Turn3 B:3 W:5

Operation Start

「だいぶ集まったみたいだな。人数は……よし、じゃあ始めます。みんなおはよう」

「おはようございます」

「おはよう」

「おっはー」


 おい、ミソノ。お前は今何歳だ。俺は心から突っ込んだ。


「朝早くから集まってくれてありがとう。もしかしたらあまり見かけないかもいるかもしれないから軽く俺の方から今回の作戦メンバーを紹介していく。まずは今はなしている俺のフィルコードはシャドウ。このツインテールの小学生がミソノ。長身の好青年がスタード。人見知りの彼がザキ。以上が俺のチームとなる。続いて、十六夜のチーム。先ほどからずっとしゃべらずに無口な胸の大きいメイドがリーダーの裏名十六夜いざよい。十六夜側に座っている方から順にタチマチ、イマチ、ネマチ。タマ、イマ、ネマって呼ばれている。たぶんこの三人は俺のチームとは初対面になるのかな。それと、あとは――」


 もう一人メンバーがいた。しかし、どうしたことか俺は彼のことを知らなかった。男か女なのかさえ、フードを被った状態では判別することができず、どこのチームなのかもわからない。でも、この作戦は二つのチームで遂行するんじゃなかったっけ?


 俺があからさまに困惑していると十六夜が淡白に、簡潔に説明してくれた。


「アカの人。私の助っ人」


「アカ……?」


 俺が一層分からないというように考え込むと、今度は身内が助けてくれた。


「ア、アカと言うのは我々黒でもなく、ジェネシスでもない組織の人たちです。衝突の絶えない私たちと違って中立を最もとしています」


 ザキの補足を肯定するかのように十六夜もマイペースで続ける。


「そう。だから彼は味方でも敵でもない。でも協力はしてくれる」


「……そうなのか?」


 俺がこのように呟くと、あまりの疑心暗鬼さに辟易したのか、フードの男はその顔をはっきりと見せた。彼は随分と幼い顔立ちであった。俺はそのことに少し驚いた。なぜならば、彼の背は俺よりも高いかもしれないと思っていたからだ。まあ、俺も男子平均以下なので彼が特別高いわけではないのだが、それでも体格から想像したほど凛々しい顔でも大人びた顔つきでもなかったことは――俺のただの思い込みなのだが――俺にとって驚いた出来事の一つだった。俺のチームもそうだが、この戦線に参加している人間の多くが俺よりも若いことに驚くばかりである。もう慣れたことだと思っていたのに、それでもこのような有体であるということは俺が「またか」と嘆いているに違いないのだった。


 アカに属する彼はタイミングをようやく手にすることができたような声音で自己紹介をした。男性キャラなのに女性声優を当てているような、そんな声だった。


「申し遅れました。私、エンと申します。私たちアカについて、軽く紹介しておきますね。黒の皆さんが超能力、白の方々が兵器を使用するのと同様に私たちアカは魔法を使用します。私の場合は主に火とか炎ですね」


 そう言うと、エンは右手のひらに火の玉を出現させた。そしてそれが自分の能力であることを示すために火の大きさを変化させた。


「すごいな、エン。魔法なんて初めて見たよ。えっと、さっきも紹介したけど俺はシャドウ。今回の作戦の責任者みたいな者だ。よろしく」


「ええ、よろしくお願いします。責任者、ということは作戦の指揮は誰が執るんです?」


「俺だ。シャドウから紹介があった通り、俺はスタードと呼ばれている。裏名はスタンド。早速だが、今回の作戦について説明する。一度だけしか言わないからメモするか録音するか記憶してくれ」


 スタードは一枚のタブレットを取り出し、それを中心へ置いた。同時に十六夜はいい匂いが部屋を満たし始めた珈琲をカップに注ぐために席を立った。各自に飲み物が配れる中、ブリーフィングが始まった。


「今回の依頼者は上川進一。高卒、フリーター。進路希望として進学ではなく就職を希望していたが、うまくいかずにそのまま卒業。現在は短期のアルバイトを飲食店で行って生活費を賄いながら就活を行っている。彼の依頼内容は自分を変えること」


「えっ?」


 ミソノが思わず声を上げた。無理もない。俺たちが干渉できるのは個人に対してではなく世界そのものであるから。


「まあ、待て。身内だけじゃないから一応話しておくが、俺たち黒ができるのは世界を変えることだ。それも人々に変わったことを悟られないように、あたかもその世界が遥か昔からの歴史によって作られてきた世界であるかのように思い込ませること。今回もこれに則って、変えていくのは上川の周囲の世界ということになる。さっき飲食店で働いていると言ったが、上川は料理人になりたいそうだ。そのため、修行をさせてもらえるような店へ出向いたが断られた。その原因はその性格ではないか、と本人は言っている。上川はものすごい内気で、あまり社交的だとは言えない。少なくとも客観的に見たところではそう見られがちだ。まだ若く、技術も未熟である今できることは精いっぱい精進する姿勢とか、熱意とかってことになるんだろうがそれを伝えきれていないと、本人は思っている。人当たりの良い元気で明るい人間が評価され、そうではない自分が評価されないことがたまらなく嫌だってな。理不尽だってな」


「なるほど」


 エンが頷く。ミソノはその心境を理解できないのか眉間に皺をよせ、マの三姉妹――タマ、イマ、ネマのことを俺はそう呼んでいる――は大きくあくびをして目に涙を浮かべている。一番姉のタマは頑張って目を開けているが、イマは時折首を折る仕草を繰り返し、末っ子のネマに至っては少し前に机に突っ伏した。ちなみに年齢が上から十七、十四、十二である。ミソノよりネマのほうが一歳年上であるが、ツインテールが被っていることに対していつも不満そうである。これもまた蛇足だが、タマはポニーテール、イマは登頂にリボン――今日は水色のようだ――をつけていることが多い。


「繰り返すが黒の人間が行えるのは世界への干渉だけである。個人に変化をもたらすのは俺たちではない。強いて言えば、限りなく仕方がなく言えば白のメンバーだ。しかしだからと言って彼女たちのやり方を認めるわけにはいかない。任せるつもりも毛頭ない。だから変えるのはやはり見方であり、マザーの言う通り視点だ。もちろん今回の作戦にはマザーの了承を得て、修正された命が下されている。エンも作戦のメンバーなのだから、これには従ってもらう」


「ええ、もちろん」

「ざっくり言えば彼本人ではなく本人に対する見方そのものを、見る側の世界を変えるのが今回の作戦。いつも通りだ。白の連中に言わせればこれは偽りの世界を創ることにはなるんだろうが、しかし、俺たち黒はマザーの下で口を揃えて言うのだ。厳しい残酷な天使の透明な世界よりも、優しい嘘だらけの不透明な世界の方がずっと生きやすい、ってな」


 これには皆が頷いた。マの三姉妹も夢心地にカップを両手で持ったりしながら頷いた。エンは特に賛同もせず、かといって反論もせずに穏やかに聞いていた。


 スタードは続ける。


「また、さらにこの作戦はシャドウの依頼を解決する糸口にもなる。昨日白と一戦交えた件だ。実を言うとこちらの方が本命で、そのために助っ人まで呼んだ。久々にでかいオペレーションになる」


 朝日と静かな照明が部屋を可視化させる中、部屋の中を漂っていたのは緊張に包まれた空気だった。

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