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今度は俺の番。まず、昨日の経緯から話始めた。
「俺の依頼は小学部からだ。最近は高校部からの依頼が多かったが、とある誼から受諾した。被害者は小清水大輝。小学六年生。依頼人は彼の担任の荒井教諭。同級生である七飯藍からの告発によって今回の事件は発覚したらしい。内容は端的に言えばドッペルゲンガー」
「ドッペルゲンガー?」
エンの疑問を待っていたとばかりにミソノは横から説明を始める。
「そう。この大輝って子は足が悪くて車いすでの生活を送っているんだけど、問題は彼にそっくりの人間が現れたってこと。その人物は決して彼の前には現れず、周囲の親しい人たちの前だけに姿を見せる。だからその性質からその不可思議な奴をドッペルゲンガーって呼んでるの」
間髪入れずに俺は続ける。
「まあ、俗に言われているドッペルゲンガーっていう都市伝説的なオカルト話では自分自身を自分で見る幻覚の一種のことを指すことが大半なんだけど、同じ人が同時刻に同場所にあらわれるような超常現象を言うこともあるらしいから、分かりやすいようにそう呼んでいる。本人だけが知らない、周囲の世界だけが騒がしいのが恐ろしいから何とかしてほしい。本人と、少女の願いだ」
「少女?」
エンは再び問う。大概の部分は黒のメンバーで共有しているので、基本的に質問をするのは彼しかこの場にいないのだから対話形式になってしまうのは仕方がない。俺は補足する。
「さっき名前が挙がっていた七飯藍という少女のことだよ。彼女は特に彼と親しい仲で、今回の奇抜な問題を訝しげに思っているようでな。そしてこれがスタードの案件と重なる部分だ」
「どう関連しているというんだい?」
これは最もなご意見だろう。今の話だけでは普通に考えるだけではまったくもって関連しているようには思えない。ましてや求職者の世界が変わるだけでドッペルゲンガーを消すことができるとは思えないだろう。助っ人を呼んでいたことを俺は知らなかったが心強い点では大いに賛成だ。だから俺は説明責任を果たす義務がある。
「大輝と上川のそれぞれ個人だけを見たら、それこそ赤の他人で縁もゆかりもないようにしか見えないが、それは個人的状況しか見ていないからだ。残念なのか、喜ぶべきかこの世の中は全てが繋がっている」
俺は少し冷め始めた珈琲をすする。ブラックだが苦さが抑えられている。
「例えば、世界はそれぞれ別に、個人やある特定の団体ごとに見れば別々に分かれているように考えたことはないかい? そうだな、ええと。具体的には信仰宗教ごとに違う世界。自分の住んでいる国ごとに違う文化や考えの世界。もっと身近で言えば学校の中で、隣のクラスと自分のクラスは別の世界を共有している、と考えることはできないだろうかということ。同じ学校にいるのにそれぞれが、各々が別の世界で生きていてそれの集まりが全体の世界が存在しているように見えるかもしれないんじゃないかってこと。大輝はクラスや学校での出来事が日々の大半を占める世界を生きていて、上川は就職活動に苦しむ時間が日々の大半を占めている。これはよく考えれば、実は当然で当たり前のように思えてしまうんだが、そうではないということ。なぜならこの考え方では常に主観的に見ているからだ。これは黒の一員として働いてきて、学べたことの一つだな」
俺は少しだけ声の調子を変えた。持論から話を戻すために。
「だから今回はそれを利用する。上川の世界を変えることで全体の世界に影響を与え、大輝の世界に関与させることでこれら一連の問題解決を行う。無論、ここまで回りくどいことをしている理由は白との戦闘を避けるためだ。なぜだが分からないが白は大輝の問題に深入りしている。俺とミソノはある程度戦うことが出きるが、他のメンバーは穏便に事を解決するために特化したものが多いから戦闘には不向きだ。正面衝突は避けたい。白の及ばない範囲のところからいつのまにか一気に解決! これが理想だ」
俺が話を終えた雰囲気を醸し出すと、反応は二分した。子供たち――主にミソノとマの三姉妹――は俺の言葉を噛み砕こうと必死だった。俺も自分で言っていてまとまり切っていなかったからあまりいい説明ではなかったと思う。言いたいことを完全に理解するのには少し時間がかかるだろうな。もう一方は細部については諦め、自分たちがこれから何をするのかを理解できたという顔を示した反応。エンを含めた作戦の主力部隊は大丈夫そうだったので、俺は子供たちに対してあやすような言葉を選んでもう一度言う。
「つまり、赤の光と青の光を混ぜたら紫の光に見えるが赤と青の光が消えてなくなったわけじゃあない。またずらせばまた元の赤と青になる。だけど、赤を緑にすると話は変わってくる。青と緑を混ぜた光は黄色になるからだ。同じように大輝の色を変えたかったら上川の色を変えてやればいい。そうすれば全体の色が変わり、大輝の色も変わる」
「ええ!? 今の説明だと大輝の色はそのままじゃない。片方の色が変わっただけだともう片方が本当に変わったわけじゃないんじゃ――」
俺はミソノの頭に手をのせてしっかりと教える。自分たちが何をしているのかを理解させるために。分かっていてこれから行動するのだということをしっかりと教える。行動に責任を与える。それが親だ。
「でも、変わったような気がするだろう。自分が変わらなくても周りが変われば自分も変わったのではないかと思える。だって、その変化を起こしたのが他の誰かなのか、自分なのかなんて見分けがつかないからな」
「――それって、騙してる」
「それが俺たちのやり方だ。本来の色じゃなくて、理想の色を当てるのが俺たちのやり方なのさ」
白はきっとこれを許さない。だって、彼女たちは純粋だから。正しさと真実と正義を追い求めているのだから。黒に染まる道を選択した俺たちとは持論が違う。
「よし。大方の方針はこれで共有できたと思う。ザキ、現時刻は?」
「午前七時ゼロ二分を数秒経過したところ」
「ありがとう。自分の時計にずれがあったら合わせるからあとで申告してくれ。作戦行動開始時刻は上川の面接が始まる十五分前の九時とする。配置と指示はメールで送る。あと二時間で各自準備と態勢を整えてくれ。じゃあ、あとでな。解散」
俺の言葉を合図にメンバーは席をそれぞれのタイミグで立ち、各自の振る舞いで全く違う方向へと歩き始めた。カップの片づけを始めた十六夜に「ありがとう」と声を掛けてから俺もミソノを連れてその場を後にした。
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