!」


笑うスティグマの視界の端でマリアが起きあがった。


「スティグマ…お前は…」


自らの魔術が無効化された事に苛立ちを覚えたのか、スティグマは真顔で答えた。


「マリアお姉さま、まだ寝てらしていいのですがね」

「楽しそうな笑い声が聞こえてきましたのでね。続き、聞かせてくださる?」

「まぁいいか…お姉さまに殺されたフリ上手だったでしょう!あれは痛かったなぁ…もちろん魔術で守ってはいましたけどね、ある程度本当に傷つかないとバレちゃいますから我慢しましたよ。おかげでお姉さまの涙、見れました」

「ふざけやがって!」


剣を手にしようとするマリアを魔王が手で制した。


「まぁ最後まで聞こうじゃないかマリア。してスティグマよ、結局お前の目的はなんなのだ?」


スティグマはソファーから立ち上がると、いつも曲がった腰を伸ばし、姿勢良く魔王と向き合った。


「先代魔王を殺し、その代償として我が子の寿命を奪われた魔王、あんたから全ての子供の命を奪ってやることさ」

「全てのか、自らの血をも消し去りたいか」

「知れた事よ。この汚れた血こそが!俺にとって最も忌まわしきもの。それを産み出しし魔王とその血脈は全て消し去ってやる!」


マリアの顔が怒りから悲しみへと変わっていった。


「スティグマ、魔王陛下とこの私をどうやって殺すと言うの?向かってくれば容赦はしない、でも、殺したくない」

「マリア…」


魔王は家族を想うマリアへ向けた悲しい瞳に強い力を戻しスティグマへ向けた。


「スティグマ。お前は新世界において何故記憶を保っていられたのだ?」

「いっひひひひゃぁ、それはお見通しでないのか!なんだか嬉しいことですねぇ。簡単ですよ、私が計画を立てたのがずっと前だったからです。いかにトーマの力が大きいとはいえ、新世界を創ると言っても一から世界を創り直すわけではない。問題が起こり始める前の過去の世界を少し修正してやるだけ。つまりは時間を戻すだけなのです」

「確かに一から創り直すなど無理な事、戻される以前には誰もお前の悪意に気づけなかったしな」

「あんたはいつから俺の悪意に気づいた?」

「戦の魔女を冥界の更に闇へ連れ去る時だ」

「あっははははは!遊んでたのバレちゃってたんですねぇ」

「さもあらん。冥界から動きを封じたはずの我らの姿を戦の魔女が見えるはずがない。しかし確実にお前に剣を当てふりほどいたからな」

「戦のは勘がいいほうでしたから、たまたまかもしれませんけどねぇ」


マリアは二人の会話を理解できないでいた。


「魔女ってなんですの?トーマとは?」


魔王はソファーから立ち上がりマリアの傍らへ歩みよって言った。


「魔女はこの世界にはいてはならぬ存在。それはトーマの力により永遠に封じられた。トーマとはコノクニの守り神とでも言おうか」

「その守り神は、もういないけどねぇ」


嬉しそうにスティグマが口を挟んだ。


「マリアおねぇさまにもわかる様に説明するとね、コノクニを脅かす魔女もコノクニを守ってくれるトーマももういないのさ。そしてマリアおねぇさまには俺が魔術をかけてあるんだよ。俺を斬れない魔術をね」


ゆっくりと立ち上がり二人へと歩み寄っていくスティグマ。


「おねぇさまは強い。でも気を許した相手には魔力の防御が甘くなる。そこが弱点だよ」

「参考にさせてもらうわ」

「もう大丈夫。俺が楽に死なせてあげるから。心優しき魔王陛下は可愛い自分の子供を殺すことなんてできやしないしねぇ」


魔王は目を細め一瞬悲しい顔をしたがしっかりとスティグマを見つめながら言った。


「スティグマ、どうしても我が子を殺すと言うのだな」

「止めますか?いいですよそれには俺を殺さなければ無理、ですけどねぇ」

「止める。そして、お前にかかった呪いを解く」

「なに?」


スティグマが魔王に向いた刹那、魔王の身体はスティグマの目の前にあった。スティグマが身構えるより早く魔王の手がスティグマの右手を掴んでいた。


「力づくで俺を止めても無駄だ!死へ向かう術はいつでも発動出来る用意はできているのだからな!」

「これならどうだ?」


魔王の左胸にスティグマのナイフが吸い込まれるように刺し込まれた。


「なっ!なんだと!」

「魔王陛下!!」


マリアはスティグマを突き飛ばし崩れ落ちる魔王を支えた。転がったスティグマは呆然として虚空を見つめている。魔王は優しい顔でスティグマを見つめていた。


「これでお前の呪いは解けたよスティグマ。その呪いは私への罰。呪いに苦しむお前の手に掛かって私が死ねばその呪いも解けよう。ただ一つの悲しみはお前も親殺しにさせてしまったという事だ」


激しく口から血を吹き出しせき込む魔王。


「魔王陛下!キマイラを呼びます!もう話さないで!」

「いいんだマリア。これでスティグマを蝕む病魔は晴れる。スティグマ、お前の子に親殺しの罰が起こるかもしれない。完全に解放してやれず済まないな。マリア、今から言うことは最後の願いだ、必ずそうすると約束してくれ」

「わかりました、わかりましたから…」

「まず、スティグマを許してやってくれ。しばらく自分を取り戻す事はできないかもしれないが、回復したらきっとお前達に尽くしてくれるだろう。コノクニを守る一角として命の限りな」

「…わかりました」

「魔王にはカルマを。マリア、兄に譲れ。カルマが魔王城に入りカルマ城の守りはイガリマに。血の繋がりは秘してな」

「はい…」

「私は急な病にて倒れた、そうしてくれ。それとマリア、お前の子の名前だが「シャゲキ」とつけてやって欲しい」

「はい…」

「マリア、お前にも辛い役目を負わせてしまったな。済まない…後は…仲良くな………」

「魔王…お母様…」



優しい表情のまま、魔王は我が子の胸の中で逝った。



しばらくの後、マリアは魔王の亡骸をベッドへと運んだ。振り返ると崩れたまま動かないスティグマがあった。


「スティグマ、お前のせいで魔王陛下は亡くなったのかもしれない。しかしそれは魔王陛下の御心によってなされた事だ。私はお前を…許す」

「お姉様…俺には新しい呪いがかかったのではないのか…胸が苦しくて…目が熱い…」

「それが………親を亡くした子の哀しみだ。お前は魔王陛下を…家族を愛しているんだ」

「愛して………」




おわり

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