明日の六時三分前に

「よう。待たせたな」

「来たか、スタード。何か飲むか?」

「じゃあ、コーラで」

「……そういうところは高校生っぽいのな」


 俺の前にはホットのブラック。ミソノは再び入れ直した熱いお茶でスタードはコーラ氷少なめをそれぞれの前に置いた丸を三つ繋げたような曲線状の机を三人は囲んだ。一息ついたところで、俺はまず礼を言うところから始めた。


「実は俺の、ミソノの担当案件で問題が起きてな。さっきスタードのカードを使わせてもらった。おかげで俺たち二人とも無事だ。ありがとう、助かった」

「いやいや。無事でよかったよ、ほんとに。それに僕の演算が役立ったことは素直に嬉しいいし。――で? 何があった?」

「白だ」

「――そうか。それは大変だったな。だが、襲撃があったということはその少年を狙っているってことなのか? だとしたらどうしてだ。何か白が探らなくちゃいけないような真実が隠れているってことだろうか。それはこっちにとって不都合な物なのか。それとも白にとって俺たちの行動が不都合だから妨害したのか」

「嘘で隠す前に、それを防いでやろうってことか? しかし、スタード。それでは俺たちの行動が筒抜けになっていることになるぞ。アジトかメンバーのどちらからか情報が漏れていることになる」

「ザキに聞いてみるか」


 スタードはそういうと自分のスマートフォンをスピーカー状態にしてザキとテレビ電話を始めた。


「ザキ。ここ最近アジトにハッキングが仕掛けられたとか、侵入者がいたとか、盗聴器が仕掛けられたとか、そういう異常はあったか?」

「……ぅぅ」


 ザキはものすごい小動物のような小さな声で怯えるように唸りだした。その声を聴いた俺はザキがどうやら考え中のようだ、と思った。ザキは見た目通りとてもシャイな性格なので、困惑したり真剣になったりするととても情けない声を出して考えるのだ。これは彼の癖というより、習慣とかルーティンとか言った方がいいかもしれない。つまりこの声は長身で高圧的な雰囲気のあるスタード本人に怯えているわけではないのである。ただのザキであり、普段通りのザキでしかないのである。


「おい! あったかって聞いてるんだよ!?」

「……ぅぅぃ」


 ――ザキはきっと施設のあちこちの状況を思い出しながらセキュリティーを弄っているのだろう。画面の向こう側からキーボードを打ち込む音が聞こえているしな。だから、これは怯えているのではない。安心して答えを待つべし。


「おいコラァ! 返事ぐらいすれやザキ!」

「怯えてないか!? 委縮してないか!? 大丈夫かザキ!?」


 思わず突っ込んでしまった。だけど、さすがに心配になるよ。もう少し落ち着いて、優しい言葉は掛けられないのかよ、スタード。


 だがしかし、この心配自体が俺の杞憂であった。


「ああ、大丈夫だよ、シャドウ。僕は追い込まれるほど能力を発揮しやすいタイプだからね。ギリギリとか、急を要するとかそういうのは大歓迎なんだよ」

「――おい、シャドウ。俺たち何年一緒にやってきていると思ってるんだ? 本気で言っている訳がないだろ」


「すまん。つい、な」


 いや、どう見ても、何回見ても虐められているようにしか見えないぜ……。


 俺は彼らの彼らなりのやり方を冷め始めた黒い液体をズズっとすすりながら目を細めながらみていた。


「僕の記憶の限りだとそれはないな。ハッキングも侵入も盗撮も盗聴も偵察も、このアジトがばれているという様子もなかったように思う。だけど、それはあくまでも僕の記憶でしかないので、今セキュリティーと他のメンバーから寄せられた情報を精査していたんだけど、今のところ特になさそうなんだ。バックドアとかウイルスとかもチェックしてみたけど普通のハッカーの物ばかりで脅威なし。白の方から何らかの接触を試みた形跡はないと断言できるよ」

「そうか、ありがとうザキ」

「ありがとな」


 俺たち黒の妨害を目的に計画的に行われたものではなさそうである。ということは、白のメンバーは自らの意志で、その意思と信念に従って行動していた。その結果偶発的に遭遇したと考えるべきか。だとすると、あの少年の問題は今後の中で大きな意味を持つことになるだろう。これは俺個人の意見でも、チームだけで今後の方針を決定することができるような問題ではなくなってきた。


「なあ、スタード。これはただの一案件だけではなくなるかもしれない。マザーの意見を伺うべきじゃないかと、俺は思う」

「そうだな。お前にも失敗の言い訳とか弁解を言う余地ぐらい必要だろうからな」

「なっ……? そんなんじゃねえよ。これは白と黒が交わることは避けられない状況だから、安易に行動するのは危険だっていうことで、そもそもこっちと向こうじゃ戦力差が桁外れに違いすぎているからこそ――」

「分かってるよ。お前の方から連絡をつけておいてくれ。他のメンバーには俺がシグナルを送っておく」

「分かった。助かる。じゃあ、明日の六時三分前に」

「六時三分前に。お休み、黒の裏側シャドウ

「お休み、黒の傍側スタンド


 俺たちはここで解散した。俺はミソノの頭を撫でてから階下へ降りるために、階段の方へ足を向けた。

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